自衛隊 新拳銃候補にベレッタ APXがあったのはなぜか

 

自衛隊新拳銃選定トライアルで敗退したAPXは、どんな銃なのか?

 

Photo courtesy of Beretta Defense Technologies

 

 2019年12月6日、防衛省は自衛隊の新小銃、新拳銃として豊和工業製20式小銃とヘッケラー&コッホ製SFP9を採用したことを発表したことは、多くの皆さんがご存じの通りだ。このずっと前から、新小銃は20式の他、FNH製SCAR-Lとヘッケラー&コッホ製HK416が候補であり、新拳銃はSFP9の他、グロック製のグロック17と、ベレッタ製APXが候補であることも公表されていた。そして、この中から令和元年中に選定結果を発表することも公表済みであった。したがってこの新小銃、新拳銃の決定は、すべて計画通りに進行したことになる。

 

自衛隊が新たに採用したHeckler & Koch SFP9 M    photo by Satoshi Matsuo


 どちらも3機種を候補として、そこからもっとも自衛隊に相応しいものを選んだということなのだろうが、その選定候補は果たして妥当なものだったといえるのだろうか。もっと多くの選択肢を定め、そこから選定していたら、結果はもっと違うものになっていたのではないかと感じる。特に新拳銃の選定には、それを強く感じた。アメリカ陸軍の新サービスハンドガンを選定するMHSコンペティションで、2017年1月にM17、およびM18として選定されたSIG SAUER P320は候補に入っていないからだ。M17、M18はその後、アメリカ全軍によって採用されている。当初、構造的問題で暴発事故が発生したが、SIG SAUERは速やかに対応し、この問題はクリアされた。


 アメリカは日本の防衛における最大の同盟国だ。そのアメリカが選定したP320なら、極端な話、防衛省は自国の選定トライアルを大幅に省略して採用しても、ほとんど間違いはないだろう。2019年夏、“自衛隊がP320を選定した”という誤情報が流れた。情報の出所は不明だが、選定理由はアメリカからの外圧だという。もっともこれは完全なハズレだった。自分としては、この情報を聞いた時、信じなかった。アメリカが自衛隊の新拳銃選定ごときに口を出してくるとは思えない。
 実際に防衛省はP320もテストに加えたのかもしれない。参考としてだ。その上でSFP9を選んだのであれば、何も問題はない。H&KはMHSコンペティションに参加しなかった。したがってP320とSFP9(VP9)はこれまで大規模トライアルで比較されていない。

 防衛省のトライアルで候補となったグロック17とベレッタAPXはともにMHSトライアルに参戦、SIG SAUER P320に敗れている。もっともMHSトライアルのタイミングではまだグロックはGen5になっていない。
 もちろん銃のトライアルは、判断基準をどこに置くかで結果が左右される。MHSトライアルの勝者であるP320は、他の候補銃とくらべて絶対的に優れていると言い切ることはできない。しかし、MHSトライアルの結果、P320は間違いなく優秀なハンドガンであることを示している。

 

SIG SAUER P320-M17   米軍納入モデルの市販型  Photo by Turk Takano

 

 防衛省がトライアルの候補にグロックを加えたのは、間違いなく正解だ。グロックはMHSトライアルでP320とともに最終候補まで残った。基本設計から40年近くが経過したグロックだが、小改良を重ねて、現在もトップクラスに位置する。2012年、イギリス軍もグロック Gen4をL31A1として採用した。2016年にはFBIがグロック17M、および19Mを採用している。防衛省の新拳銃発表の翌月だが、フランス軍もグロックGen5を採用したことが発表された。

 

Glock 17 Gen5  Photo by Hiro Soga

 

 しかし、ベレッタAPXにはそういった輝かしい実績はない。だからといってベレッタAPXを候補にいれたことは間違いではない。ベレッタAPXは、大手ガンメーカーとしては後発の“グロックもどき”だ。各社はグロックの大成功を受けて、かなりの回り道をしながらも、自社製グロックを開発してきた。グロックのセイフアクションに近いシングルアクショントリガー、もしくはセイフアクションそのものもトリガーを組み込んだ製品を出している。グロックのトリガーシステムは既にパテントが切れ、そっくりそのままコピーしても、誰も文句は言えない。

 

Beretta APX  
Photo courtesy of  Fabbrica d'Armi Pietro Beretta S.p.A. 

 

 


 大手ガンメーカーは、プライドからグロックの真似はできなかったが、今ではそんなことは言ってられなくなった。ベレッタがずっとやせ我慢してきたが、MHSトライアルに既存のM9をアップデートしたM9A3を提示したものの、アメリカ軍に門前払いにされ、それならばと出してきたのが、APXだ。いわばベレッタ流のグロックであり、ベレッタの解釈によるグロック改良型というべき存在だ。中身はほとんどグロック並みながら、SIG SAUER P250、P320のファイアコントロールユニットに似たシャシー構造を採用、グリップフレームやスライド、バレルを組み換え、フルサイズ、コンパクト、サブコンパクト、タクティカルといった仕様に自由に組み替えることが可能だ。なぜかベレッタはこの“着せ替え機能”をあまり宣伝していないのだが。ベレッタAPXはその特徴だけで見れば、グロックよりも優れた最新のハンドガンなのだ。だから防衛省がAPXを選定候補に加えたことは間違いではない。APXはグロックをベースに、さらなる改良を加えた製品だ。このことを理解した上で選定候補にいれたのであれば、それは正しい判断だ。しかし、MHSコンペティションでAPXはグロックに敗れている。この事実を踏まえた上で、改めて評価しようということだったのだろうか。

 

Beretta APX  
Photo courtesy of  Fabbrica d'Armi Pietro Beretta S.p.A. 


 現状、APXの市場での人気はイマイチだ。既に述べた通り、輝かしい実績はまだない。2015年2月22日、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されたIDEX(International Defence Exhibition & Conference)2015で発表したものの、アメリカのMHSコンペティションの決着がつくまで市販化を控えたことは、戦略的に失敗だったと思う。2017年にAPXの市販を開始したときはすでにMHSコンペティションの敗者としてのイメージができ上ってしまった。その意味では、もし自衛隊がベレッタAPXを採用したなら、APXとして一つの勲章となっただろう。一国の防衛部隊による全面採用だ。結果は敗退に終わり、またもや敗北の記録を重ねてしまったわけだ。
 

Image courtesy of Fabbrica d'Armi Pietro Beretta S.p.A. 


 APXを候補にいれたのなら、防衛省は他にも検討すべき製品はあったと思う。S&W M&P M2.0や、FNH 509、ワルサーPPQ、ルガーアメリカンピストルデューティといった製品だ。これらはどれも大手ガンメーカーが繰り出してきた“グロックもどき”だ。ワルサーやルガーはMHSコンペティションに出ていない(SFP9もだ)ので、このタイミングで比較するのは価値がある。もちろん既に述べた通り、SIG SAUER P320も絶対に加えるべきだったモデルだ。

 

Photo courtesy of Beretta Defense Technologies


 自衛隊はどうやら離島防衛を視野にいれ、耐水性能や水中射撃能力を重視して新小銃、新拳銃を選定したようだ。それならH&K SFP9 M(Maritime:ドイツ語読みではマリティマ)を選定したのは妥当な判断だ。しかし、グロックやワルサーは水中射撃対応のオプションを用意している。水中ではストライカーの打撃パワーが減衰してしまう問題に対しては、おそらくSIG SAUERもベレッタも、そしてFN等もそのソリューションは持っているはずだ。防衛省の選定担当者と銃器メーカーが、何度もキャッチボールをしながら選定作業を進めたら、結果は違ったものになったかもしれない。それとも、それをじゅうぶんにおこなった結果がSFP9だったということなのだろうか。選定作業の詳細が明らかになっていない以上、ここは推測しかできないのだ。
 



 「月刊ガンプロフェッショナルズ2021年1月号」では、“自衛隊新拳銃候補だったベレッタAPX”と題し、初めてのAPX実射レポートを掲載している。レポーターは実銃レポート歴が50年に近い銃のスペシャリストであるTurk Takano氏だ。自衛隊新拳銃には採用されなかったとはいえ、候補だったAPXがどんな銃なのか、その実態は確認しておくことは意味があるだろう。もしかしたら、“9mm拳銃APX”として採用配備された可能性もあったのだ。記事中には、もしかしてこれが敗退の原因ではないかということも、ちょっとだけ触れている。ご興味をお持ちの方はぜひご覧いただきたい。

 

Text:Satoshi Matsuo