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2021/03/22

【第1回】ソヴィエト連邦の超兵器「弾道弾の基礎知識」

 

ソヴィエト連邦の超兵器

大陸間弾道弾 第1回:「弾道弾の基礎知識」

 

 冷戦時代、その軍事力で世界を震撼させたソヴィエト連邦。彼らの“切り札”というべき最強兵器『大陸間弾道弾』を、核物理学者 多田将氏が6回に分けて解説!

 

 

文字通りの“最終兵器”

 

 現在でも、世界の核兵器の9割はロシア連邦とアメリカ合衆国が保有しているが、冷戦期には、それよりもさらに“1桁”多い数をソヴィエト連邦とアメリカ合衆国が保有し、他国を寄せ付けない二大超大国として君臨していた。

 核兵器は人類が生み出した最強の兵器ではあるが、それ単独では価値が乏しく、“運搬手段”が整って、はじめてその威力を発揮する。核兵器の運搬手段には弾道ミサイルや巡航ミサイルなどの「ミサイル」と、爆撃機などの「航空機」がある。

 なかでも弾道弾(戦略弾道弾)は、多くの資金と労力を注ぎ込んで開発したにもかかわらず、これまで一度たりとも使われたことがない兵器である。もし今、ロシアとアメリカが全面核戦争を起こしたときには、その主役は弾道弾となるだろうが、「使われたときがこの世の終わり」と言うべき、文字通りの“最終兵器”なのである。

 この二大超大国は、冷戦期にはほぼ全ての弾道弾を常時発射可能な“即応状態”としており、いつでも30分で世界を滅ぼせる状態にあった。現在でも、ロシアとアメリカは“即応状態”を維持しており、通常兵器では他国との差があまりなくなったとは言え、こと核兵器に限って言えば、いまだに露米両国は他国を寄せ付けない存在である。

 

落下する人工衛星

 

 本章のテーマであるソヴィエト連邦の弾道弾について話す前に、「そもそも弾道弾とは、どのような兵器なのか?」について簡単に説明しよう。

 史上初の戦略ロケット兵器であるドイツのV1とV2が第2次世界大戦で使用されて以来、現在にいたるまで対地用のミサイルは、この2つの子孫によって占められている。

 V1の子孫が巡航ミサイル、V2の子孫が弾道ミサイル(弾道弾)である。この両者の違いは、前者が“無人の航空機”と呼べるものであり、大気圏内を翼による揚力を得ながら常時エンジンを稼働させて水平飛行で目標に向かうのに対して、後者は打ち上げるときにだけエンジンを稼働させ、それ以降の大部分の経路では重力に従って落下するだけ――人工衛星と同じように地球の重心を焦点の一つとする楕円軌道を描く――ということである(弾道弾の軌道について「放物線」と解説されているものもあるが、間違いである)。弾道弾とは、ようするに「地面に落下してしまう人工衛星」なのである。

 

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圧倒的速度により迎撃は極めて困難

 

 巡航ミサイルは、揚力を得るため大気圏内(空気があるところ)を飛行する必要があり、飛行経路を空から俯瞰すると、地表を這うように飛翔することになる。一方で弾道弾は、大部分が動力なしで落下するだけなので、空気抵抗が生ずる大気圏内はむしろ短時間で通過するのが望ましく、軌道の大部分は大気圏外を飛翔する。このため、弾道弾のほうが巡航ミサイルよりも圧倒的に高速である。

 巡航ミサイルが、現在主流のもので亜音速、最高速のものでマッハ4、ロシアで現在開発中の「極超音速有翼ロケット」でもマッハ10以下であるのに対して、弾道弾は最大でマッハ20を超えるものもある。こうした桁違いの速度こそが、弾道弾を“超兵器”たらしめるものである。

 この圧倒的な速度が引き起こす“強み”は主に2つある。ひとつは、迎撃が極めて困難となることである。弾道弾より速い兵器がないとなれば、迎撃体は追い駆けることはできず、軌道を予測して“ある瞬間の、ある場所に”自分も向かう「待ち合わせ」によって迎え撃つしかない。しかし、射程10,000kmという地球規模の範囲を、マッハ20という超高速で飛行する、弾頭サイズ1m程度の物体を「待ち合わせ」するのは容易ではない。時間にして0.0001秒の「待ち合わせ」である。

 もうひとつは対処に許される時間が極めて短いことである。冒頭でも述べたように、大陸間弾道弾が打ち上げられてから着弾するまでに、わずか30分ほどしかかからない。この30分の間に、発射を探知し、軌道を把握し、それをもとに着弾地点を予測し、反撃を決断しなければならない。同じ距離を半日かけて飛行する爆撃機とは、まったく別次元の兵器だと言えよう。ロシアやアメリカのような弾道弾超大国が本気になって弾道弾を発射した場合、それを防ぐ手段は、現時点では存在しない(現在配備されているミサイル防衛網は、少数の弾道弾に対する防御方法にすぎない)。このように、弾道弾と並ぶことができる兵器は、今のところ一切存在しないのだ。

 

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第2回:「液体燃料と固体燃料」はこちら

 

解説:多田将

(※WEB掲載にあたって編集部で文章を改編・再構成しています)
イラスト:サンクマ

 


 

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 本記事は、現在好評発売中の『ソヴィエト連邦の超兵器 戦略兵器編』より抜粋。独自の考え方に基づくソヴィエト連邦の兵器開発の流れを、豊富なイラストを添えてわかりやすく紹介している。『戦略兵器編』では、大陸間弾道弾に加え、海洋発射型弾道弾と搭載潜水艦、各種の水上艦艇や潜水艦などを解説している!