場所は伏す『キングスポート・フェスティバル』


ゲームにおけるテーマの大事さに関しては、成功しているファンタジーのゲームの人が言及しているのでご存知と思いますが……
今回紹介いたしますのは、
キングスポート・フェスティバル
で、テーマはアメリカを中心に人気のクトゥルフ物で、元ネタは『魔宴(Festival
)』です。

元ネタのおはなしは、主人公が一族の開く100年に一度の祭りに参加するためにキングスポートに行くと、一族の長である老人は恐ろしい儀式を開こうとしているところで、参加したくなので命からがら逃げる、てな感じの短編。のはず。

で、ゲームではプレイヤーは邪教の輩となり、人智を超えた存在である「神々」に祈り、授けられる不道徳の極みである(と普通の人は勝手に決めてしまっている)さまざまな力をふるってキングスポートの街を侵食し、支配しようとします。
しかしながら、プレイヤーの前にはこの世界にはおおよそ知るべきではなかった暗がりに潜む真実があることに気づいてしまった者たちがその小さな、定命のもののささやかな力で少しでも押しとどめようとしており、プレイヤーたちをの試みを阻止せんとしてきます。
つまり、プレイヤーたちは一応この『魔宴』の「一族」の者。

これがキングスポートの街。

自分の「家」から始まって、「墓地」や「商店」や「埠頭」、「図書館」、「市役所」などを支配していくことで下段に描いてある邪教ポイント、つまり勝利点を獲得できます。
そして支配するためには上に描いてあるリソースが必要。
リソースとなるのは、紫の『邪悪』、黒の『死』、赤の『破壊』の力。

なお、各場所には特殊な能力があり、プレイヤーの邪教布教ライフをサポートしてくれます。

能力はボードに書かれているのではなく、別途タイルとなっております。
これ、なかなかなアイディアで、各国語版も作りやすいし、拡張で各場所の能力を差し替えることも簡単だし、ゲーム中に「ココの能力なんだっけ?」となってもタイルを手に取って確認できるし。


あと、このつながりに添ってしか支配を広げて行けないので、そのあたりも重要。

リソースは紫の『邪悪』、黒の『死』、赤の『破壊』のほかに、魔法を使うために必要となる『魔力』とクトゥルフ物にはおなじみの『正気度』があります。

そして街の支配を進めるために必要なリソース、『邪悪』、『破壊』、『死』は誰が授けてくれるかというと……
人の理を超えた、この世界の法そくのそとにあるそんざい、げーむぼーどのわきに! わきに!
ぜんぶで19の、神々やその眷属。

彼らに祈祷フェイズで『祈り』をささげると、この恐ろしい存在たちはプレイヤーの『正気度』などを受け取り、代わりに様々なリソースを授けてくれる仕組みとなっております。
もらえるリソースの中には、前述の『死』『邪悪』『破壊』のほかに、恐ろしい力を発揮する(かもしれない)『呪文(カード)』や、呪文などの使用刷るのに必要な『魔力』、襲いくる敵のカードやイベントの中身を確認できる『予知』などを与えてくれるものもあります。
呪文は、『死の呪文(from ネクロノミコン)』、『邪悪の呪文(from サドカイ教徒の勝利)』、『破壊の呪文(from 悪魔崇拝)』があり、それぞれ戦闘力を強化したり、邪神への祈祷を補助してくれたり、リソースを獲得できたり……するかもしれません。

では実際のゲームの進行を紹介しますと……

プレイヤーはそれぞれ儀式を行います(ダイスをふります)。

この出目が重要で、出目が小さい順からこのラウンドの手番を得ます。

また、手番が早いと正気度も回復するのでちょっと助かります。

次に、この手番順に祈り(ダイス)を、それぞれ神に奉げ(置き)ます。
・この時ダイス3個を全部置いてもいいし、分割しても構いません。
・そして、各神々に記されている数字丁度の出目しか置けません。
・加えて、他のプレイヤーがダイスを置いている神には置けません。
・置くのは1か所ずつです。

つまり……他のプレイヤーの出目、重要。

ただし救済措置として……
ネフレン=カーはどの目でも、何人でも置けます。
しかも、タダでも1点、何かリソースを1つ払うと3点も正気度を回復してくれます。

因みにもっとも恐ろしい存在はこの方。

数値19……深淵におわす、盲目にして白痴の神、宇宙こそは彼の者の見る夢でしかなく、目覚めは宇宙の終焉を意味する……
(ダイスの目で19を出すと祈りをささげることが可能ですが、当然ながら6面ダイス3個ではそんな超自然的な目は出ないので、呪文の補助が必要です!)
さすがに正気度は4失うながらも、望むリソースを5個も授けてくれる!

他にも、夢を見ながら待ってるお方とか……(15! 以外に気軽に助力してくれる)

魔女や魔術に古くから関連してる、地母神。黒山羊。

アニメ化もしたあのお方。

魚面した奴らの親分。11は3d6のほぼ期待値なんで助力を頼みやすい?

下の方なら……

1の目で助けてくれる、痩せた空を飛ぶ、攻撃手段がくすぐりという、アレ。

不定形の奉仕種族のアレは2の目でご奉仕してくれます。

えー、わからん人にはどれが誰やらさっぱりですが、どれが誰なのかは裏に記されているし結構詳しい解説もあるので、ラヴクラフティアンは裏を見てにやにやできる仕組み。

なお、裏の記述はゲームにはほぼ関係ありません。

ゲームのキモはこの神々への祈りの椅子取り競争で、出目が小さいと先に置けるけど、置ける神々はたかが知れているし、丁度の目で置く必要があるので、分割してダイスを置くときも他のプレイヤーがどの目を持っているのかをよく見て考えなくてはならないのです。

例えば……

赤がここに置いたので……


紫はここにした。緑はもう置けない……


仕方がないので、ここに置いたるのち……


ここに置いた。
……と、こんな感じで進行。

しかも、もらえるリソースは結構違う上に、街の支配に必要なリソースも、各施設ごとにバラバラなので、どのルートで侵略するか、そのためにはどのリソースを授かるかも考えどころ。加えて、たいていの存在が要求する正気度は、0になってしまった場合は代わりに邪教ポイント、つまり勝利点で支払う必要がありますのでやたら大いなる存在ばかりに頼っていては破滅が待っています!

ダイスを置ききったら、数字の小さな神からダイスを回収しつつ貰うものをもらっていきます。

この場合正気を2点失う代償は、邪悪、死、破壊、呪文!

そして、次は侵略の第一歩です。
これまたラウンドの最初のダイス目で決めたターン順に実行していきますが、基本的には今支配している場所につながっている地域の必要コストを払うだけ。
貰える報酬は、邪教ポイントです。
各地域はI~IVのレベルに分かれており、それぞれ特殊な能力を持っています。

例えば……
『埠頭』を支配すると、戦力に+1されます。
『新聞社』を支配すると、魔力を使うことで襲いくるであろう敵の情報を得ることができます。
『博物館』を支配すると、毎回ダイスをふる時『呪文』を1枚引くことができます。
『廃墟』を支配していると、ふったダイスの目が正気度より大きい場合ふり直しができます。
この能力と得ることのできる邪教ポイントをよく考えて、キングスポートの支配を進めていく必要があります。

基本の流れはこんな感じ。
こうやって、ダイスをふる→神々に祈る→もらったリソースで街を支配を繰り返して、12ラウンド(1ラウンドは1ゲーム月)経った時、邪教ポイント(街の支配で得たり、祈祷で得たり、呪文で得たり)が最も高い人が勝者というわけです。

しかし……余計なことに、探索者たちがプレイヤーたちを4回ほど邪魔しに来ます。

襲撃のあるラウンドの最後、各町に支配の手を伸ばした後で、探索者の襲撃を処理します。
まず、ランダムに決められたイベントがやってきます。

イベント自体はラブクラフトの作品から題がとられていて、邪教徒にとって良いことが起きたり、悪いことが起きたりします。

次の襲ってくる探索者ですが、最初の襲撃は戦力1~3の人が、2回目は戦力2~4の人が、3回目は戦力3~5の人が、最後には戦力4~6の人が襲ってきます。

有名人目白押し。

プレイヤーの戦力は、キングスポートの街で支配した場所によって得ることができ、ターン順にプレイヤーの戦力と探索者の戦力を比べることになります。

探索者の戦力以下の場合、プレイヤーは敗北して敗北時のペナルティを受けます。
同じ場合は、何も起きません。
探索者よりも戦力が大きい場合、プレイヤーは勝利して、勝利時の報酬をもらいます。
なお、探索者の戦力の2倍以上の戦力で勝利した場合、報酬は倍になります。

この場合、ダニエル・アプトン戦力は5で、戦力が4以下なら敗北、5で引き分け、6以上で勝利、10以上で完全勝利となります。
この戦闘ですが、最初はキングスポートの街の支配で得る戦力だけで退けることが可能でしょうが、後半は魔法の手助けが無いと厳しくなってきます。

加えて、慣れてきてからは「シナリオ」カードを加えることになります。

こちらはイベントと同じく、ラブクラフトの著作から題を取られていて、ゲーム中に加わる特別ルールがこれで決められ、探索者が襲撃してくるタイミングも決まります。

また、シナリオによっては同じくランダムに「魔宴」カードを引いておくものがあります。

こちらはゲーム終了時のボーナス点などがあるもので、ゲームの勝敗を最後までわからなくします。

ごちゃごちゃとしていそうですが、ゲームの基本システムは単純ですし、フレーバーを生かすためのルールはクトゥルフ神話になじみが無くても容易にルールとして処理できる程度の、「ファンにしかわからない」というものではなく「ファンならにやりとできる」もの。そしてフレーバー部分を再現する呪文やシナリオやイベントが原作を再現するとともに、ゲームに非公開の情報を与え、先行きを見えにくいものにしています。

クトゥルフ神話を知らない人にとっても、ゲーム中の解説はかなり詳細なもので、クトゥルフネタへの入門用としてもいい感じ。
『ホラー』と言っても血まみれなものや残酷なものではない、パルプ雑誌のおどろおどろしいものなのでその手のものが苦手でも問題無し。
本格的なゲームにクトゥルフファンを引き込む、クトゥルフ物にゲーマーを誘うにはちょうどよい架け橋的なゲームと言えますし、もちろん、原作は無視してもゲームとして純粋に面白い内容となっておりますので、入信者、初心者、狂信者の皆様にまんべんなくお勧めできます。

キングスポート・フェスティバル
プレイ人数:3-5人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:90分
製作:Stratelibri
デザイン:アンドレア・キアルヴェシオ、ジャンルカ・サントピエトロ
価格:6,000円+税

追記:
ルールブック P.3に間違いがあります;
誤)分野キューブ65個(3色:黒25個、赤25個、紫15個)
正)分野キューブ65個(3色:黒25個、紫25個、赤15個)

※ゲーム中手に入りにくいのは赤の『破壊』リソースですので、お分かりと思いますが……。

追起その2
今回のレイアウトなどは、イタリアのストラテリブリでしたお仕事。

このロゴもイタリア人デザイナー作(ヘルプはしたが)。
禁則処理とかも理解していて、外国でのレイアウトの中では出色の出来だ!