ノイエン:ども!みなさん。ノイエンです。「アーカイアの車窓から」第6回は、アーカイアに住む人なら必ず一度は訪れるポザネオ島からお送りします。
クアリッタ:こんにちは。"瑠璃の歌姫"クアリッタです。ノイエンを補助するためにおじゃまいたします。
ノイエン:ちょっと!それじゃ私が頼りないみたいじゃない。
クアリッタ:前回のゲストの件もございます。それにノイエン、「車窓」がなんだかご存じないまま続けていません?
ノイエン:!!、どっ、どしてそれを・・・あっ。
クアリッタ:いまさら手で口を抑えても駄目ですよ。
ちなみに「車窓」というのはアーカイアでは数少ない天蓋をつけた車輪つき乗り物の、衝立(ついたて)や壁についている窓のことです。外を見たり換気のためでしょう、覆いがふたのようについていて、必要なときに開けたり閉めたりできるそうですわ。
母姫様や三姫の方々がごくまれにお使いになられます車に備えられているそうな。
ノイエン:と、いうことはクアリッタも見たことないんだ?
クアリッタ:ええ。母姫さまに三姫や評議会の方々はあまりポザネオからお出ましなさいませんし、そうでなくともお忍びですもの。白銀の姫様は他の方々にくらべれば、ご出身のヴァッサァマインへお出かけになることが多いとか。
さ、気を取り直してポザネオをご紹介いたしましょう。
ノイエン:・・・。ポザネオ島はトロンメル領の中部西岸に囲まれるようにある、ハルフェアの半分よりもうすこし小さい島です。だけどアーカイアで世界一重要な島でもあります。
最高評議会のアウトリテート議事堂があるポザネオ市をはじめとして、母姫さま、白銀の歌姫さま、闇蒼の歌姫さま、赤銅の歌姫さま、それぞれがおられる城があります。
クアリッタ:ここから北を見ると高い部分だけですが白銀の姫様の「白月城」がみえます。城の南側には湾があり、対岸から見ることのできる、建っている城と水面に写る城の「二重城」の風景は、それは美しいものです。
ノイエン:南に目を向けると、母姫さまの「光輝城」が望めます。赤銅の歌姫様の城は、城とはいっても「黄金の工房」としての建物群だから高い建物がなくて、ここから見ることはできないです。
西の海岸方面には闇蒼の歌姫さまの「紫月城」があります。こちらは西岸にあるポザネオ市との間に「翡翠の峰」があるからもちろん見えない。峰といってもそれほど高い山ではなくて、闇蒼の歌姫の城まで行くのに越えていく道もあります。
クアリッタ:「紫月城」と「白月城」の城下には、それぞれ港もあります。
それから忘れてはならない場所があります。「恵みの塔」もこのポザネオ島にございます。
ノイエン:恵みの塔は・・・あれ?そういえばわたし知らない。島のどこにあるの?
クアリッタ:あら、まだ教わっていないのノイエン?それは一度、お家におもどりになった方がよいですよ。親御さんからお伝えいただくべきことですから。
ノイエン:・・・、今度でいいよっ。
ポザネオは私たち歌姫が、最高評議会から歌姫として認めてもらうために4年に一度の試験を受けに来るところでもあります。これに合格してチョーカーをもらうのがアーカイアに住む多くの人の夢だよね。
クアリッタ:ええ。才能があろうとも「織り歌の首飾り」がなければ歌術は行使できません。そうではなく歌術を使うことを目標としなくとも、歌姫と認められることはとても名誉で誇らしいことですから、皆さん努力なされます。
ノイエン:いまいるポザネオ市は、トロンメルの都エタファとの行き来が多くて、歌姫試験や恵みの塔に行く人だけではなく、旅行者や商店にエタファから日用品を運び込んだりがあって活気もあります。その町並みは白い石を主に使った建築で統一されていて、赤い石がそれに彩りを添えています。
クアリッタ:その中でもアウトリテート議事堂は、アーカイアの英知と芸術の粋を集めたといわれる絢爛な建物で、造り的に優れているだけでなく、装飾なども価値と歴史がある建築物として知られています。
「紫月城」には「叡智の殿堂」に付随した大図書館もありますから、旅行で来るだけではなくせっかくならいろいろな知識を身に付けていくのもよろしいかと思います。
ノイエン:え〜、勉強はやだなぁ。
クアリッタ:あら、努力しないと"萌黄"の評判をさげかねませんよ。歌姫として日々切磋琢磨しなければ。
ノイエン:余計なお世話っ。
そういえばクアリッタ、なんで今日は髪をおろしてんの?お風呂でだって結ったままでいるくせに。髪留めでもなくしたの?
クアリッタ:普通、湯に入るときこそ髪が湯に浸からないように結うものよ。髪留めは今日の気分に合うのがなくて・・・。
ノイエン:クアリッタでもそんなことあるんだ〜。これに出るのに緊張した?そうしていると結構長いのね。
クアリッタ:ノイエン、普段の会話になってしまってますよ!仕事中です。
ノイエン:あ、ヤバ。ごめんなさい。それももう時間!!
そゆことで今日はアーカイアの中心ともいえるポザネオ島はポザネオ市からお送りしました〜。
クアリッタ:それではみなさま、失礼します。

§ ポザネオ

地図
人口と物の流通量こそトロンメルの都エタファに及ばないものの、アーカイアの中心であることは間違いない島。
 特に政(まつりごと)においては、ポザネオ最高評議会がアーカイア全体を取り仕切っていると言っても過言ではない。名目としては各国女王の方が評議会よりも階位が上であるが、実権は白銀の歌姫が率いる評議会がもっており、その会議と評決がポザネオ市にあるアウトリテート議事堂で行われる。この議事堂は歌姫大戦よりはるかに昔に建築されたもので、その建築や装飾、飾られている彫刻などの水準は現在のアーカイアでは再現できないほど精緻なものである。だがこれらも市街地の建物と同様に白と赤の石でできており、ポザネオ市そのものの歴史の古さを証明している。

ポザネオ市以外には、黄金の歌姫とその補佐である三姫(白銀、闇蒼、赤銅)の城がある。それらはポザネオ市に入るほど気楽に入城できるわけではない。
黄金の歌姫の「光輝城」に人は少なく、旅行者はその前を通って見ていくのみで入城することはない。母姫や三姫を煩わせてはならないというのが最高評議会が定めた、旅をする人々にポザネオ市でされる最初の警告であるためだ。恵みの塔へは、黄金の歌姫のほうがお出ましになる。
 それに比べ比較的人が多いのは闇蒼の歌姫の城「紫月城」である。この城の敷地内には闇蒼の歌姫の座す歌術の最高府である「叡智の殿堂」と、それに付随した図書館があり、古い歌の歌詞を始めとする記録が閲覧可能となっている。とはいえその資料のほとんどが古代アーカイア文字で記録されており、現在のアーカイアの言葉として理解するには解読・翻訳が必要となる。また古代の歌においては楽譜と歌詞が別に記録されており、両方が綺麗にそろっていることは稀で、専門に調査している識者の仕事は楽譜と歌詞の突き合せだと言われるほどである。
 もちろん現代アーカイア語で後年に書かれた、歌姫になるための勉学向けの本などもある。それもあり「紫月城」の城下には勉学に励む人々とそれに教鞭を執る教師を生業とする人々や、研究者がそれなりの人数、居住している。

一方で、人は多いが出入りが極度に少ないのが赤銅の歌姫の城である。この城はつまり「黄金の工房」そのものであり、工房の人の出入りは200年前より絶対奏甲を拡散させない方策の一環として評議会の厳しい管理下に置かれている。だが絶対奏甲や幻糸に関しての研究などは絶えず続けられており、今回の騒乱のために黄金の歌姫がおこなった機奏英雄の召喚以前にも、新型アークドライブや絶対奏甲を試作・建造していたし、歌姫大戦終結時に各国から集めた絶対奏甲のほとんどが保管されていた。「紫月城」が「歌術の総本山」であるのに対し、黄金の工房は「幻糸技術の総本山」なのである。
 このほか、15歳以上の者にその場所と意味を親が教える掟となっている「恵みの塔」、歌姫が歌術の行使に必要とする「織り歌の首飾り」を製作する工房などが島内にある。 このように重要な施設と人をポザネオ島へまとめておくことで、最高評議会はアーカイア全国に強大な影響力を維持しているのである。