 
    第七話『ダークギルディオン』
 炎が、視界を満たしていた。
 体が焼け付くように熱い。
 すべてが、砕けていく。砕け散っていく。
 街も、木々も、そして人も。
「バーン!」
 瞬兵はバーンの名を呼ぶ。
 だが、それに答えたのは、彼の眼前に崩れ落ちる巨大な水色のロボットの姿だった。
「バーン!」
 バーンのカメラアイが力なく輝くと、その巨体が縮まって、小さなVARSの姿に戻る。
 それっきりだ。
 駆け寄った瞬兵の手の中で、バーンはもう動かない、喋らない。
「そんな……」
 瞬兵はどうしていいかわからなかった。
 腕に装着したバーンブレスも輝きを失い、VARSの隊員たちも答える様子は無い。
 たったひとり、瞬兵だけが燃える街に取り残されている。
 その時だ。
「シュンペイ……」
 懐かしい声がした。
 忘れるはずもない声だった。
「ヒロ!?」
 炎の中、瞬兵は声のしたほうへと走る。
 そこに立っていたのは、確かに彼の友人、洋の姿だった。
「無事だったんだね、ヒロ! よかった。ボク、ずっと心配してたんだよ……」
「シュンペイ……」
 洋の唇が、かすれるように動いた。
 吐息とともにこぼれたのは、
「助けて」
 という言葉だった。
「ヒロ!」
 だが、瞬兵が手を伸ばすと、その姿はかき消えてしまう。
「ヒロ……!?」
「消えろ」
 代わりに聞こえたのは、ひどく冷たい声だった。
 振り返る瞬兵の前に、マントを羽織り、不思議な衣装をした仮面の少年が立っている。
「え」
 その瞳には、瞬兵の知らない感情があった。
 殺意、である。
 幼い少年には知るよしもない、呪わしくおぞましい黒い意思。
「消えてしまえ!」
 仮面の少年がのばした手の先が、黒く輝いた。
 渦を巻いた光が、瞬兵を飲み込む。
「うわああああああああああああああ」
 瞬兵の肉が骨からこそぎ取られ、全身をすさまじい苦痛が満たす。
 だが、それ以上に、冷たい悲しみが瞬兵の心に流れ込んでくるのがわかった。
(これは……あのコの……!?)
 が、その疑問が明らかになるより先に、瞬兵の意識は闇に溶けて、消えて行った。
 * * *
「!」
 目ざめると、そこは見慣れた自室のベッドの中だった。
 温かい日差しが、窓から差し込んでいる。
「夢……」
 そう、何もかもが夢だったのだ。
 だが、瞬兵のパジャマと皮膚はぐっしょりと濡れていた。見つめる手の平に、じっとりと脂汗が浮かぶ。
 あの苦痛も、あの悲しみも、まるで本当のことだったように、瞬兵には感じられた。
「大丈夫か、瞬兵? 苦しんでいたようだが……」
「ありがとう、バーン。大丈夫だよ」
 案ずるバーンにそう答えたあとも、瞬兵はしばらくの間、じっと窓の外を見つめていた。
 * * *
 同時刻。
 グランダークの居城では、幹部のひとりであるギルティが片膝をついて、頭を押さえていた。
 その姿を瞬兵が見たら驚愕したのは間違いない。なぜならば、夢で見たあの仮面の少年そのものであったからである。
「なんだ……何がオレの中に入り込んでいる……?」
 ゆっくりと立ちあがったギルティの背後に、カルラが立っていた。女の姿をした、グランダークの部下である。
「調子が悪いようね」
「なにか、用か?」
 グランダークの一党にいたわりや友愛などというものはない。ギルティの言葉はひややかだったし、カルラのほうも心配をした、ということではなく、単に政敵の不調を訝しんでいるだけのことだった。
「地球に行くつもり?」
「そうだ。このまま消耗戦を続けても、バーンガーンは倒せん」
 「何を企んでるか知らないけど、下手な小細工はしないでね。セルツ様の代わりだなんて、私は認めてないから!」
 セルツ、という名に、仮面の下の眉がわずかに動いた。
 ナイトメアの最高幹部であったセルツは、地球侵略が始まったその時に姿を消し、その代わりにギルティが後継者として任じられたのだ。そのことをカルラがよく思っていないことは明白である。
「おまえに認められる必要などない」
「……!」
 マントを翻して、闇の中へとギルティは歩き出す。
 その足取りにはもはや、苦痛の色はない。
「ギルディオン、出撃するぞ」
 * * *
 それは、突然に始まった。
 轟く爆音。
 激しく揺れる地下基地。
「敵なの!?」
 姉、愛美がスタッフを叱咤する。
「直上! 見たこともないタイプですわ!」
「自衛隊のレーダーには完全にヒットしていません!」
「……!!」
 モニターに映し出されていたのは、禍々しく、血のように紅いロボットだった。これまで送り込まれてきたナイトメアの破壊ロボットの、人間を戯画化したようなスタイルとは違う。
 むしろ、その姿は――。
「バーンに、似ている……!?」
 そう、それは“人型”だった。
 メカであるならば必要もないほどに、人のフォルムに似た姿。
 それを見る瞬兵たちは一様に、バーンのことを思い出していた。
 いや、それだけではない。
 紅いロボットのすぐ側に、人が、浮いていた。
 マントを羽織り、歪んだ仮面をつけた少年の姿。
(あれは……夢で見た……!)
「やつらに、この基地のことがわかっているのか!?」
 ポケットのバーンが、少し焦ったような声を出した。
 これまで、破壊された臨海ドームに偽装したVARS基地はあくまでバックアップに徹してきた。ここがバーンの基地であることは、ナイトメアに悟られてはいないはずだった。
 が、今、敵はこのドームを中心に空襲をかけてきている。それは紛れもない事実だ。
 罠だろうか?
 たとえば、海浜ドームが基地だとわかっていなくても、このあたりにバーンガーンの基地があると推理して、陽動作戦をかけてきている、というのは考えられることだ。
「わかんない……でも、とにかく行かなきゃ!」
 だが、そうだとしても、瞬兵にはひるむゆとりはなかった。
 目の前で燃え上がっている街は、ゲームの画面でも、瞬兵の悪夢でもない。現実に、人が暮らしている彼の故郷なのだ。
「……よし、行くぞ、瞬兵!」
 瞬兵とバーンは走り出した。
 海浜ドームの地下からは、いくつものリニアシャフトが張り巡らされ、ドームの周囲に出現できるようになっている。バーンガーンが現れたからといって、即座に海浜ドームが基地だと断定されることはないだろう。
 瞬兵はためらわずリニアシャフトに飛び込んだ。
(そうだ……ボクとバーンがやらなくちゃ……! この街を守れるのは、バーンガーンだけなんだ……!)
 * * *
「龍神合体! バーンガーン!」
 燃え上がる街を背に、これよりは一歩も通さぬという気迫とともに、バーンガーンが出現する。その額の宝石の奥には、瞬兵の姿がある。ひとりと一機は一心同体、幾度となくナイトメアから人々を守ってきた勇者の姿だ。
 瞬兵がいるのは絶対防衛領域(アブソリュートディフェンスエリア)。バーンガーンの中枢部にして、もっとも強靱なバリアで守られている空間だ。バーンガーンの足下はもとより、VARS基地などよりもよほど頑丈で、戦闘時にバーンに指示を出すにはこれ以上の場所はない。
 だが、紅いロボットはこれまでのナイトメアのように、問答無用で攻撃を仕掛けてくることはなかった。
 それどころか、少年の姿をしたナイトメアは、まるで瞬兵を招くかのように、両手を広げてみせたのだ。
「シュンペイ、待っていたぞ」
「えっ!? どうして、ボクの名前を!?」
「…どうして?…フフフ、どうしてだろうな?」
 少年は宙に浮かんだまま、座ったようなポーズでとぼけてみせた。漆黒のマントが悪魔の羽根のように風にたなびいて、怪しく揺れる。
「我が名は、ギルティ……“絶望の化身”」
「ギルティ? ……“絶望の化身”?」
 瞬兵の声に、ギルティはニヤリと笑った。
「そう、全ては“絶望”に始まり“絶望”に還る。全ての人間が“絶望”に染まる時、新しい世界が始まる」
 いちいち芝居がかった仕草でギルティは答えた。ギルティが言葉を発するタイミングに合わせ、ギルティの頭に巻き付いている金色の輪に付いた眼が点滅する。
「お前たち人間の“絶望”が、グランダーク様完全復活の糧となる」
 不敵な笑みを浮かべ、天を仰ぐギルティ。
 紅いロボットに黒いプラズマが集積する。
 これまで以上の空襲をかけようとしているのは、明白だった。
「キミは!?」
「あれが子どもの姿をしていても……ナイトメアだ!」
「うん、わかってる! 止めよう、バーン!」
「ああ! スパークキャノン!」
 バーンガーンの背部に備えられたスパークキャノンから、闇を切り裂いて稲妻が放たれる。
 だが、紅いロボットと少年は、その稲妻をひらり、とかわしてみせた。
「人間は、脆い。我々の力で“絶望”の底に沈めることなど造作もない。そう焦るなよ。聖勇者……」
 ギルティのアイマスクの眼が光り、指を鳴らす。
「来い、ダークファイター」
 * * *
「バリオンとボソンの異常集積を感知! こらやばいで姉御、あのナイトメア、空間に門を開けとる!」
 VARSのオペレータールームで、逢坂まさるが天を仰いだ。何もかもがこれまでのナイトメア・ロボットとはグレードが違う戦いだった。
「! 空間を操れるって……バーンガーン並みの出力があるの、あのVARSもどきは!」
 * * *
「暗黒合体!」
 夜空が、割れた。
 文字通り、空間そのものが裂けたのだ。
 引き裂かれた空を切り裂いて、黒と赤で塗り分けられた凶鳥のごとき飛行マシンが現出する。そのサイズは、ガーンダッシャーとほぼ同等だ。
「まさか……!」
 紅いロボットが、ギルティが、ダークファイターと呼ばれた飛行マシンに吸い込まれていく。
「あれは……まさか、私と同じ合体システムか!」
 ダークファイターはそれに答えず、ただバーンガーンに一瞥をくれただけだった。
 漆黒の雷光を纏い、ダークファイターが巨大な翼を持つ人型ロボットへと変形していく。
「これこそがダークギルディオン! おまえたちに与えられる、“絶望”だ!」
「ダーク……ギルディオン……!?」
「手始めにお前たちから連れていってやる!  “絶望”のドン底にな!!」
 ダークギルディオンの手の中にプラズマが収束すると、漆黒のショットガンが顕現した。
「死ね! バーンガーン!」 
「ぐっ!」
 バーンガーンは身を翻したが、黒い散弾の何発かが装甲に食い込み、表面を砕いた。
「ダークサーベル!」
 その隙を見逃すダークギルディオンではない。急降下すると、左手に出現させた剣でバーンガーンを切りつける。これもバーンガーンのランサーで受け止めたが、ギリギリのタイミングだった。
(あのロボット……バーンガーンのクセを知ってるの……!?)
 じりじりと、バーンガーンの機体がつばぜり合いの体勢のまま、押し込まれていく。
 * * *
「お姉さま! ダークギルディオンのエネルギー・パターン、過去のデータと一致しました!」
 解析を進めていたひろみが顔を上げた。
「え!? どういうこと!?」
「バーンが臨海ドームに出現した時に、ドームを破壊した赤いエネルギー球体……あれと一致します!」
「ヒロが消えた時の……じゃあやっぱりあれは!」
 * * *
 それが意味するところを、瞬兵もまた理解していた。
 紅いロボットのフォルムには確かに覚えがあった。こちらのクセを知っているあの動きも。
 そして……あの少年の姿をしたナイトメアも。
「キミは!…… ヒロ!!  ヒロなんだろ!」
 ギルティは答えない。
 だが、瞬兵は叫ぶ。
 バーンガーンの機体を通して、声はダークギルディオンの内部へと伝わっているはずなのだ。
「間違いない!  あの夢に出てきた……“助けて”って……ヒロ!!」
 そして、その声は確かに届いた。
「……シュンペイ……!?」
 それは、聞き覚えのある懐かしい声だった。
 バーンガーンの機体内に投影された映像の中で、苦しみながらも、少年は確かにヒロの声で、答えたのだ。
「ヒロ……!?  やっぱりヒロなんだね!」
「……シュンペイ、いまのオレは“悪い意識”に支配されてる。逃げろ!  コイツは、危険だ!」
「バーンガーン、攻撃をやめて! あの中には、ヒロが、ボクの友達がいるんだ!!」
 ランサーを振り下ろそうとしていたバーンガーンの手が止まった。いつでも、バーンガーンは瞬兵の言葉に耳を貸してくれる。
「だが……今ダークギルディオンを止めなければ、街が!」
「わかってるよ、それでも!」
「く……!」
 バーンガーンにも、ギルティと名乗った少年の異変はわかっていた。いや……ギルティという名のナイトメアが、洋という少年に憑依しているのかもしれない。そして、瞬兵の言葉が洋の意識を目ざめさせようとしているのやもしれぬ。だとしたら、それに刃を向けることは、聖勇者のなすべきことではないのだ。
 しかし、ダークギルディオンの脅威もまた厳然たる事実だ。
 戦うべきか、退くべきか。
 バーンガーンの心に、迷いが生まれたその時。
 彼の耳――いや、聴覚回路とでもいうべきものに、聞き慣れた意識体の声が響いた。
「バーンガーン! オレだ!」
「……!? ま、まさか……!」
 聞き覚えのある“声”だった。バーン同様、アスタルの下で修業に励んだ同じ聖勇者の声。
「今は、退け!  いまのお前では、この“絶望の化身”を倒せない!」
「やはり、スペリオン!」
 バーンは友の名を呼んだ。忘れるはずのない名であった。
 宇宙の果てのどこかで、同じようにグランダークと戦っているはずの名である。その友が、変わり果てた姿で目の前にいる。その衝撃は、瞬兵のものに勝るとも劣らない。
「お前は、グランダークとの戦いで……」
「あぁ、オレとしたことが、グランダークに捕らえられ“絶望の化身”として復活させられた」
「そんな……まさか!」
 聖勇者が敗れるというだけでも信じられないことだったが、聖勇者すらナイトメアに変えてしまうグランダークの力は、アスタルから聞かされていた以上のものであった。
「時間が無い! ヤツの支配が戻ったら、オレはお前を倒さなければならない。逃げろバーン! オレにはまだ……!」
 刹那。
 ギルティは頭に手をあて、ダークギルディオンは唸って、再度ヒロとスペリオンの意識を乗っ取った。
「……こざかしいまねを……おしゃべりは、終わりだ!」
 ヒロ、いや、ギルティの殺意に満ちた絶叫とともに、闇の刃が繰り出される。バーンガーンは回避するのが精一杯だった。
「ギルディオン! スペリオンを返せ!」
「洋を返して! ギルティ! 洋の中から出ていけ!」
 ふたりにできるのは、叫ぶことだけだ。
 叫びが、もう一度洋とスペリオンの心を解放するのではないか、という期待があった。
 だが、ギルティの返答は、瞬兵の予想もしないものだった。
「おい……オマエ、なんか、かんちがいしてないか?」
 ギルティは左目に手をあてて、洋の目を隠し、リングの端に怪しく光る赤い眼を光らせた。
「オレはコイツに取り憑いてなんかいない」
「!?」
「オレはコイツのいわば“アザーサイド”。オレはヒロ……坂下洋自身の心の“絶望の化身”だ」
 片目だけ見えているヒロの目だけが、一瞬だけヒロの目の光になる。
「ヒ……ヒロ?」
「シュンペイ、何にもわかってないんだな……反吐が出るぜ」
 赤い眼が炎のごとく燃え上がった。
「お前は、いつだって友だちに囲まれ、家族にも愛され、生活にも恵まれ……」
 そういいながら、拳を握る。
「!? ヒロ?」
 また、一瞬ヒロの姿がギルティにダブった。
「なに不自由なく生きてやがる。先の見えない未来に対する悩みも、行き場のない境遇に対する怒りも、耐え難い過去の挫折も、抗えない現実への憎しみも知らない!」
 その言葉は、闇の底から湧き出すような怒りにまみれていた。
 瞬兵のまだ知らない感情が、そこにあった。
「許せないんだよ! わかるか? シュンペイ! オレはな、そんなお前が大っ嫌いだ!! 虫唾が走る!」
「……ヒロ!」
「イヤ、ちがう。チガウ……そんなこと思ってない。シュンペイのことがうらやましい。ねたんでいるんだ……オレは……」
 姿はギルティだったが、その言葉の中には確かに、洋の姿も見え隠れする。
 徐々に、瞬兵に対して話すのではなく、ギルティと洋が互いに語り掛けるような口調になっていく。
「だから、それはつまり、シュンペイを憎んでいるってことだ。アイツはオレが持っていないものを全部持っている……」
 静と動、言葉の抑揚が、洋とギルティの間の葛藤を表しているようだ。
「両親を亡くし、親の愛情を知らず、家族を知らず、生きるために自分を殺し、周囲に溶け込まず、大人からみていい子でいることで自分の居所を探してきた」
 この言葉の主は洋なのか?ギルティなのか?
「そこにお前が、シュンペイ、お前が目の前に現れた。無防備に、無垢なまま、真っ直ぐな目で懐に飛び込んできた」
「ヒロ……」
「……ねたんでいるんだ、オレは…お前のことを」
 そう言うと、ギルティはダークギルディオンの中に完全に溶けていった。
「ヒロ!!」
 瞬兵の叫びは、届かない。
 ダークギルディオンの胸にある凶鳥のレリーフが口を開き、漆黒の火焔を吐き出す。
「ダークネスフレア!!」
 焔が、ついにバーンガーンを捕らえた。
 * * *
 VARSの司令室が激しく揺れていた。戦闘の衝撃は、急ごしらえのシェルターの耐久度を超えつつあった。
「バーンガーンのダメージ、すでにレッドゾーンに達しています! このままでは、いくら聖勇者のバーンガーンでも……!」
「……ここも、ヤバイみたいやな」
 まさるのセリフには余裕がなかった。本当の本当に、VARS基地の危機なのだ。
「いま、ここを失うわけにはいかない!  瞬兵!  バーンガーン!  戦うのよ! 戦わなければ、洋だって助からないのよ!」
「わかってる……でも、ヒロと戦うなんて……ボクにはできないよ!」
(瞬兵には、酷すぎる現実か……!)
 愛美にも、実のところどうしてよいかわからなかった。
 瞬兵は軍人でも、戦士でもない。友に刃を向けろ、などと言えるはずがない。それを言ってしまえば、愛美と瞬兵が守ろうとしている何か、とても大切な何かが壊れてしまうからだ。
 * * *
「とどめだ」
 焔に焼かれ、膝をついたバーンガーンの喉元にダークサーベルの刃先が伸びる。
「死ね、聖勇者」
 ダークギルディオンの冷たい声が、廃墟に響く。
 その時だ。
 温かい光が、バーンガーンを――いや、額の宝石の奥で叫ぶ瞬兵を包み込んだ。
「――!」
 その光を、ギルティは直視できなかった。
 圧倒的な光だった。
「撤退だ、ダークギルディオン」
「ギルティ!?」
「帰るぞ!」
 ダークギルディオンは、それ以上主の言葉に反駁しなかった。
 ただ、黒い翼を羽ばたかせ、夜空へと消えただけだった。
 後に残されたのは、深く傷ついたバーンガーン。
 瞬兵の行方は、いずことも知れなかった。
          
 
                 
            