知らない人がウォーゲームと聞いて想像するのは、やたらルールが多くてヘクスマスで区切られたマップ上で部隊レベルの軍隊や個別の戦闘車両や艦船を動かして戦闘をシミュレートするものかと思うのですが……
主計将校:第二次世界大戦の補給戦そして拡張の主計将校:総力戦 拡張
はルール自体は少な目な戦略級のウォーゲームです。
主計将校:第二次世界大戦の補給戦 ――
ゲームでは米英ソの連合国側と、日独伊の枢軸国に別れてプレイするチーム戦のゲームとなります、勝利条件は、20ラウンドにわたるゲーム終了時、プレイ中各国の拠点を支配することで得られる勝利点で相手陣営を上回ること。もしくは、ゲーム中であってもラウンドの終了時に30点以上の差がついていれば早期終戦となります。
プレイヤーはそれぞれ自分の受け持つ国別のカードデッキとコマ類をを受け取ります。
こちらのデッキの枚数や構成は、国ごとの国力やドクトリンなどを反映し、異なったものとなっています。
またコマ数により各国の限界……最大進出範囲がおのずと決まります。
1ラウンドの手番は独→英→日→ソ→伊→米の順に進行します。
この順番がよく考えられていて、各国の戦略的な立ち位置が反映されており、自然に史実らしい展開になるデザインとなっています。
各手番ではカードを1枚(だけ)プレイするか、(使えるカードが無ければ)1枚捨て札にします。
手札はゲーム開始前に10枚引いて、3枚を捨てる必要があり、最初の手札から戦争計画を立てなくてはなりません。
カードの種類は……
本拠地か補給下の自軍スペースに隣接し敵軍隊のいないスペースに軍隊コマ1個を置く「陸軍/海軍の設立」(各スペースには自国の軍隊コマは1個のみしか置けません……部隊がいるかどうかではなく支配下にあるかどうかのマーカーと考えるとよいでしょう)。
そして補給下の自軍スペースに隣接している的軍隊コマ1個を取り除く「陸戦/海戦」……取り除くだけなので、そのスペースを獲得するには次ラウンドに軍隊の設立などで軍隊コマを置くなどしなくてはなりません。
なお、これらは共通のカードですがそれでも国ごとに枚数は異なります……最大決戦回数は国により異なるので、自分のデッキの内容を把握しておくことは重要となります。
そのほかのカードはカテゴリーも枚数も国によって異なり、またそれぞれ効果が異なるものとなりますが……
使用し捨て札にすることで効果が得られる「イベント」
《民主主義の兵器廠》はアメリカのイベントカードで、イギリスに陸軍と海軍を設立させるのだ……
あらかじめ裏向きでプレイしておき、条件が満たされた時に表向きにして効果を発揮し捨て札にする「対応」
《防御的配置》はイギリスの対応カード……ドイツが本土に上陸しようとしたときに効果を発揮しそうだ……
使用し捨て札にすることで相手のカードを捨てさせる「経済戦争」
《報復兵器》、つまりV1やV2 号兵器。なお、アメリカの経済戦争カードはもっとえげつない。
プレイすることで場に残り続けて効果を発揮し続ける(もしくは条件を満たしたときに能力をプレイできる)「情勢」
《正面攻撃》はソビエトの情勢カード。「陸スペースで戦闘した時」にカードを1枚手札から捨てることで効果を使うことでき、その陸スペースか隣接する陸スペースで戦闘できる。
たとえばこの場合、バルカン半島から東ヨーロッパを陸戦で攻撃してドイツの陸軍コマを取り除き、その後ドイツ本土の陸軍コマを取り除ける……カードプレイとは別に使用できるのでアクション数が増えるようなものだ!
……などがあります。
移動や戦闘の概念はかなり抽象的なものとなっており、実際に軍隊が動いているだけではなく「様々な要因で影響下にあるスペースを増やしたり敵国の影響を取り除いている」と考えると理解しやすいでしょう。
カードプレイが終わったら、盤面の軍隊コマの補給状態を確認します。
補給下に無い軍隊コマはこの時点で取り除かれてしまいます。
補給の原則は、その軍隊コマから自国が支配している補給スペースまで、自国支配スペースを通じてたどることができるかで判定します。
こちらはソビエトの《毛沢東》により中国スペースを失ったため、次のカードプレイでフィリピンか中国に陸軍を設立しないと、東南アジアおよび南シナ海のプレゼンスを失う日本帝国の図。
海軍コマは補給スペースがつながっていることに加えて、自国もしくは同盟国の軍隊コマのある陸スペースに隣接している必要もあります。
日本→日本海→中央太平洋とスペースはつながっているものの、中央太平洋に隣接する陸地に日本もしくは独伊のコマが無いため補給切れになる日本帝国海軍の図。
補給の確認をしたあとで、勝利点は自軍が支配している補給スペースごとに2点、自軍と味方軍隊がいる補給スペースについては1点を獲得します。
(ただし自国本拠地が占領されている場合は得点フェイズをスキップしますので注意……モスクワが的軍隊コマに支配されたソビエトは、ウクライナを支配していても点数は獲得できませんし、カードの効果で点数を得るものがあっても手順自体がスキップされているので獲得できません。
そして、好きな枚数だけ手札を捨て、手札が7枚になるまで補充します。
プレイした1枚だけ補充だと、手札の状況如何では、全く何もできなくなってしまうのである程度価値をなくしたカード(もしくは相対的に価値が低いカード)を捨ててしまい、有用なカードを引くようにすることも考えなければなりません。
しかここで重要なのが各国のデッキ枚数です。少ない順で行くと……
イタリア 30枚……ゲーム開始前に10枚引いて3枚捨てるので、ゲーム開始時点で山札は20枚。日本34枚。ドイツ 41枚(ただし捨て札することで能力が使える情勢カードがあるため潤沢とは言えない)。
これが枢軸国の国力。
対するはソビエト34枚、イギリス40枚、アメリカ41枚(しかも捨て札を山に戻すような効果の情勢カードまであるし、敵の山札を削る経済戦争カードも潤沢)と上回っています。
山札が尽きた場合は、カードが引けなくなりますし、手札がなくなって捨て札できない場合は捨てることができなかった1枚につき勝利点が1減ります。また「経済戦争」などで山札から捨て札しなければならないのにできない場合も同様に捨てられない1枚につき1点を失います。
必然……枢軸国は短期決戦を目指し、連合国側は長期戦となれば有利となっていくため序盤は勝つことより負けない方針を取っていくことになります。
そのためには「自国の目標は達成しつつ相手には何もさせない」行動が求められますが、しかしながら、巧みに設計されたちいきえりあスペースの隣接と手番順、比較的厳しい補給ルール、ハンドマネジメントを必要とするも国力やドクトリンにより非対称となる状況など、プレイヤーが判断しなければならないことは多岐にわたります。
このように、各国が置かれた戦略的状況がコンパクトにおさまったデザインとなっており、プレイ自体は「毎手番カード1枚をプレイする」ことに集約されるためプレイもしやすく、またゲーム中の展開自体も史実からダイナミックな変化を見せる場合もありますが、おおむね史実通りの決断を必要とされる展開となり、初心者から上級者までプレイしやすいゲームとなっています。
主計将校:総力戦 拡張――
さて ―― 拡張では以下の要素が加わります。
・フランス軍と中国軍
またフランスは米英、中国は米ソのカードで登場し、フランスはイギリスの得点ステップ中に、中国はアメリカの得点ステップ中に勝利点を獲得します。
この追加によって、西ヨーロッパおよび中国へは多少なりとも攻めにくくなるのではないでしょうか?
・空軍
第一次大戦で戦場に投入されて以来、より高く、早く、遠くへと発展を遂げた航空機は、第二次世界大戦ではその用途も戦術的なものから適地深く進攻し生産力を打撃する戦略空軍の概念が生まれ(「経済戦争」カードにいくつかそのようなカードがあります)、その防御手段としても重要なものとなっていきました……
『主計将校』では、カードプレイステップと補給ステップの間に空軍ステップが設けられ、空軍カードをプレイして捨て札にすることで、空軍コマを設立したり移動させたり(補給下にある自軍の陸/海軍コマがあるスペースにのみ置けます)、隣接する敵の空軍コマを取り除いたりできます。
空軍の利点は、陸軍コマを取り除かなければならない時に、同じスペースの空軍コマを代わりに取り除くことができる点です。
ただし、攻撃側に空軍がいる場合、防御側が空軍コマを取り除いた場合ですが、攻撃側は空軍コマを取り除くことで相手の陸/海軍コマを取り除くことができます。
例えばこのような状況でドイツがウクライナの陸軍に陸戦を使用した場合①、ソビエト空軍を取り除くことで陸軍コマを取り除くことを防ぐことが可能です②。
しかし、敵のこの「防御対応」に際し、ドイツ空軍コマを取り除くことでソビエト陸軍コマを取り除くことが可能となります(「攻撃対応」)。
プレイステップが「カードのプレイ」→「空軍」の点に注意してください――空軍を配備するだけで、そのスペースの防御力は著しく増大するでしょうし、対抗するには隣接するスペースに空軍の設立が必須となるでしょう。また、空軍力カードで積極的に相手の空軍コマを取り除く必要性も出てきます。
・新たなカード
上記の変更分を含めて、新たなカードが加わります。
新たなカードタイプとしては、上記の空軍のための空軍力カードのほかに、条件を満たしたときに手札から直接捨て札にすることで効果を発揮する「増強」カードが加わります。
空軍のためにカードを消費する必要があるとはいえ、総じてカードプールが増え、またカード内容自体が戦略的選択肢を増やすものであるため、プレイの際しての選択に関して、より柔軟な試行が行えることになると思います。
ルールの難しさに関しては昨今の軽めのボードゲーム並みですが、第二次世界大戦の流れをうまくまとめており、プレイしやすくまた比較的短時間で終わる戦略級のシミュレーションゲームとして拡張セットともども揃えておくことをお勧めいたします。
主計将校:第二次世界大戦の補給戦
プレイ人数:2-6人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:90-120分
製作:Ares Games / Griggling Games, Inc.
デザイン:イアン・ブロディ
価格:6,000円+税
主計将校:総力戦 拡張
プレイ人数:1-6人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:90-120分
製作:Ares Games / Griggling Games, Inc.
デザイン:イアン・ブロディ
価格:4,500円+税