某月某日 【整備士】ユーゴー・レセップス

 私は【操縦士】のレベルをカンストした後、二つ目のジョブとして【整備士】を選択した。
【整備士】のスキルを取っておけばクラン内で出来ることが増える。それに、目指す上級職である【高位操縦士】の転職条件である「機械に関連したスキルの数が一定以上」を達成するにも丁度良かった。
クラン経由で回ってきた整備士ギルドのクエストを達成しながら、ジョブとスキルのレベルを上げる日々。ペースを維持すれば、二週間程度でカンストできるはずだ。
 そうして【整備士】として働いていたある日、俄かにクランの本拠地内が騒がしくなった。
普段から騒がしい本拠地だが、今日の喧騒は私がこれまで経験したものとは気配が違った。
「何かあったのですか?」
「隣の四番試験場で実験機が暴走したらしい。今は収拾に当たっている真っ最中だ」
 四番試験場といえば、たしか怨念を動力とする機関のテストをしていたはずだ。
 それが暴走したとなると、
「危険だ……」
 従来の<マジンギア>のようにパイロットがMPを供給しなくても、周囲の怨念を吸収して動き続ける。止めるには破壊するしかないが、……!
 不意に、私のいた施設の壁を破って一機の<マジンギア>が侵入してくる。
 それは【マーシャルII】によく似ていたが、細部が違う。最大の違いとしてコクピットの代わりにガラスケースのようなものが収まっており、内部では黒紫色の光が揺らめいている。
 それが暴走中の実験機であることは疑いようがなかった。
『UUUUUUAAAAAAAA!!』
 実験機は周囲のものを手当たり次第に破壊しながら、やがて生者へと狙いを定める。
 それは<マスター>も、クラン内で働いているティアンも見境がない。
「まずい! 【ガレージ】を……!」
 オーナーから受け取った私の【マーシャルII】を出して応戦しようとしたが、展開が間に合わない。広げるよりも、出撃するよりも、実験機の凶行がティアンに及ぶ方が速い。
このままでは、……そう思ったとき、
「――«デッドリー・エクスプロード»」
 実験機の内側で揺らめいていた怨念が一点に収束し――小規模な爆発を起こした。
 動力にして動かす意思そのものであった怨念が爆散したことで、実験機は仰向けに倒れて動きを止める。それはもう、骸としか言いようのないものとなっていた。
 人に害をなそうとした怨念の実験機は、既にその怨念を消されている。
「た、助かりました。ベネトナシュさん!」
「私も稼働実験に立ち会っていれば良かったのですが……すみません」
 あの実験機のテストに参加していたメンバーであるゼルバールさんが誰かと話している。
 紫の少女を連れた見覚えのない男性。けれど、ベネトナシュという名前には聞き覚えがある。
【冥王】ベネトナシュ。七大国家に所属しない<超級>であり、あの実験機を作るにあたって怨念の収集等を担当した協力者だ。そして、今回の実験機の暴走を止めたのも彼であるらしい。
だというのに、彼はしきりに謝っていた。まるで、自分が関わったことで起きた不幸は全て自分の責任だと思っているかのように。

彼が去った後に【整備士】の仕事の一環として実験機の解体を手伝った。
結局、私があの【冥王】と直接話すことはなかったけれど……一つの予感があった。
恐らくは、いつか、どこかで、私とあの【冥王】はまた出会うことになるだろう、と。
私同様に、メイデンの<エンブリオ>を連れたあの人物に……。

Episode End