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2021/03/27

【第6回】ソヴィエト連邦の超兵器「固体燃料式の開発」

 

ソヴィエト連邦の超兵器

大陸間弾道弾 第6回:「固体燃料式の開発」

 

 冷戦時代、その軍事力で世界を震撼させたソヴィエト連邦。彼らの“切り札”というべき最強兵器『大陸間弾道弾』を、核物理学者 多田将氏が6回に分けて解説!

 

 

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固体燃料式大陸間弾道弾の始祖「RT-1」

 

 ここまで液体燃料式の大陸間弾道弾を見てきたが、本節では固体燃料式の開発と運用について見ていこう。

 ソヴィエトで最初の固体燃料式大陸間弾道弾は第1試作設計局による「RT-1」だが、試験結果が思わしくなかったため制式採用には至らなかった。RT-1をもとに改良・開発された「RT-2」がソヴィエト最初の“実用化された”固体燃料式大陸間弾道弾となる。

 第1試作設計局は、同弾道弾の試験機が打ち上げられはじめた1966年の段階で、以降の開発を「第1中央設計局」に引き継ぎ、同設計局のヴァシリイ゠パヴロヴィチ゠ミーシン率いる開発陣がRT-2を完成させる。RT-2はペテルブルクの「第7中央設計局」が改良を担当することになり、ピョートル゠アレクサンドロヴィチ゠テューリン率いる開発陣が「RT-2P」を完成させる。

 

世界初の移動発射式大陸間弾道弾

 

 一方で、第1中央設計局では、アレクサンドル゠ダヴィドヴィチ゠ナディラドゥゼ率いる開発陣によって移動式大陸間弾道弾「RT-21」が開発されたが、政治的問題から実戦配備は見送られた。しかし、そこで培われた技術をもとに、RT-2Pを移動発射式(車輌発射式)とした「RT-2PMトーポリ(ポプラ)」を開発する。RT-2PMは、世界初の移動発射式大陸間弾道弾であり、同シリーズは現在も配備されている。

 ロシア語で「地上移動式ロケット複合体」と呼ばれ、移動から発射まですべての機能が1台の車輌に納められた輸送起倒発射車輌に弾道弾が搭載されている。道路上のみならず不整地も自由に移動し、発射指令を受けてからたった2分(!)で発射できるため、敵の先制攻撃に対する高い生存性と反撃能力を有している。

 弾道弾本体を見ると、RT-2PMは姿勢制御に一般的なノズル偏向方式(ノズルの向きを変えて姿勢を制御する)とは異なる方法を採用している。ノズルは固定されており、鉛直方向に噴出されている燃焼ガスに対して、適宜違う角度からガスを噴き込むことで姿勢を変える。また、第1段には空力舵もついており(第1段は大気圏内を飛行するため)、ガス噴き込みとあわせて姿勢を制御する。

 

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■ロシア核戦力の主力

 

 さらに改良型の「RT-2PM2トーポリM」では、アメリカのミサイル防衛システムを突破することを目的に開発が行われた。具体的には、推力を上げることでブースト・フェイズの時間を短縮し、またブースト・フェイズで複雑な機動を行えるようになっている。これにともない前述の特殊な姿勢制御方式は廃止され、一般的なノズル偏向方式となった。

 誘導方式は通常の慣性航法に加え天測航法(星の方位を観測することで自位置を把握する)を取り入れることで精度を向上。また、モーターケースに複合材料を使用したり、放射線対策(核による迎撃対策)を施したり、他の新世代弾道弾と同様の改良が加えられた。発射車輌はロシア独自の衛星測位システム「グロナス」に対応し、いかなる場所でも正確な発射位置を把握することで、着弾精度を向上させた。

 近年では、RT-2PM2を多弾頭化した「RS-24ヤルス」が登場している。RT-2PMで550キロトン単弾頭、RT-2PM2で1メガトン単弾頭だったものが、RS-24では300キロトン×3ないし4発となった。現在、RT-2PM/RT-2PM 2/RS-24はロシアの主力大陸間弾道弾となっている。ちなみに、ナディラドゥゼはRT-2PM制式採用の前年(1987年)に惜しくも亡くなっており、以降はボリス゠ニコラエヴィチ゠ラグティンが同シリーズの開発陣を率いた。

 

■世界唯一の鉄道発射式大陸間弾道弾

 

 弾道弾開発の雄である第586 試作設計局でも、固体燃料式大陸間弾道弾の開発は行われていた。1960年代初め、ヤンゲリ率いる開発陣は車輌発射式として「RT-20」を開発し、実際に製造されたものとして世界初であったが、実戦配備には至らなかった。その後、ウトゥキンのもとで発展型の「RT-23」の開発が行われたが、開発中にアメリカの大陸間弾道弾LGM-118の情報がもたらされたことで、これを超える性能を目指して改良型「RT-23UTTKhモロデツ(「よくやった」という意味)」として完成した。

 RT-23UTTKhは、第1中央設計局で車輌発射式の開発が行われたが、その100tを超える重量のため実現せず、第586 試作設計局のもとで世界唯一の鉄道発射式大陸間弾道弾として完成した(サイロ式もあわせて配備された)。機能的には、前述の輸送起倒発射車輌と同様であるが、移動範囲が線路上に限られる反面、より車輌発射式より大きな重量の弾道弾を運用できる。事実、RT-23UTTKhは発射重量105 tとRT-2PM(45t)よりもかなりの大型で、その巨体を活かして多弾頭化(430キロトン×10発)されている。

 ロシア語では「戦闘鉄道式ロケット複合体」と呼ばれ、ディーゼル機関車×2輌、燃料タンク車×1輌、発射発令車輌×7輌、弾道弾搭載車輌×3輌(1輌ごと弾道弾1基、合計3基)から成り、この1編成で1個ロケット連隊を構成する。

 RT-23UTTKhは、1990年代には最大でサイロ発射式6個連隊(計56基)、鉄道発射式12個連隊(計36基)が配備されたが、ロシアとアメリカとのあいだの戦略兵器削減条約(2002年 モスクワ条約)で全廃が決定し、現在は残っていない。

 

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解説:多田将

(※WEB掲載にあたって編集部で文章を改編・再構成しています)
イラスト:サンクマ

 


 

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