クアリッタの音楽室  「時代を越えて活躍した名奏甲2」
歌姫対戦という過去から系譜が続いたのが「シャルラッハロート」シリーズだとすれば、英雄大戦以後にも腕の立つ機奏英雄により奏でられた未来への系譜となるのが「フォイアロート・シュヴァルベ」です。
シュヴァルベは、英雄大戦がまだそう呼ばれてもいない初頭に開発された機種のひとつです。同時期には、フォイアロート、ヘルテンツァー、プルプァ・ケーファ、リーゼ・ミルヒヴァイスと、汎用のシャルラッハロートに対して用途に特化した種を、黄金の工房が意欲的に製作していました。同機はそのなかで、飛行をテーマにした機動性に特化した種です。
発表当初は初の飛行型奏甲として高名を得ましたが、機体の設計上の構成などから、後に歴史の表舞台に登場したミリアルデ・ブリッツや、六番目の星芒奏甲クロイツ・ゼクストを参考にしたと考えられるに至っています。このふたつの奏甲は、建造がいつなのか不明ながら歌姫大戦で奇声蟲相手に奮戦したことが知られており、かつ飛行が可能なのです。これらの奏甲を参考にしたからか、シュヴァルベは数奇な運命をたどる奏甲となります。
まず、初頭の奇声蟲討伐の際には、新型機の中でも奇声蟲に対しての高戦闘力が期待され、建造されたほぼすべてが戦線へ投入、修理用の予備が不足します。元より飛行装置の複雑さ、デリケートさに操作の難しさが重なり、この時点で多数が稼動困難な損害を出し、多くの英雄が機種転換を余儀なくされます。一方で黄金の工房は、建造の手間と戦果が引き合わないと判断。早々に建造終了を決定してしまいます。
ですが、奇声蟲討伐を同機で戦い抜いた英雄の戦果は高いものでした。この事態は、シュヴァルベとその英雄の特殊性を際立たせてしまいます。
白銀の歌姫の叛乱による奏甲対奏甲戦闘において、シュヴァルベを各部隊に支援小隊として配備する数は無く、他の奏甲は同行できないため同機種だけの部隊が編成されます。この部隊は飛行戦隊として、長距離でも調律可能な歌姫との組み合わせにより、基地より各戦線を支援する「どこでも屋」となります。これは互いの敵のシュヴァルベ隊への対抗部隊でもありました。
状況が変わったのは、対奏甲空戦に注力したハルニッシュ・ヴルムの配備からです。ヴルムは現世での「戦闘機」の運用を参考に、数をそろえ、英雄の個人的希望と離れ、転換命令を伴って配備されました。また操縦系統の多くを英雄でなく奏甲が処理することで、操縦の難易度は大きく下がっていました。これにカノーネ・オルケスタが対地攻撃を分担することで、現世の航空戦力に近い体制が成立し、シュヴァルベは倉庫に眠ることになります。
これが同機の寿命を延ばしました。軍に参加しない英雄の支援の中で、無色の工房による飛行装置の改良と、その装備機種として、ミリアルデを実際に調査した上でビリオーン・ブリッツが開発されました。ビリオーンは戦績著しい英雄にのみ渡された奏甲ですが、代わりに技術を反映したシュヴァルベの改修機が渡される例がありました。ベースになったのは倉庫に眠っていた機体群です。また軍未参加の英雄のシュヴァルベの戦績や整備記録が、ビリオーンや改修機に活かされていました。
この改修を受けた少数のシュヴァルベは、無色の工房が集めた機体を予備機に、大戦を戦い抜きます。その中には、黄金の歌姫のロイヤルガードの英雄の機体や、ヴルム部隊の隊長が希望して配備され、ヴルムの機動力、航続距離に引けをとらず決戦から生還、といった英雄譚が伝えられています。
これらの改良機の中には、アークドライブの換装を受け、幻糸が減少した後にも運用された機体や、工房により、ローザリッタァに見られる歌術不要技術実験が施された1機があると言われています。
また、英雄大戦末期の混乱の中で、各陣営や無色の工房が把握できなかった、改修を受けていない保管機体が発見され、何かしらの手段で薄幻糸対応し、運用されたことが機奏英雄のギネスによって報告されました。(これらは盗賊団によって運用されていたため、彼に撃破されました。)