ノイエン:はいはーい。萌黄の歌姫ノイエンでぇす。「アーカイアの車窓から」今回は、歌術の国の白銀の都、フェァマインからお送りします。ゲストは、みたび登場のヴィオレッタさんです。
ヴィオレッタ:フェァマインへようこそ。ノイエン。
ノイエン:今回も何とか、同じカッコでいられますよ。
ヴィオレッタ:もう少しすると、寒くなってくる時期ゆえ、そろそろ店の軒先にコートが並ぶであろ。
ノイエン:じゃ、今回こそ買っていきますね。さて、フェァマインの紹介なんですけど、なんと言っても塔ですか。
ヴィオレッタ:そうであるな。他の国の都市では、フェァマインに建つほどの高さの塔は、なかなかないであろうしな。
ノイエン:やっぱり歌術を使うんですか?
ヴィオレッタ:もちろん。昔ながらの城壁や城に始まり、大事な施設の建設には、必ずその手の歌術を得意とする歌姫が参加する。
ノイエン:どんな歌術をかけるんですか?
ヴィオレッタ:建物はいきなり地面に石を置くのではなく、基礎を造る。地を掘って、地面にも建物が支えられるようにな。そのときに基礎となる部分と地との結びつきを強化するのだ。他国でも、重要施設であれば、それくらいはするであろ。
ノイエン:なるほどなるほど。そうすると、その上に作る建物は頑丈になるんですね。
ヴィオレッタ:揺れたり、傾いたりはほとんどなくなるな。上に作るものに関しては、それ自体の強度があるのだ。
ノイエン:それは別に歌術をかける?
ヴィオレッタ:さよう。塔にしろ、別の建物にしろ、石で組んでゆきつつ、石同士の結びつきを強める歌を織り込んでゆくのだ。
ノイエン:それも他の国でもやっているのでは?
ヴィオレッタ:そこが少々異なるのだ。一般的に結びつきの強化の歌術だけでなく、使う石の産出地や、その建物を建てる場所に住んでいたりと、歌姫も関係性を持った者が、建築の場で強化を担当するのだ。
ノイエン:へぇ〜。それでフェァマインのやけに高い塔は、倒れるどころか傾きもしないんですね。だけど、それってバラしていいんですか?
ヴィオレッタ:建材、建築場所、歌術といった「縁」の組み合わせをすべて満たすのは、よほど事前に計画を練ってからでないと成り立たぬ。
その歌術と、石切場のある地域と、そして建築する場所。ヴァッサァマインではその条件を満たす歌姫がそれなりにおるが、歌姫の修行の方法が異なるゆえ、他国が模倣するのは困難であろう。かまわぬ。
ノイエン:言われてみれば確かに。じゃ、フェァマイン城や市街地なんかの建物、城壁とか、みんなそうやって建築されたんですか?
ヴィオレッタ:最近は市街地も手狭になっておって、塔や大型の建物は造られておらぬがな。城壁は歌姫大戦以前より、ヒビ一つ入らぬし、塔も大半が100年以上の歴史を持っておる。
ノイエン:すごいすごい。街の構成はどのようになっているんですか?中央が官庁街とか?
ヴィオレッタ:役所はすべてフェァマイン城内に構えられており、外は案内のみ。基本的には中央の方が資産家が住む区画となっておるな。
ノイエン:塔って、国の建物なんですか?
ヴィオレッタ:いや、歌姫が個人で所有しておる塔もある。歌姫になったばかりの者が、先達の弟子となり、代々引き継ぐといった形だな。当然ながら、その分の力は備わった歌姫が塔を住まいとしておる。
ノイエン:塔は力のある歌姫の証明、ということなんですね。さて、時間が来てしまいました。ありがとうございます、ヴィオレッタさん
ヴィオレッタ:うむ、ノイエンもご苦労であるな。
ノイエン:いえいえ。わたしはこのあとコートを買いに行きますから。
ヴィオレッタ:さようか。これから寒くなるゆえ、すこしはクアリッタを見習って、整った服装を心がけよ。
ノイエン:寒くなったらそうしまーす。ではでは、みなさんまたねぇ〜っ。

§ フェァマイン(ヴァッサァマイン)

地図
歌術の国の中心地、白銀の都がフェァマインである。"白銀"は当然のことながら、冬季の降雪からつけられた。国土のほぼ半分が高地に乗っているヴァッサァマインの中でも、フェァマインは標高が高い地域であるため、同北緯の地域より寒冷で、雪に閉ざされるというほどではないが、冬場は雪が積もり、春まで溶けない根雪も見られる。
市街地は、一部の場末な通りを除けば整備が行き届いている。歴史の長い建物も多い。
城壁、城、塔などの重要施設は歌術により特に強化されて建築されており、他の都市には見られないほどの高い塔が多く、フェァマイン独自の景観を形作っている。
街の中央にあるフェァマイン城と、その周辺の数本の塔は国か、あるいはポザネオ評議会の出先機関の施設だが、それ以外の塔は、それぞれが別の歌姫による個人所有の建物である。
これらの個人の塔は、力のある歌姫が所有しており、それぞれで徒弟制度に近い形の私塾のような、小規模な組合いのようなものを形成している。力のある歌姫が、歌姫候補や新たに歌姫になった者を弟子とし、この塔、あるいはヴァッサァマイン各地で、修行をさせたりするのである。

ヴァッサァマインはアーカイア東岸貿易の主要国のひとつではあるが、海抜が高く、海にも面してもいないフェァマインは港を持たない。主港は北東すぐにあるヴォレアインカウフェが担っているため、フェァマインとヴォレアインカウフェの間の街道はかなり整備されている。
海抜が高いフェァマインと海と同じ高さの港湾都市を結ぶため、その道は地理的に急勾配となっている。とはいえ、すべて石敷きで、広い部分は貨物用に坂にしてあるが、徒歩の旅人のため、必要な場所には緩やかな階段も備え付けられている。このように物流に関して整備はされているものの、大口の売買はヴォレアインカウフェで成されるため、フェァマインは大規模な取引市場は持たない。

西に目を転じると、クリークバルドへくだっていく緩やかな斜面となっている。
途中にはクリークバルトから出てくる敵を迎え撃つ位置に砦が築かれており、フェァマイン城の見張り塔からは、この砦が置かれた地域までを監視することができる。これは、人がただ見るのではなく、その方角に開いた窓に歌術が施してあり、遠くまでを一望できることによる。
歌姫大戦は奇声蟲との戦いであり、その後に国家間の戦争はなかったとはいえ、トロンメルを対立国としてみていたのは、周知の事実と言える。