novel

プロローグ

 宇宙が生まれたその時、そこにはいかなるものもなかった。
 時はなかったから、そこに過去もなければ未来もなかった。
 心はなかったから、そこに善きこともなければ悪しきこともなかった。
 空すらもなかったから、そこに光もなければ闇もなかった。
 天と地は未だ分かたれることなく、ただ茫漠たる混沌だけが広がっていた。

 数万数億の宇宙の卵は、いかなるものでもあり、いかなるものでもなかった。

 そこに波紋が生まれた。

 波紋は始源の意識となった。
 始源の波紋はぶつかり合って、おのずから対立する二極へと導かれた。
 かたや、〈大いなる意志アスタル〉。
 こなた、〈絶対悪グランダーク〉。

 宇宙そのものが持つ光の意識と闇の意識である。
 両者はいまだ混沌に過ぎぬ多元宇宙の在り方を規定せんと、果てしなく戦い争った。
 光と闇のいずれが混沌をして宇宙とするか、そのようないくさであった。


 やがてアスタルは〈光の意識体〉である〈聖勇者〉を集め、〈闇の意識体〉グランダークを封印した。
 そして、宇宙は限りない意志の力に包まれ、数え切れぬほどの生命で満ちていった。

 百億を超える時が流れた。
 膨張を続ける宇宙はそれぞれに輝き、数多の文明がそこに栄えた。

 だが――
 小さな島宇宙の片隅で、その繁栄に綻びが生じようとしていた。
 それは、光と闇の対立する二極を求める宇宙の意志がなさしめることであったのかもしれない。