言葉は通じるのに話が通じないという……『コンセプト』


今回紹介しますのは、フランスはカンヌで行われるカンヌ国際ゲームフェスティバルで先に「金のエース賞(As d’Or)」を受賞し、さらには「ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)」ノミネートとなった

コンセプトです。

メーカーも「こいつはイノベーティブなゲームなんでSDJ取るよ!」と意欲的だったのですが、惜しくもSDJはキャメルアップのものとなりました。

が、ノミネート3作の中では、確かに一番イノベーティブなゲームでした。

ではメーカーの担当も推していたイノベーティブな部分はどのようなものかと言うと……

ゲーム的には一言で説明すると、ジェスチャーゲーム
『お題』があって、順番にそれを当ててもらう側と、当てる側に分かれてプレするものです。

しかし、その当ててもらうためにすることはジェスチャーではなく……

この色々なアイコンが描かれたボードに……

このようなコマを置くこと。

の駒は当てるモノそのものを指しているコンセプト駒で、同じ色のキューブはそれを修飾・形容する要素です。

はサブコンセプトと呼ばれ、その要素に付随する要素を表します。同じ色のキューブはそれを修飾・形容する要素です。

※概念として、まずこのコンセプトとサブコンセプトが理解できない人がいるかもしれませんが……フランス語の構造とかわかる人にはピンとくるかもしれません。
コンセプト駒 + キューブは名詞+形容詞の構造です。
サブコンセプトは関係代名詞でつながっている説明だと思うと理解しやすいでしょうか?

サブコンセプトは、当てるそのものではないけど、それに付随する概念や関係するもので、たとえばドラえもん(作品名か猫型ロボットか)を当ててもらう場合、メインコンセプトで「ドラえもん」を表しても当ててもらえないなら、たとえばサブコンセプトで「のび太」や「藤子・F・不二雄」や「どら焼き」なんかを表現するわけです。
(上のボードの例でも、実はドラえもんを表現しようとしています……)

で、このコマとキューブの読み方はわかったと思いますが、ここで重要なのが、「置き方に規則は無い」ことです。
「読み方の原則」はありますが、自由な発想で置いてよろしいのです!

Q1:例えば、キューブを5色架空の人物の場所に置き……人物の男女のところには男4個、女1個で……ダメ押しで色のところに赤、青、黄、緑、桃と置いてやるとかしてもOK

Q2:メインコンセプトは建物、キューブでなんか形を作って……サブコンセプトは数字と……茶色と……円、さて何か?

Q3:ゲームやおもちゃにメインコンセプト……お金……権力……サブコンセプトに円……でそれらは白、黄、黒、青、赤……

※どちらの例も実際のカードに含まれていたかどうかは覚えていません。わりと思いつきで出しました。答えは下で。

これ、コンセプトとサブコンセプトのコマの色とキューブの色の対応のルールや置く場所のルールは無視してますが、問題無し。

因みにアイコンもどう解釈するかの「例」はありますが、イラストからこれらを自由に解釈してもOK。オフィシャルな答えが用意されているわけでは無く、すべてプレイヤーが自由に解釈してよろしいということなので、最初は例を参考にしていても、次第にいろいろこうしたらいいのでは、というアイディアが出てくると思います。

アイコンの読み方の「例」も、同じアイコンで結構いろんな意味が書いてあるのがお分かりいただけると思う。

このルールがないのがルールという、かなりひらめきやイマジネーションやクリエイティビティを要求される内容になっています。
言葉によるコミニュケートですら誤解や曲解されるのに、こんな抽象的であやふやなやり方でしなければならないのです!
こんなので成り立つのか……と思うかもしれませんが、理解してもらおうとする側の努力と、理解しようとする側のヒラメキは時に何かを超越します。

これが、めっぽう面白いのです!

ゲームの本質として「既に正解があるものを知っている」「正しく解釈できる」ということが重要なのではなく、自分自身が提示したものが「正解」となる、「正解を創造できる」という点も重要な点かもしれません。日本人にはいずれも苦手な点ですし。

えー、イノベーティブな部分の説明、以上。
以下ゲーム進行に関して。

ルール的には、当ててもらう側は2人一組で、残りの人が当てる側になります。
何故2人かはプレイするとわかると思うのですが、1人だけの視点・考え方に凝り固まると、ヒントの出し方が単調となり、ゲームが停滞してしまうことが多くなるから。
ペアのプレイヤーは、『だめだ……このパートナーのヒント……早く何とかしないと!』と思ったら、どんどんサブコンセプトを置いていっていいし、すでに置かれたコマを置き直しても構いません。

当てる側はどんどん思いついた単語を言っていきますが、それに対して当ててもらう側は「惜しい!」までしか言えません。
重要なのは、当てる側の誤答は当ててもらう側にとって置き直しの重大なヒントになること。
誤答により、当ててもらう側は自分の視点・考え方と、当てる側の視点・考え方のずれがわかるので、当てる側はどんどんコレだと思ったら言っていく方が最終的に正解にたどり着きやすくなります。

つまり、このゲームの弱点は、当てる側がお地蔵さんになってしまい、当ててもらう側が自分の考えに固執してしまうと、ゲームがとたんに止まることなのです……ですので、できれば大人数で、バカなことでもどんどん口にしていくような、軽くて騒がしいノリで遊ぶのがコツといえばコツ。
強みとしては、そんな人たちが集まったらバカみたいに楽しいことは保証できる点。

こうやって時間制限なしでワイワイ騒いで、正解が出たら当てた人には2点コマ、当ててもらったペアには1点コマ1個ずつを配り、次の当ててもらうペアに回ります。
ゲームは用意された2点コマが無くなったら終了。得点が一番高い人が勝ちとなります。

ルールはこれだけ。
……が、正直、当ててもらうプレイヤーの順番のまわり方があいまいだったり(A-B-C-D-Eと並んでいたら、AB、CD、EA……と回すのか、AB、BC、CD、DE……と回すのか微妙な書き方)、点数の配分方法が当てたら2点、当ててもらったら1点だけど、当ててもらったらもらえる点数って、結局全員貰う事になるんじゃね?! とか、ルールに疑問を持つ人もいると思いますが、たいていそんなパーティ系ゲームで疑問に思った点を現地営業に聞いたりしたときのセリフは
「このゲームはそのようなことを楽しむゲームではない」
なので、楽しめる方法を自分たちで選ぶくらいでよいと思われます(ペアの組み方も隣同士じゃなく対面同士でもよさそうだし、奇数人数か偶数人数かによって回し方を決めてもよいと思うし、砂時計を用意して時間制限を付けてもいいだろうし、ペアのうち重要なヒントを出した側にだけ1点とかにしても面白そうだし、その場で話し合ってなにか足りないなぁと思ったらどんどん自分たちでルールを決めていいと思います)。

なお、お題カードは1枚に9題書かれていて、上から3題ずつ、易しい、普通、難しいと分けてありますが、易しいお題は当てるのは容易かもしれませんが、要素が少ない傾向になるので、当ててもらう側がコマを置くのが難しいことになりがちです。
難しいお題は、発想によってはコレだという置き方を見つけやすいかもしれませんし、一発で当てちゃうひとも結構出ます。
うーん、難易度あんまり関係ないんじゃね?
あと、日本人の世代間での映画やテレビ番組や音楽知識のギャップは結構大きいので、この辺りは難易度を気にせずに、全員が当てれそうなお題を選ぶということでも問題なさそうです。むしろそうしたほうがいいと思います。

余談ですが、このゲームで一番難しかったのがこのお題。
ルールの中の例とか、もともと日本人が知らないような白黒映画を、日本人にはおなじみのアニメに差し替えたりしています。
カードの方も、日本人には馴染みのない人物や映画や音楽を日本のものに置き換えたり、言い回しや諺や名言も日本にある同様のものにしたり、なるべくジャンルは共通にしつつ、完全にダメだと思ったものは諦めて新たに作り直したりしています(が、日本人にもわかるけど……さすがフランス人、と言うお題もTV番組分野で結構あったりして、それはそのまま残していたりします / 翻訳者がその番組の仏題を知らないものもいくつかあって、修正が大変でした)。

と、いうわけでドイツ年間ゲーム大賞にノミネートしたことにも納得だし、ある意味ドイツ年間ゲーム大賞に届かなかったことも理解できる内容となっております。
大人数で集まる機会が多かったり、ルールの緩い発想型のゲームが得意なひとがプレイグループに何人か思い当ったり、点数管理や数値管理や手札管理のゲームに疲れてたり、大喜利系のゲームが好きだったりする人にはかなりオススメできます。

なお、クイズ的にこのゲームのシステムを使えそうな気もしますが、本質的には「正解の置き方」は無いし、誤答をどんどん言ってもらってそれをヒントにサブコンセプトを置いたり今の置いてあるコマを置き直すのが重要なのですが……一応上の答え。

A1.秘密戦隊ゴレンジャー

A2.平等院鳳凰堂

A3.宝石の煌き

こんな感じでどうでしょ?
で、これ見て「俺ならもっとうまく表現できるぜ!」と言う人には特にお勧めいたします。

コンセプト
プレイ人数:4-10人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:40分
製作:Repos/Asmodee
デザイン:アラン・リヴォレ、ゲァィトン・ボウジャノ
価格:6,600円+税