【ダイスエイジ連載】「『ダイスエイジ』のディベロップ」(第3回)


こんにちは、ゲーム開発課です。
今回は当社オリジナルボードゲーム「ダイスエイジ」発売を記念して、デザイナーの佐藤敏樹さんと当社ゲーム開発課宇藤との対談を行いました。
「ダイスエイジ」連載、今回はその3回目です。

今回出ている人:


佐藤敏樹さん:
「ダイスエイジ」システムデザイナー。「さとーふぁみりあ」主宰。
最近の代表作は「8bit Mockup」など。詳しいプロフィールはこちら


ゲーム開発課 宇藤:
「ダイスエイジ」のディベロップを担当。

ゲーム開発課 ねいじま:
聞き手です。


開発課からみたダイスエイジの印象

開発課 宇藤(以下、宇藤)
今回のような、”元から形があるゲームをリメイクする“といった試みは、ホビージャパンとしては2回目です。(※1)基本的にはベースにあるルールの良さを活かしつつ、そこをどう伸ばしていけるか、何か追加できることはないか……ということを考えながら開発を進めてきました。

【編注】
(※1)1回目は手づくりボードゲームチーム たなごころさんの「たたらばと森」。


佐藤さん(以下、佐藤)
ゲームの第一印象ってどんな感じでしたか?

宇藤
最初に思ったのは、ルールがシンプルで、運が良ければ勝てるゲームなので、ボードゲームをほとんどやったことない人でも入れるし、戦略的にやることで勝つ確率を上げることができる、バランスがすごく良いゲームだと思いましたね。

佐藤
第一印象でそう感じ取っていただけて、とても嬉しいですね。

宇藤
ライトユーザーにも「これをやってこうなったら嬉しい」というのがパッと直感で分かるというのが良いと思いました。例えば、最後の1個のダイスで5が出たら獲物カードをとれる、という状況で5が出たら嬉しい、というのがすぐ分かるんですよね。
それでいて、難しいコアなゲームにあるような「この戦略がきっと強いはずだ」ということを考えながらプレイする、といった要素もある。この2つが両立しているところがバランスが良く、素晴らしいと思いました。

佐藤
おぉ、「わかりやすさ」は私が狙っていたところでもあります(笑) それが伝わって良かったです。

宇藤
特に、ライトユーザーは分かりやすい喜びがないといけないんですよね。
このゲームの場合は、それが1ラウンドの終了時にすぐに出てくるので、ライトユーザー向けの良いゲームの条件を満たしていると思いました。

佐藤
ディベロップを行う際、最初からライト向けに持っていこうと考えていたのでしょうか?

宇藤
すごくコア向けに持っていくよりは、元ある良さを活かしてライト向けに作ったほうが良いと思いました。かといって、1回やって「もういいよね」と思われるようなゲームにはしたくない。なので、プレイするたびにプレイ感が違って、コアなユーザーでも何度も遊びたくなるゲームにしていくことを意識しました。
確か、開発の初期に「ダイスが増えるカードが何枚ぐらい出るか」「カードがどうランダムに出てくるか」といった細かい要素をメールでやりとりしましたよね。

佐藤
だいぶやり取りしましたね。僕は「1世代あたりの成長カードは3枚で良い」と言ったのに、宇藤さんは「4枚あるべきだ」と、かなりやりあいましたよね。

宇藤
そこは自分の中ではコアな部分だったんですよね。「今回はダイスが増えるカードが1つしかないから、ダイスを増やすカードはすぐに取りに行かないといけない」「今回はダイスを増やすカードがたくさんあるから、獲物カードをしっかりとることを優先しよう」といったことを考えられると、何回でも遊べるゲームになると思ったので、そこのバランス調整はかなりこだわりました。

佐藤
やはりリプレイ性というのを重視されるんですか。このゲームを何回遊んでもらえるか、という。

宇藤
ターゲット次第というところはありますね。例えば、『ドブル』みたいな、超ライトなゲームではリプレイ性はそこまで重要ではないのですが、このゲームの場合はそこまで超ライトなゲームではない。なので、ある程度のコア層も狙わないといけないと思って、リプレイ性も考えなければいけないと思いましたね。

佐藤
僕が同人ゲームを作るときは、あんまりリプレイ性は考えていなかったんですよね。同人ゲームなので、遊んでもらえる機会も少ないし、1回でも遊んでもらえれば御の字ぐらいの気持ちで作っていたので、1回でちゃんとしたバランスで遊んでもらえる、偏りがないゲームにする、ということを重視していました。ただ、今回宇藤さんとやりとりしていて「ゲーム毎に偏りがあったほうが面白い」という話を聞いたのは興味深かったです。

宇藤
けっこう難しいところですよね。そもそものダイスのランダム性があるので、そこで毎回ゲームが変わるといえば変わるんですよね。でも、そこで充分かどうかというところで、もう少し派手さがあったほうが盛り上がると思いました。なので、追加した部分は派手めに作ったところはあります。
ただ、ベースのルールがかなりしっかりしていたので、派手すぎる要素を入れて元の良さが壊れないようにする、ということは気をつけました。

佐藤
この1枚でゲームが決まる、みたいなゲームではないですからね(笑)

開発課ねいじま:ディベロップについて、佐藤さんのほうから「こうしたい」みたいな話はありましたっけ?

佐藤
特殊カードを追加しようという話になった時に「ダイス目を操作するようなカードはやめてください」ということは言いました。ダイスを振るときって「6出ろ6出ろ」みたいに気合を入れて振るじゃないですか。そういったダイスを振る楽しさは残したいなと思って、特殊カードでも「ダイスをもう1回振る」とか「相手にもう1回振らせる」といったものにしたいということはお願いしていました。

宇藤
そういうこだわりがあるのは大事なことだと思いましたね。

ゲーム開発課のテストプレイ

佐藤
ちなみに、テストプレイってどのぐらいされたんですか?

宇藤
テストプレイは一番最初にプレイさせてもらってからは4ヶ月ぐらいはやりましたね。毎日プレイするというわけではないのですが、2〜3時間ぐらい時間をとって何回かプレイをしていました。そして、その時のレビューを共有し合って、そのレビューをを元に要素を変更して、また数日後にプレイして……といった形で色々試していましたね。そうやって細く長く続けていって、4ヶ月半ぐらいはちょこちょこ変えながらやっていました。

佐藤
なるほど。ずっとホビージャパンの中の方々でプレイをしていたのですか?

宇藤
そうですね。基本的には社内でやっていました。ウチが0から作るゲームは社外に持っていくことが多いんですが……。そういうときは外の人の意見も聞きます。

佐藤
そうなんですか。まだ個人でこのゲームを作っていた時は、長谷川さん(※2)にテスト用のコンポーネントを作ってもらってからは、長谷川さんがオープンなボードゲーム会に持ち込んでいました。

【編注】
(※2)長谷川さん……長谷川登鯉さん。本作のアートを担当してくださいました。

佐藤
僕、家庭の事情で土日はゲーム会などに行けないんですよ。それでオープン会でのテストプレイは長谷川さんにお願いしていて、そこでのフィードバックを長谷川さんからもらって修正するということをやっていました。ただ、テスト用のコンポーネントを作る前は家族や知り合いを巻き込んでやっていましたね。実は、そうやって最初のシステムができたのは10年ぐらい前なんですよ。

宇藤
10年! そんなに!

佐藤
『ベガス』が似ていると思われるかもしれないんですけど、元々はミヒャエル・シャハトの『SHANGHAI』を参考にしたんですよね。それをもうちょっと多人数用ゲームにしてみようと思って、作ったのが10年ぐらい前なんですよ。
それから月日が流れて、5年前に『ベガス』が出たときに、「あれ、これ似てるゲームだ」となってしまって(笑)
その後、それをもっと面白くしてみようと思って、ずっと作っていたんですよね。それで、やっと1年前に形になって、次のゲームマーケットに出そうと思っていた時に、ねいじまさんに会って、ホビージャパンで出しませんかと言われたんですよ。

宇藤
佐藤さんとしては、そのままゲームマーケットに出すという選択肢もあったわけですよね。そこをホビージャパンで出そうとなった決め手みたいなのはありましたか?

佐藤
製品化しようとするとけっこう大変だったんですよね。ボードもいるし、ダイスもいるし……。個人で200~300個ぐらい作ろうとすると150~200万円ぐらいかかるんですよね。これは奥さんにはとても言えないなと(笑) でもやりたいんだよなどうしようかな、と迷っていたところにねいじまさんがひょっこり現れたんですよね。

開発課ねいじま:佐藤さんから「ダイスとか用意するの大変なんですよ」という話を聞いた時に、もし良かったら社内でテストプレイしてみたいんですけど、って話をしてみたら、「今(テストプレイキットを)持ってますんであげます」って言われました(笑) それで、その次の日にさっそくテストプレイをしてみた覚えがあります。

「ダイスエイジ」のディベロップ

佐藤
ディベロップ面で苦労されたことはありましたか?

宇藤
私の中でうまくまとめきれなかったのは、”手番”の問題ですね。佐藤さんから元々「手番をすごく大事にしたい」という話は聞いていました。後手番の人のほうが有利というシステムがあったので、そこは特に尊重したいと思って作っていたんですけども、実際のゲームでは手番よりもダイスの数のほうが重要だったんですよね。

佐藤
そうですね。10年前の初期の頃から手番を競るという要素を入れていましたからね。

宇藤
さらに、私の中では”ジレンマ”を作りたいという考えがありました。「今ダイスをすべて置ききるべきか、どうなのか」ということをプレイヤーに考えさせたかったんですよね。そのジレンマを作ろうと思った時に手番の重要性が薄れていってしまって……。最初は手番が時計回りではなく、先にダイスを置ききった人が手番を選べるというシステムだったんですが、自分がどの手番にいるのかをみんなよく間違えてしまったんですよね。それで、「この要素をなんとか削れませんか?」ということを佐藤さんにお願いしたんですけど、「何かもっと良い結論があったのかもしれない」と申し訳なく思っています。

佐藤
そこは僕としては、納得できた変更でしたね。実際やっていて煩雑で間違えやすい箇所だったので。また、ディベロップを進めていくうちにライト向けに作るという話は聞いたので、あんまり複雑な手順でやるよりはオーソドックスなほうが良いなと思いました。なので、あれは良い変更だったと思います。プレイ順を競る要素は、また他のゲームに活かせればと。

宇藤
なんとかできないかなとはずっと考えていた要素ではあるんですよね。4番手が強いルールをうまく使いつつ何かできないか、とか色々考えたんですが、どうしてもまとめきれなかったんですよね。もし最初”手番”についての強いこだわりを感じていなければ逆にすぐまとまったんですけど、そこをすごく感じたのでだいぶ考えました。

佐藤
それだけ考えていただければ本望です。

宇藤
「ダイス目を操作しない」とか色んなところに佐藤さんのこだわりが見えるゲームだったので、どの方向性に持っていくかで絶対いじらないと決めた部分はありました。そこに少し追加するような流れで進めていったのですが、そこは自然な流れでディベロップを進めていけましたね。

開発課ねいじま:我々がお預かりするまでに、十分ディベロップされた点を守りつつ、より売れるようにディベロップできたんじゃないかと思います。次はぜひ「ダイスエイジ」の「ダイスエイジ」以前のお話も伺ってみたいです!


いかがでしたか?
次回は第四回「『ダイスエイジ』が『ダイスエイジ』になるまで/世界観とアート」、作者・佐藤さまとアートを担当された長谷川登鯉さまとの対談を掲載します。
お楽しみに!