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2021/03/25

【第4回】ソヴィエト連邦の超兵器「ソヴィエト/ロシアの弾道弾開発」

 

ソヴィエト連邦の超兵器

大陸間弾道弾 第4回:「ソヴィエト/ロシアの弾道弾開発」

 

 冷戦時代、その軍事力で世界を震撼させたソヴィエト連邦。彼らの“切り札”というべき最強兵器『大陸間弾道弾』を、核物理学者 多田将氏が6回に分けて解説!

 

 

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ドイツの遺産を奪い損なう

 

 さて、前置きが長くなったが、ここからソヴィエト大陸間弾道弾の開発史を紐解いていこう。

 人類が開発した弾道弾のすべての祖先は、前述のとおりドイツが開発したV2である。第2次世界大戦(ソヴィエトでは「大祖国戦争」)でドイツが敗れると、連合国側は競って彼らの兵器技術を手に入れようとした。弾道弾は他国が持っていない画期的な新兵器であったため、ソヴィエトは喉から手が出るほど欲したが、ヴェルナー・フォン・ブラウンをはじめとする開発者たちはみなアメリカ軍に投降したため、ソヴィエト赤軍がドイツを占領したとき手にできたのは、末端の技術者とV2の現物だけであった。こののち、アメリカがブラウンを中心に弾道弾開発を進めたのに対して、ソヴィエトは手に入れたV2をもとに独自開発を進めるしかなかった。

 ソヴィエトでは、弾道弾開発のために「第1試作設計局」を設立し、その設計局長にセルゲイ゠パヴロヴィチ゠コロリョフを就けた。のちにブラウンと並び「ロケットの父」と呼ばれることとなる人物だ。

 

宇宙開発でいまなお現役

 

 コロリョフ率いる開発陣が最初に行ったのは、当時国内で入手できる素材や部品を使って、V2を再現することだった。そうして作られたのが、ソヴィエトのロケットの始祖――「R-1」であった。これに独自の改良を盛り込んだ「R-2」を経て、これらを発展させて弾道弾の開発を進めていった。

 コロリョフの名を不動のものとしたのは、人類初の大陸間弾道弾「R-7」の開発である。R-7は、イカのようにたくさんの“脚”がついた、とても特徴的なスタイルをしている。この4本の“脚”は第1段ロケットで、それらに囲まれた中心軸上に第2段ロケットを備えている。第1段ロケットと第2段ロケットは同時に点火され、先に第1段の燃料が尽きる。第2段(および第3段と弾頭)は第1段の上に“載っている”だけであり、第2段が上昇を続ける一方で、第1段は自重で落下する。これは第1段の切り離し構造や、第2段の点火システムに特別な技術を必要としない、シンプルかつユニークな方法である。この分離の瞬間を地上から見ると、第2段を中心に4本の第1段ロケットが“花弁が開くように”落下していくことから、その光景はとても美しいそうだ。なお、第2段の上に第3段があり、こちらは第2段の切り離しとあわせて、第3段の点火を行う。

 R-7は人類初の弾道弾であると同時に、宇宙開発用ロケットとしても多大な成果をあげている。特に有名なものは、1957年10月4日に人類初の人工衛星であるスプートニク1号を打ち上げたこと、そして1961年4月12日に人類初の宇宙飛行士ユーリィ゠アレクセイヴィチ゠ガガーリンを宇宙に送り出したことだ。また、驚くべきことに50年代に開発されたR-7の派生型(「ソユーズ」の名で知られる)は現在でも宇宙に人や物を送り続けている。コロリョフたちの設計が、いかに完成されたものであったかを物語る事実と言えるだろう。

 

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■兵器としての限界

 

 さて、宇宙開発用ロケットとしては完成されていたR-7だが、弾道弾としては“とにかく実用化をはじめた”という程度のものでしかない。もっとも大きな理由は、酸化剤に液体酸素を用いていることだ。前述のとおり、液体酸素はタンクに貯蔵したまま保管することができず、即応性に欠けている。発射重量は270tに達し、地上の発射台から発射する方式だったこともあり、実用的な兵器とは言い難かった(加えてイカのような形状は、こののち主流となるサイロ発射式には適さない)。

 次に開発されたのが「R-9」で、発射重量は80tに抑えられ、サイロに納まりやすい円柱状のすっきりしたかたちとなった。射程は大幅に伸び、液体酸素の充填時間は20分にまで短縮されたが、それでも“マシになった”程度の変化でしかなかった。

 第1試作設計局はこれを最後に兵器開発から手を引き、以降は宇宙開発用ロケット専業となる。

 

第5回:「史上最強の弾道弾」はこちら

 

解説:多田将

(※WEB掲載にあたって編集部で文章を改編・再構成しています)
イラスト:サンクマ

 


 

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 本記事は、現在好評発売中の『ソヴィエト連邦の超兵器 戦略兵器編』より抜粋。独自の考え方に基づくソヴィエト連邦の兵器開発の流れを、豊富なイラストを添えてわかりやすく紹介している。『戦略兵器編』では、大陸間弾道弾に加え、海洋発射型弾道弾と搭載潜水艦、各種の水上艦艇や潜水艦などを解説している!

 

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