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2021/03/26

【第5回】ソヴィエト連邦の超兵器「史上最強の弾道弾」

 

ソヴィエト連邦の超兵器

大陸間弾道弾 第5回:「史上最強の弾道弾」

 

 冷戦時代、その軍事力で世界を震撼させたソヴィエト連邦。彼らの“切り札”というべき最強兵器『大陸間弾道弾』を、核物理学者 多田将氏が6回に分けて解説!

 

 

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初めての実用的弾道弾

 

 1954年、コロリョフの設計局で働いていたミハイル゠クジミチ゠ヤンゲリが独立し、ウクライナのドゥニエプロペトロフスク(現ドニプロ)に開設された「第586 試作設計局」の設計局長となった。彼が率いる第586試作設計局は「R-12」、「R-14」 といった中距離弾道弾を開発したのちに、それらで培われた技術をもとに大陸間弾道弾「R-16」を開発した。これら一連の弾道弾は弾道弾に充填したまま貯蔵可能な酸化剤を用いたことで、初めて実用的な弾道弾となった。

 R-16は、直径3m、発射重量140tと巨大な弾道弾だったが、ソヴィエトを象徴する“重大陸間弾道弾”の祖として、その系譜がのちに続いていくことになる。また、R-16からサイロ発射方式が採用され、いよいよ本格的な戦略兵器としての姿が整えられた。

 R-16を大型化したものが「R-36」で、重量180t、投射重量は5tを超えた。R-36は、その巨体を大気圏外に打ち上げるため、第1段には、1つのポンプと2組の燃焼室&ノズルを持つロケットエンジンを3基も搭載していた。合計6基のノズルから燃焼ガスを噴出するさまは圧巻である。なお、このR-36から、燃料に非対称ジメチルヒドラジン、酸化剤に四酸化二窒素を使うようになり、現在でもこの組み合わせが液体燃料式弾道弾のスタンダードになっている。R-36は、燃料と酸化剤を充填したまま7年間の保管が可能となっている。

 

Р-36シリーズの発展

 

 R-36は、「R-36P」、「R-36M」、「R-36M UTTKh」、そして史上最強の大陸間弾道弾「R-36M2ヴォィエヴォダ(司令官)」へと進化し、アメリカに対する“最後の切り札”と目されるようになる。順を追って解説しよう。

 R-36は、各出力8メガトンもしくは20メガトンの単弾頭を搭載していたが、R-36Pでは2.3メガトン弾頭×3発の分割弾頭方式となり、1基の弾道弾で複数目標を攻撃できるようになった。

 R-36Mは、「R-36の改良型」という位置づけだが、第1段のエンジンが1つのポンプに4組の燃焼室&ノズルを組み合わせた1基のロケットエンジンに置き換わるなど、まったく別モノと言えるほどに変化した。弾頭は単弾頭(8メガトンか20メガトン)、400キロトン×10発の分割弾頭、1メガトン×4発および400キロトン×6発の混載分割弾頭――以上のいずれかを選べる。また、戦闘状態(燃料充填状態)での待機期間は10年以上となった。

 また同シリーズの派生型「R-36orb」は、弾頭をいちど衛星軌道まで打ち上げ、その軌道上から地上目標に落下させるという方式が採られ、これは原理的に無限の射程を持つ“全地球攻撃システム”とでも言うべきものだった。1968年から計18基が実戦配備されたが、米ソの戦略兵器削減交渉(第2次戦略兵器制限交渉)の制限対象となり1983年に全廃されている。

 最終的に同シリーズは、分割弾頭の性能を高めたR-36M UTTKhを経て、完成形と言うべきR-36M2にいたる。同型はヤンゲリのもとで開発がスタートしたが、彼は1971年に亡くなり、ヴラディーミル゠フョードロヴィチ゠ウトゥキンが開発陣を率いた。

 

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西側が恐れた“魔王”

 

 R-36M2は冷戦が生んだ“怪物”であり直径3 m、発射重量211tの、とてつもなく巨大な弾道弾である。アメリカの大陸間弾道弾LGM-30の発射重量35tと比較すると、その巨大さが理解できるだろう。

 最大射程16,000km、最大投射重量は8,800kg。弾頭は短弾頭(8メガトンか20メガトン)、750キロトン×10発の分割弾頭、もしくは750キロトン×6発および150キロトン機動式核弾頭(誘導戦闘ユニット)×4発――のいずれかを選べる。

 単に巨大で投射重量が大きいというだけではなく、能力面でもさまざまに改良された。

 

  • 発射指令を受けてから、発射するまでの時間を短縮した。
  • ロケットエンジンの推力を上げて、探知されやすく攻撃に脆弱なブースト・フェイズの時間を短縮した。
  • 核による迎撃や核攻撃下での発射も考慮し、耐放射線コーティングを施して耐性を高めた。
  • 分割段を改良して弾頭の命中精度を高めた。さらに1基が攻撃できる目標の範囲を広げた(弾頭をより広い範囲に落とせるようにした)。
  • 戦闘状態での待機期間を15年に延長した。

 

 実戦配備は1988年からだが、本書の執筆時点でもロシア軍では46基が実戦運用されている。冷戦時代、西側はR-36M2(および同M、同M UTTKh)に「サタン(魔王)」のコードネームを与えており、いかに恐れていたのかが伺える。

 1991年、ソヴィエト連邦の解体により設計局が所在するウクライナが別の国となったことで、R-36の系譜は途切れてしまう。しかし“最後の切り札”の価値は計り知れず、ロシアは自国の技術でR-36M2を再設計した新型重大陸間弾道弾「RS-28 サルマート(サルマティア人)」を開発中である。

 

第6回:「固体燃料式の開発」はこちら

 

解説:多田将

(※WEB掲載にあたって編集部で文章を改編・再構成しています)
イラスト:サンクマ

 


 

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 本記事は、現在好評発売中の『ソヴィエト連邦の超兵器 戦略兵器編』より抜粋。独自の考え方に基づくソヴィエト連邦の兵器開発の流れを、豊富なイラストを添えてわかりやすく紹介している。『戦略兵器編』では、大陸間弾道弾に加え、海洋発射型弾道弾と搭載潜水艦、各種の水上艦艇や潜水艦などを解説している!