おれの精神テンションは今! 貧民時代にもどっているッ!『レディ・アリスの追憶』


エッセン新作がそろいつつある中、そのエッセン新作が豊作のため、なんとなく陰に隠れていますが、今回紹介するのもそんなスイスはHurricanのゲームの新作、
レディ・アリスの追憶です。

ゲーム自体は、名探偵シャーロックホームズが解決した、「ヘンリー・モートン・スタンリー失踪事件」をモデルに、彼の優秀な手下だった浮浪児集団「ベイカー・ストリートキッズ」に対する挑戦状として作られたゲーム――という体裁で作られており、ルールブックもホームズが語る形で(一部ワトソンからの助言もあり)書かれています。

事件は、有名な探検家であるヘンリー・モートン・スタンリーが、王立地理学協会によりその成果の披露のために招かれた際、講演の時間に現れず、ホテルにいてみるともぬけの殻。
ベッドの裏にはアフリカ探検の時の写真とロンドン地図、そして「レディ・アリスを忘れるな」という手紙。収集物の一つがなくなっており、写真は9人の男女が探検ボート、レディ・アリス号の前で写されたもの。
この事件はホームズがとっくに解決したのですが、これをケーススタディとしてキッズたちに追体験してもらおうという内容。


「誰が」(容疑者は8人――レディ・アリスの写真の中の著名人たちの誰かだ)
「いつ」(犯行時刻は7時から21時までの8回の機会)
「どこで」(大英博物館、トラファルガー広場、ウェストミンスター寺院、テート美術館など市内8か所)
「何を持っているのか(物証)」(日時計、望遠鏡、仮面、パイプなど探検ゆかりのモノ)

というもので、クルー系ではおなじみのモノ。
プレイヤーはこれらの4つのうち1ジャンルを「自分だけが知っている正解」として受け取り、他の人にはこの「正解」を知られないように、ほかの人の「正解」すべてを当てなければなりません。

しかし、あなたたちは貧しい浮浪児であり、ホームズはちょっとひねていて優秀な推理を見せた子供にだけ報酬のペニー銅貨を支払います。
つまり、事件の解決もさることながら、他のプレイヤーをだましたりする能力も重要視されるのです。

まず最初に配られるのはこの手がかりのうちのどれか1枚。

これがプレイヤーが知っている内容です。


裏は同じデザインなので、誰がどのジャンルを持っているのかはわかりません。
各ジャンルから1枚ランダムにえらんで、それを再びシャッフルして配ります。

プレイヤーは自分の手番で、この「いつ」「どこで」「誰が」「何を持っていた」かの≪容疑≫を宣言します。

次に、その宣言の中に自分の手元の「正解」があるか否かを『評決ホルダー』にひそかに仕込んでシャッフルした後公開し、誰が「あり」で誰が「なし」なのかわからないようにしたうえで公開する≪評決≫をします。
こうすると、このプレイヤーの手番の推理のうち、何分野があたりで、何分野がはずれだったのかがわかるというわけ。

全部外れだった場合にのみ、この「ホームズの名刺」で、ボード上の容疑を隠して消去できます。

しかし、重要なのはここではありません。
実は次の手順での≪推理勝負≫こそが重要な要素なのです。
プレイヤーはそれぞれ0、1、2点の「推理カウンター」を各3枚受け取っています。
点数になるのは、あくまで「正解」に置かれたこのカウンターの点数だけです。
推理勝負では、ターンプレイヤーの左隣のプレイヤーから時計周り順に、「推理カウンターを1個裏向きで置く」か、「パスする」か、「4つの分野すべてを当てる告発に挑戦する」かをします。

推理カウンターは1つの容疑の構成要素には4個までしか置けず、自分のカウンターが置かれているところに再び置いても構いませんが、ボードから手元に戻したり、移動させることはできません。
で、カウンターはゲーム終了まで置いたままなので、自分の知っている正解に早々置くのもほかの人にヒントを与えることになるかもしれませんし、ほかの人が置いたカウンターは0点なのかもしれません。一人で2個置いてあるのは鉄板なのか、それともはったりなのか……
なんにせよ、カウンターはひとつの容疑の構成要素には4個しか置けませんので、容疑を絞るにしてもいつどこを試すのかタイミングをよーく考えてから、カウンターを置くにしてもいつどこにどれだけ置くかよーく考えてからしなくてはならないわけです。


さっきの場合だと、下手に当ててしまったがために全員が2点のカウンターを置く羽目に……とかなるかもしれないわけですな。

そして告発は、最初の≪容疑≫と同じ手順で行い、ここで外した場合はカウンターは残りますが得点精算時には取り除かれ、もう≪容疑≫も≪推理勝負≫もできなくなります。

全員がパスしたら次のプレイヤーのターンとなり、上を繰り返します。
ゲームの終了は、最初に≪容疑≫で4分野すべて当ててしまうか、この≪推理勝負≫で告発に誰かが成功した時点で終わります。

得点は正解に置いたカウンターの点数の合計(≪告発≫に失敗したら0点)で、4分野すべての正解にカウンターを置けてたらボーナス2点、≪容疑≫の時に正しく4分野を当てたらボーナス1点、≪告発≫が成功した場合にもボーナス3点ということになり、場合によっては正解がわかっていても当てないほうが良かったり、ほかの人の足を引っ張ったりしたほうがいい場合があります。

そう、レディ・アリスの追憶で本当にすべきことは、犯罪の内容を推理することもさることながら、他のプレイヤーは正解をどこまで知っているのか、置かれたカウンターは本気なのかはったりなのか、だんだんとクリアになっていく情報の中で自分の導き出した正解をどこの時点で宣言してゲームを終わらせるべきなのかをじりじり読みあう点なのです!

ちなみに「動機」は子供たちには教える必要がないからか、シャーロック・ホームズからは明らかにされていません。
ゲームに勝った人は、「いつ」「どこで」「誰が」「何を持っていた」という内容から、事件の真相を即興で語れたら面白そうですが、難しいかな?

短時間で終わる犯罪の推理ゲームにして、ほかプレイヤーの心理を読み騙すブラフゲームである点は、同じくヴィクトリア朝のロンドンを舞台とした『ディヴィナーレ~倫敦の霊媒師~』にも通じる部分があります(あとゲームの背景の時期としては『ホワイトチャペル』も同じ頃ですな)。
シャーロック・ホームズといったキーワードや、凝ったコンポーネントのギミック、そしてタイミングをにらんでの心理的な駆け引きといったものが好きな人には強くお勧めいたします。

レディ・アリスの追憶(Lady Alice)
プレイ人数:3-5人
対象年齢:8歳以上
プレイ時間:約30分
ゲームデザイン:ルドヴィック・ジェラード
製作:Hurrican
価格:4,500円+税

さて、購入予定の人および購入したけどルールを読んでいない人に、一つ呪いをかけておきます……
以下翻訳者との打ち合わせ。

翻訳者:「ルールブックはやっぱりホームズの語り口調で翻訳したほうがいいですかねー」
担当:「そうですねー、でどっちの口調で行きます? 希望はジェレミーのほう(NHKでやってた『シャーロック・ホームズの冒険 』のほうね / 最近のバイオレンスなほうじゃなくて)。」
翻訳者:「……ジェレミーってなんですか?」
担当:「え? いや、NHKのほうなんですが……どれを想定していたんですか?」
翻訳者:「犬のほう。」

と、いうわけで――翻訳者のこの一言のおかげで――ルールを読むとき脳内で広川太一郎ボイスがどうしても離れない呪いがかかった。
これを読んだあなたも広川太一郎ボイスが離れない。