novel

第五話「誕生、VARS」

 そこはどこでもあって、どこでもない空間であった。
 時が時として流れることがなく、場所が場所として有ることをせず、ただ想念の中、悪夢を夢見る人の心の中にしか存在し得ぬ、そんな場所である。
 光源はいずこにあるのか判然とせず、いかなる幾何学でも記述しえぬ奇っ怪な列柱の落とす影はときおり不気味に蠢き、吹きすぎる風ですらあたかも人ならざるものの叫びのように聞こえた。
 広間にはまるで果てがないように見え、地平線よりも遠い彼方にただ闇が広がっているだけであった。
 その中央にそびえる漆黒の玉座は、世界すべてに対して捧げられた墓標とも、空間そのものに広がった汚点のようにも見えた。
「失敗に終わったか……」
 広間に、"声"が響いた。
 大気を震わせる音声ではない。
 想念である。
 人を呪い、世を呪う想念が、空間を圧し、"声"として聞こえたのだ。
 玉座に、大きな"モノ"が座っていた。
 "モノ"から発せられる声は、ビリビリと辺りに響き渡った。
 その場に響き渡る、低く重い、苛立ちを湛えたその声は、目の前で膝をつく三人の人物をこわばらせた。
「はっ……」
 漆黒の、マントを纏い、まるでバンパイアのような姿の男、頭に片方の目だけにかかるようにズレたリングを被っている。
 その奥にあるであろう眼と、リングの端に目のように象られた文様が、何とも言えない怪しい光を放つ。
 三者の眼前、玉座の前には、合体したバーンガーンの勇姿が立体映像として映し出されている。〈ガニメデ〉型のロボットを叩き潰し、追い詰めていく蒼いロボット。
 それが映像を見るものたちにとって不都合であることは言うまでもない。
 大いなる怨敵、アスタルの眷族である聖勇者が、形をとって降臨したということだ。
「勇気を司る聖勇者、バーン」
 もう一つの影が、声を上げた。
 片翼の黒天使……女性型のその影は、大人の女性にも、子どもにも見える。
 その眼は光鋭く、バーンガーンを睨みつけている。
「ここ、今回は小手調べなんだな」
 三番目の影は他の二人とは明らかに違った。
 体は全身緑色、半裸に見えた。
 先ほどの天使の羽とは真逆の悪魔のような翼が生えており、耳の辺りにも爬虫類のそれに似た襟巻のようなパールがついていた。
 何より、他の二人と異彩を放っていたのは、その首には、別の長い首が巻き付いていることであった。獣のように大きく広がった口、そこから覗く牙が、このモノの醜悪さを体現していた。
 バーンガーンに敗れ去った存在、ガストである。
 意識体である彼の存在は散って、主であるグランダークの元へと帰還していた。
「次は負けないんだな」
 不満そうに、ぎょろぎょろと辺りを見回しながら、くぐもった声で不満を漏らす。
 それが弁解であることは明らかだったが、漆黒の男も、黒天使も何かを言おうとはしなかった。
 玉座の主が満足していないことは明らかであったからだ。
 ややあって、玉座の主が"口"を開いた。
「……もうよい。カルラ、ガスト、お前たちは下がれ」
 カルラ、と呼ばれた黒い天使は不服そうに、玉座の主、すなわち彼らの王であるグランダークへと歩を進めた。
「グランダーク様……?」
 だが、その前に立ちはだかる影があった。
 マントの男である。
「グランダーク様が下がれとおっしゃっている」
「ギルティ!」
 黒い天使の視線と、漆黒の男の視線が交錯した。
 互いに認め合っていないことは明らかである。
 彼らは知性体の悪しき想念であるが故に、相互に理解し合えることがあるとすれば、互いへの侮蔑と怨念だけであった。
「わかったわよ!」
 カルラは踵を返し、広間への出口へと歩き出した。
 数歩歩いて、緑色のおぞましい怪物へと声をかける。
「行くよ、ガスト!」
「あいあい」
 ガストはベタベタと不快な音を立てて、彼女とともに退室していった。
 広間に残されたのは、ギルティのみである。
「………………」
 何事かの沈黙を持って、黒衣の男はグランダークをただ見つめていた。

 * * *

 寒々とした回廊に、熱のない炎が灯る。
 そこを歩くガストとカルラは、不快さを共有していた。互いに対する不快さよりも、今ひとり、ここにいない黒い男への憎悪が、ふたりを結びつけていた。
「……今まで、グランダーク様の側にはセルツがいた。そのセルツがいなくなったと思ったら、あいつが現れた」
 ガストはブチブチと、みずからの不満を垂れ流していた。
「まったく、めざわりな奴ばっかりだ」
「セルツ様がいなくなって、ギルティが現れた……?」
「あいつ、気にくわないんだな。やっぱり、オレ様が出撃するしかないんだな」
 カルラは怒りの形相でガストを見やった。
「お待ち! セルツ様の留守に、勝手なことをするんじゃないよ」
 が、ガストはカルラの言葉など聞くつもりはないようだった。このおぞましい緑色の怪物にとっては、雪辱のみがすべてなのだ。
「いない奴のことなんか、関係ないんだな」
「何だって!?」
「あの新入りにデカイ顔されるのイヤなんだな。だから、オレ様、頑張ってエラクなるんだもんね」
 空間が歪み、ガストの貼り付いたような笑みと一体化して、溶けた。
 わずかな腐臭を残して、ガストの気配が消える。
 この宮殿を去って、地球へと向かったものであろう。
「セルツ様はアスタルの本体を直接討ちに行ったと聞いている……そのセルツ様が戻られぬまま、現われたアイツ--ギルティは何者なのだ……?」
 考え込みながら、カルラもまた周囲の闇に溶けるように消えていった。

 * * *

 それから一ヶ月ほどの時が流れた。
 ナイトメアの攻撃は散発的に四度ほど行なわれたが、そのいずれもがバーンを打ち倒すことは叶わず、撃退された。
 幸いにして海浜市への被害は最小限に留められていた。
 瞬兵とバーンの奮闘の結果である。
 だが、瞬兵には気がかりなことがあった。
 報道の中で、怪ロボットと戦う蒼いロボット、すなわちバーンのことを、侵略者ではないか、という論調が増えつつあったことである。
 無論、バーンに守られた人々はそのようなことがないことはわかっている。
 だが、報道の映像だけを見た人々にとっては、バーンもまた得体の知れない、異界から現われた何かなのだ。
 あの蒼いロボットは何か?
 防衛隊はなぜ適正な反撃が出来ないのか?
 ワイドショーはそれを非難する声でいっぱいで、国会中継も要領を得なかった。
(………………)
 もちろん、瞬兵は真実を知っている。
 大声でバーンが人間の味方なのだ、と訴えたい。
 だが、それをすれば、瞬兵とバーンの関係性を明らかにせねばならず、そんなことをしたらマスコミが家に押しかけ、メチャクチャなことになってしまうことは間違いない。
「いや、それだけではない」
 バーンは瞬兵に念を押した。
「私と瞬兵の関係は、ナイトメアに悟られていない。だが、瞬兵のことがナイトメアに漏れれば、彼らは瞬兵やその家族を狙ってくるだろう。正体は明かすべきではないんだ」
 バーンの言葉は、もっともだった。
(だけど、このままバーンとボクだけで戦っていくことができるんだろうか?)
 瞬兵の不安はふくらんで、消えることがなかった。

 * * *

 崩壊した海浜ドームは完全に封鎖され、無惨な姿を晒していた。
 その壁の側に、ふたりの青年がもたれかかっていた。
「そろそろやな」
「そうですね」
「まさか、こんなケッタイなことにいっちょかみするとは思わなんだわ」
「逃げてもいいって、愛美さんは言ってましたよ」
「あほ、誰が逃げるかいな、こんなオモろいこと」
 関西弁の青年は口にしていた缶コーヒーを飲み干すと、器用に崩れたゴミ箱の中にシュートした。
 カンがゴミ箱で転がるカラカラという音が収まるのと、夕陽を背負うようにして、黒髪の美女がその場に現われたのは同時であった。
 芹沢愛美である。
 このふたりの青年--関西弁の逢坂まさるとおっとりした守山さとるのふたりは、いずれも愛美の直属の部下である。
「やっと来おったな、姉御! 待っとったで」
「早かったね、二人とも、ずいぶん勘がいいじゃない?」
 愛美の笑いはいつものように不敵だった。
「ああ、わいらが一番乗りや。アネゴが前に言ってた例のアレやろ?」
「まさるさん、シーッ……」
「ひろみお嬢!?」
 ドームの影から現われたのは、パステルカラーのミニ・スカートを履いた椎名ひろみだった。どうやら、彼らふたりが一番乗りというわけではなかったらしい。
「その件はナイショのナイショです!」
「流石ね、ひろみ」
 微笑む愛美の腕に、ひろみが抱きついた。
「そろそろ、お呼びコールがかかる頃だと思ってました」
「ふふ。じゃあ、行きましょうか」
「はいっ!」
 三人を女王のように従え、愛美は封鎖されたはずの海浜ドームへと入っていった。

 * * *

 その四人を見ている影があった。
 トレンチコートの中年男である。
 一見して不審者にしか見えぬ、さりとてあまりにも典型的な不審者でありすぎ、しかしながら不審者としか形容のしようがない、そのような男であった。
 強いて言えば、ドラマの中の探偵に似ている、と言えなくもない。
「私は~、ひ・み・つ、ひみつたんてい~!!」
 男、ひみつ探偵と名乗ったその男はスキップを踏みながら、隠れていたガレキの影から姿を現わした。
 他に誰がいるわけでもない。
 まるで虚空にカメラでも存在しているかのように、男は、踊っていた。
「犯人の特徴、その1! 犯人は、必ず現場へ戻ってくる! だから私は、 ずーーーっとここで待っていた」
 ひみつ探偵は、愛美たちの消えたほうを指差した。
「すると、奴らが現れた」
 クルッと回って、奇妙なポーズを取る。
「つ・ま・り、奴らがドームを壊した悪い奴らなのだ~!!」
 そこまで喋って満足したのか、我に返ったらしい男は、ドームの中へと滑り込んでいく。
「おっと、こうしちゃおれん。早く奴らを追わなくては!!」
 だが、海浜ドームの中はがらんとして、完全に無人であった。
「な、なんで誰もいないんだ!? あの四人組は、どこへ……!?」
 しばし、ひみつ探偵は周囲をうろつき回り、虫眼鏡を取り出して推理の真似事のようなことをしていたが、やがて、彼なりの結論に至った。
「確信したぞ! やっぱり、奴らは悪の秘密結社に違いない! コソコソと消えてしまったのが、何よりの証拠! あの背の高い女が親玉だな。このひみつ探偵が、必ずシッポをつかんでやる!! 待っていろよ、悪党ども! ナハハハハハ……!」
 男の高笑いだけが、無人のドームに響き渡った。

 * * *

 ひみつ探偵が四人の姿を捉えられなかったのも無理はない。
 愛美たちは極秘裏に作られていたエレベーターで、ドームの地下へと向かっていた。
 すでに、エレベーターの表示は本来のものを通り越し、さらに下の階へと向かっている。
 愛美以外の三人は、それぞれに緊張の表情を浮かべていた。
 一ヶ月前、このドームにバーンと怪ロボットが降り立った時から、彼らの現実は崩壊していたが、それでも、これから始まろうとしていることは、彼らの想像の外にあった。
「SPフロア解放して! ヴァルス、生体認証!」
 愛美の顔を捉えたカメラと、声を聞き届けたセンサーが、エレベーターの扉を開く。
「まさかこの日がホンマに来るとは」
 まさるは武者震いを隠すように、大きな声を張り上げた。
「浮かれないでよ。遊びじゃないんだから」
 愛美自身の声にも、緊張の色があった。
 エレベーターの扉が開ききる。
 そこにあったのはいくつものモニターと椅子、宇宙船の管制室にも似たオペレータールームだった。
 そのシートに座していた男が、ゆっくりと立ちあがる。
「ああ……ここにも浮かれた人が……」
 愛美は天を仰いだ。
 その男に、見覚えがあったからだ。
「これが浮かれずにいられようか! キタねぇ! ついにこの時が!」
 現れた男は、年のころなら六十前後。高級なスーツを身に纏い、部屋を一望して、愛美に礼をした。
「……パパ?」
 ひろみがぽかん、とした声をあげた。
 そう、誰あろう、椎名ひろみの父親、C-NaゼネラルカンパニーCEO椎名長介である。
「お早いお着きで…って、ココにはCEOの席ありませんけど?」
「ウッソ!? じゃあ作ってよ、オレスポンサーなんだからさ?」
「コンプライアンスというものがあります」
 愛美の言葉は、にべもなかった。
「……まぁいいや」
 それを気にする風もなく、CEOは不敵な笑顔で愛美の横に付く。
「やーーっと重い腰上げてくれた…って理解でいいんだよね? 芹沢隊長?」
 愛美はうつむいて聞いていたが、頭を二、三回、くしゃくしゃと掻くと、長介に向き直った。
「本意じゃないですが。ドームを攻撃してきたロボットは明らかに敵。誰かに任せるくらいなら、私がやります」
「エクセレント! では、正式発令だ!」
 長介は芝居がかったポーズを取った。ひろみが少し恥ずかしそうにしているが、それについては気にした風もない。
「C-NaゼネラルカンパニーValiant Robot System開発室は、本日付で活動を休止。開発室構成員は、その任を解く! あわせて、コードネーム"Variable Attack & Resque Staff"発動! いまここに、私設地球防衛組織VARS(ヴァルス)を開設・発動する!!」
「……拝命します」
 おどけたやりとりながらも、愛美と長介の間には、緊張感があった。
 無理もない。
 これまで長介は愛美の作ったVARSに搭載された技術に注目し、その技術がC-Naゼネラルカンパニーの防衛産業進出への切り札になると考えていた。
 日本の国防だけではない。
 VARSの超AI技術は、アメリカを始めとする諸外国に売り出せるだけの出来であることは間違いないのだ。
 愛美のその技術を囲い込むために、愛美を研究所から引き抜き、愛美の望むVARS開発室を立ち上げ、玩具展開も容認してきた。そのおもちゃがこんなにヒットするとは思っていなかったが……。
「相羽くんの事故は残念だった。だが……あの事件をきっかけに、地球防衛を志したことは理解して欲しい」
「それは、わかります」
 相羽……相羽真人は愛美の恋人で、宇宙飛行士だった。
 それが、謎の事故で有人飛行中に死んだ時に、愛美と長介は、何らかの超自然的な脅威が地球を狙っていることを認識したのである。
 だから、ナイトメアが襲撃をかけてきたとき、両者が考えたのは「やはり」であって「まさか」ではなかった。
 予期されたことだったのである。
 無論--
 C-Naゼネラルカンパニーが私設地球防衛組織などというものを用意していたのは、単なる金持ちのボランティア精神ではない。いわば、私設軍として、防衛産業進出の足がかりにしようというものである。だからこそ愛美もこれまでは、人間同士の戦争に使われることを嫌って、協力を拒否してきた。
 そういう間柄である。
 恋人の仇を取る、という情念を、戦争に利用されることは、避けなければならない。愛美の理性はそのように訴えていた。
 だが、情勢は変わってしまった。
「で、そろそろ教えて欲しいんだが。あのデケェ蒼いVARS……あれはいつの間に作ったんだ?」
「あれはVARSではありません」
「え? どうみたって、大きさはともかく、形はVARSでしょ? オレはてっきり芹沢が内緒で作ってたんじゃないかと」
「あんなデカいのナイショでつくれませんよ」
 ため息をついて、愛美はデスクに座り、形のよい足を組んだ。
「ただ、味方であることは確かです」
「え!? 知り合いなの?」
「まぁ、そんな感じ? 彼をサポートするのがVARSです。そう理解したから、CEOの提案に乗るつもりにもなりました」
「彼?……」
「そう、彼は私の弟のVARSの体を借りて、あのロボットと戦いました。そして、敵はこれからも地球を襲ってきます。より大規模に」
「なるほどネ……」
 長介は形のよいアゴを撫でた。
 全面的に納得している様子ではなかったが、愛美の言葉を疑っているわけでもないようだった。
「VARSは彼を助けるために機能する組織です。戦争するための組織ではありません」
 長介は、いつになく真剣な愛美の眼差しに、笑顔を返した。
「……オーケー、いいだろう、だが、戦闘データをVARSの超AIにフィードバックさせることは忘れないでくれよな、ウチも慈善事業じゃないからな?」
 含み笑顔で長介は愛美にささやきかけた。
「戦争の道具を作る気はありませんが、後で商売になるようにはするので、ご心配なく」
「よろしい! では、あとはよろしく! ヒロミちゃ~ん! パパ帰るねぇ~!」
 長介は後ろ手に手を振って去って行った。
(まーた、悪いこと考えてんなぁ、あのオッサン……)
 愛美は長介を全面的に信頼しているわけではない。
 それは互いに同じである。C-Naの資金がなければ愛美の思惑は達成されず、愛美の技術力なくしてC-Naの繁栄もない。
 そのシーソーゲームをコントロールしながら、瞬兵を援護するしかない。
 それがこの一ヶ月、VARSという組織の立ち上げを準備しながら、愛美が考えていたことである。政治やマスコミを動かすことができなければ、いずれバーンは宇宙人だか異次元人だかとして処分されてしまうだろう。
「さて……」
 愛美はまずは目の前の三人、すなわちVARS隊員たちに、バーンと瞬兵の物語を伝える決意をした。
 この三人なら、理解してくれるはずである。すべてはそこから始まるのだ。
 スタッフをかき集め、資金を運用し、バーンとガーンダッシャーを解析してその支援システムを構築し……考えねばならないことは山ほどあったが、小学生の身でありながら、全人類の運命を背負うことになってしまった弟に比べれば、羽毛のような軽さである。
「私たちVARSはこれから、宇宙意識体・聖勇者バーンとともに、地球を防衛するための戦いに身を投じます!」
 愛美は高らかにそう宣言した。

 * * *

 そうして。
 瞬兵が再建中の海浜ドームに呼び出されたのは、それから数日後の放課後であった。
 布に取り囲まれた海浜ドームにはたくさんの見たことのない機械が運び込まれ、無数の人々が忙しそうに立ち働いている。
「こっちよ!」
 出迎えに来たひろみに手を引かれるようにして、瞬兵は地下へと続くエレベーターに乗り込んだ。
「え……!?」
 そこに広がっていたのは、驚くほど広大な空間だった。
 格納庫、である。
 そこでは巨大化したバーンに近いサイズの、動物型のロボットが今しも急ピッチで組み立てを進められているところであった。
「これ、いったい……」
「ようこそ、防衛組織VARSへ」
 出迎えたのは、腕組みをした姉と、まさる、さとるのふたりのエンジニアである。
「いわゆる、秘密基地ってやつね」
「秘密基地……!?」
「そしてこのロボットたちは、バーン、あなたの仲間よ」
「私の!?」
 ポケットの中のバーンが、驚きの声をあげた。
「そう! あなたを援護する仲間」
「愛美さんはね、さらに凶悪な敵襲に備えるため、きみをサポートするロボットの開発に着手したんだ」
 バーンを興味深そうに見ながら、さとるがそう告げた。
「バーンの話を聞いて考えたの。アナタをサポートする力が必要だって」
「……」
「敵の力は強大よ。この先、ますます戦況は苦しくなるわ。毎回無傷で終わるとは限らない。そのためにはバックアップチームが必要だわ」
「メンテナンスはもちろん、パワーアップの準備をしておくんや。転ばぬ先の杖ってヤツやな」
「VARSのシステムを通じて、バーンとガーンダッシャーの技術は解析させてもらったわ。それをフィードバックして、超AI搭載タイプの支援用ロボット兵器を開発したの……まあ、プロトタイプはN-Caが防衛軍に納入しようとしてやつなんだけど、そこはチョイチョイ、とね」
「もうひとりで戦わなくていいってことだよ」
 愛美のそばで、ひろみが微笑んだ。
「し、しかし……君たち地球人を危険にさらすわけには」
「ひとりで何でもできるなんて、思っちゃダメよ。そんなに世の中、甘くないんだから」
 ひろみは子どもにそうするように、バーンをつん、とつついてたしなめた。
「せや。それにこれは、ワイらの星の運命がかかっとるんやで。ワイらかて命はらなしゃあないやんか」
「……わかった、ありがとう」
「……でも、みんなでバックアップなんて、本当に大丈夫なの?」
 瞬兵はまだ、目の前で起きていることが信じられなかった。秘密基地? 防衛組織?
「瞬兵? あんた姉ちゃんのこと信用できないの?」
「そういうわけじゃ……」
 まさるが瞬兵の肩を抱くようにして、微笑んだ。
「ボン、ええか? バーンのボディは、ボンのVARSが基礎となっとるんや。つまり……」
「……VARSの開発者であるお姉ちゃんたち以外に、バーンのサポートはできない?」
「ちょっとオーバーかもしれないけど、まぁ……そういうことだよ」
 さとるもそう言い添えてくれた。
「警察や防衛隊にもパパの会社を通して話はしてあるわ。これからは、もっと自由に戦えると思うわよ」
「メンテナンスは、可能だけど、サポートメカの調整と完成は、まだ先になるわ。それまでは、私たちが全力でバックアップする。だからよろしくね、瞬兵、バーン」
(そうか)
 瞬兵の心に、安堵の光が灯った。
(もう、ひとりで戦わなくていいんだ……!)
 それはとても、とてもうれしいことだった。