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はじめに
『プレイヤーズ・ハンドブックII』はD&Dというゲームに8つの新クラスと5つの新種族を紹介した。さらに、種族固有の“伝説の道”、キャラクターの“背景”、すべてのキャラクターが使える新しい特技や儀式も登場している。
『モンスター・マニュアルII』では、あらゆるレベルと役割に対応した300もの新モンスターが登場した。この本は、ちっぽけなアンケグの幼生から強大なる“全デーモン族の王” デモゴルゴンにいたるまで、君のプレイヤーたちに新たな挑戦を与え、君のダンジョンに新たな命を吹き込むためのモンスターで満ち溢れている。
さて、『ダンジョン・マスターズ・ガイドII』はどのようにして君のゲームをもっと面白くしてくれるのだろうか?
かんたん便利な追加ルール
まずは、今すぐ君のゲームに追加できるお手軽な追加ルールから見ていこう。たとえば、本書の第2章では8ページに渡って新しい罠の数々が紹介されている。さらに、君オリジナルの罠を作成するための明確なガイドラインも登場し、罠の数値を適切に設定する方法から、君の罠がキャラクターたちの脅威たりうることを保障する方法まで(さすがにゲームそのものの楽しさまで保障できないが)、罠に関するありとあらゆることが網羅されている。
第2章では他にも、君の遭遇に加えることができる新しいファンタジー的な地形や、遭遇の環境に組み込まれている攻撃パワーである“地形パワー”という新しい概念も登場する。
第4章はモンスターに手を加えて調節することを扱っている。1冊目の『ダンジョン・マスターズ・ガイド』記載のルールを補うものとして、雑魚を作成する追加ルールや、精鋭および単独のモンスターに関するガイドラインの改訂版などが述べられる。『プレイヤーズ・ハンドブックU』の各クラスに対応したクラス・テンプレートを含めた新たなテンプレートの数々も追加され、さらに“モンスター・テーマ” も登場する。君がどのようなアドベンチャーをプレイしようとしているのであろうと、モンスター・テーマを用いて既存のモンスターに特別な雰囲気やパワーを追加することで、そのモンスターを君のアドベンチャーにぴったりしたものに微調節することができる。
第5章には新たなアーティファクトが多数紹介されている。昔懐かしいロッド・オヴ・セヴン・パーツやカップ・アンド・タリスマン・オヴ・アル・アクバル(共に1979年に出版された最初の『ダンジョン・マスターズ・ガイド』で登場)に加えて、2人組のキャラクターないしパーティ全員に利益をもたらすような新しいアーティファクトも登場する。
サプリメントの使い方 2008年に『ダンジョン・マスターズ・ガイド』が発売された後も、D&Dというゲームは成長を続けている。『プレイヤーズ・ハンドブックU』および『モンスター・マニュアルU』に加えて、君たちは『武勇の書』、『ドラコノミコン:クロマティック・ドラゴン』、『Open Grave』(アンデッドを扱った未訳サプリメント)、『冒険者の宝物庫』、フォーゴトン・レルムやエベロンの『キャンペーン・ガイド』および『プレイヤーズ・ガイド』、さらにそれ以外のサプリメントやアドベンチャーまでも手にしているかもしれない。これらすべてを君のゲームでうまく使うためにはどうすればよいだろうか? |
先達からのアドバイス
『ダンジョン・マスターズ・ガイドU』は単なるルール集ではない。君がもっとよいDMになるための本でもあるのだ。君が古強者のDMであろうとDMに初挑戦するのであろうと、本書には君のゲームの向上につながる先達からの助言が豊富に記されている。
第1章『みんなで物語を紡ぎ出そう』はセッションの参加者全員が協力してドラマチックな物語を作っていく過程に焦点を置いている。君が自分のゲームにもう少し物語的な要素を強めようとしているにせよ、みんなで創り上げた物語がキャンペーンを動かしていくことを望んでいるにせよ、卓上のキャラクターたちに命を吹き込むための助けになるようなアドバイスが見つかるはずだ。
第2章『よりよい遭遇のために』では、同様のアドバイスを君のアドベンチャーを構成する個々の遭遇に対しても行なう。すなわち、1つ1つの遭遇を物語中の重要な一部分にするためのアドバイスである。また、各プレイヤーの嗜好に合わせて遭遇をカスタマイズする方法について、人数が多すぎたり少なすぎたりする場合について、戦闘中の移動を促進する方法、遭遇のペース配分によってドラマチックな緊張感を盛り上げていく方法などについてのアドバイスも述べられている。PCたちに大休憩を取らせず先へ進ませる手段に苦心しているDMや、小休憩の暇もなく次から次へと敵が押し寄せる長い戦闘の扱い方に悩んでいるDMも、この章を読めば必要なアドバイスが見つかるだろう。
第2章の最後には、この章で登場したさまざまな要素を組み合わせた1つのダイナミックな戦闘がサンプル遭遇として載っている。
第3章『技能チャレンジ』は、君のゲームでの技能チャレンジの使い方について、大量の例を用いて包括的かつ詳細なアドバイスを行なう。まずは技能チャレンジに関する基本的なルールのまとめから入り(www.wizards.comで公開されているルールの更新を元にしたルールの拡張と明確化もここに含まれている)、技能チャレンジにおける5つの重要な要素について論じ、最後に技能チャレンジの例をいくつか示す。
第5章『アドベンチャー』で紹介されている代替的報酬やアドベンチャーの間にも、自分のキャンペーンを創り上げる際に参考になるようなアドバイスがいくつも載っている。キャンペーン・アークの例およびキャンペーン・アーク作成の実地例は、君がキャンペーンの骨組を決める際に役立ち、アーティファクトの使い方や組織に関する情報は細かい肉付けの助けになるはずだ。
君のキャンペーン内のキャラクターたちが伝説級に達したなら、第6章『伝説級キャンペーン』に目を通すべきだ。この章は伝説級のキャンペーンのための提案や小技を提示し、伝説級を通してキャラクターたちの冒険の拠点となりうる都市シギルを紹介し、11レベルキャラクターのための短いアドベンチャーも付属している。
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D&Dでは、ダンジョン・マスターとプレイヤーがセッションやアドベンチャーを遊ぶことによって、物語を紡ぎ出すことができる。プレイグループ(一緒にゲームを遊ぶ仲間たちの集まり)が紡ぎ出す物語は、剣と魔法の活劇に重きを置いて、キャラクターを掘り下げたり物語の筋に捻りを利かせたりといったことは軽めに済ます、比較的単純な王道派のものであるかもしれないし、複雑な物語が幾重にもドラマチックに重なり合う、壮大で魅惑的な物語であるかもしれない。
本章ではDMの視点から、D&Dというゲームの物語を生み出す面に焦点を当て、プレイグループのプレイヤーたちが、物語を紡ぎ出すうえで、君をうまく手助けしてくれるようにするためのテクニックを紹介する。
物語の骨格
どんなものであれ物語を作り出す際には―あらかじめ作っておくのであろうが、即興ででっちあげるのであろうが、君がD&Dを遊ぶために作るのであろうが、創作活動を行なうのであろうが―まずはその構造の基礎となるパーツを作り出すことから始めよう。どんな物語も、そういったパーツの積み重ねでできているのだ。
伝統的な物語の構造
ファンタジー作品の物語は、世界中のさまざまな文化圏に伝わる伝説や伝承の影響を強く受けており、伝統的な構造を踏襲していることが多い。君は物語の筋道を伝統的な構造から大きく外すことで大きな効果を生み出すこともできるが、その場合には題材に対する深い知識が必要となる。
以下に伝統的な物語を形作っているパーツをいくつかあげる。
導入部:導入部では、主役となるキャラクターたちの視点や立ち場、物語世界の基本的な状況などが示される。また同時に、主役たちの邪魔をする勢力、つまり悪役たちも紹介される。
筋の上昇:“筋の上昇”というのは、文学作品などのプロット上で、山場へと続く一連の出来事のことである。これら一連の出来事によって、キャラクターたちを取り巻く状況は、より複雑かつ切迫したものへと変わっていく。そしてこれらの出来事が進んでいくにつれ、物語の結末がよりはっきりと見えてくる。君はこの“筋の上昇”を、間に山や谷をはさみつつ、全体的には上向きに進んでいく一筋の道として描いておくことができる。その中に転機となるいくつかの出来事を配置することで、君は物語に緊張感を持たせたり、一時的に話の流れを緩めたり、あるいは再び急展開で進めたりといったことができる。
クライマックス:物語の中で最も緊張感が高まり、要となる瞬間である。物語の中心となる戦いを繰り広げてきた敵対勢力同士がついに対決のときを迎え、導入部で示された状況に最後の決着をつける。
大団円:最後にまとめを行なうことで、プレイヤーたちは、物語のクライマックスで起った出来事がその後どのような影響を与えたのかということを、心に刻むことができる。
分岐
D&Dにおいて物語を紡ぐ場合、他の形態の創作活動を行なう場合とは、大きく異なる点が1つある:D&Dの物語では、一連の転機において、あらかじめ定めておいた筋書きどおりにことが進むとは限らない。それぞれの転機は、物語が予測していなかった方向に分岐する可能性を提供するものなのだ。あらかじめ分岐の先を予測しておくことにより、君は物語を停滞させず、面白い―そして予測していなかった―方向に進み続けさせることができる。
特に重要な分岐点では、プレイヤーたちが自らの選択により、物語を複数の異なった方向へと動かすことができる。
成否に基づいた分岐
君がD&Dのルールを用いて行動を解決し、その結果が物語に影響を与えるなら、それは成否に基づいた一つの分岐点となる。
プレイヤーたちが遭遇や技能チャレンジを成功裏に終了させたり、一連の技能判定に成功したならば、PCたちは試練を乗り越え、何らかの利益を得る。物語の緊張感はいったん緩むだろう。こういった成功はPCたちを、次なる分岐点へといざなう。
逆に遭遇から逃亡したり、技能チャレンジや技能判定に失敗したなら、PCたちには良くない結果が降り掛かる。次なる分岐点―おそらく彼らが望まなかったもの―が近づくにつれ、緊張感はいや増すことだろう。
なんら価値を生み出さない結果―つまり成功とも言えず物語を進展させることもないもの―は、プレイヤーたちを苛つかせ、嫌な気持ちにさせる恐れがある。PCたちは、立ちはだかる障害の克服に失敗したならば、それを乗り越える別の方法を見つけ出すべきである―いつだって、何か代案はあるはずなのだ。
成否に基づいた分岐点を印象深いものにしたいなら、プレイヤーたちに対し、失敗した場合にどんな望ましくない結果が起こりうるのかを示すことによって、緊張感を高めよう。またプレイヤーたちが実際に望ましくない結果を招いてしまったときには、その様子を丹念に描写して、恐怖感を高めよう。たとえば一人のパラディンが岩棚めざして登っているなら、手を滑らした場合に彼を飲み込むであろう底の見えぬ深い谷について、おどろおどろしく語ろう。また逆に馬の鼻面にニンジンをぶらさげるがごとく、成功すれば得られるであろう素敵なお宝についての描写でプレイヤーたちのやる気を釣るという手もある。
DM実践講座:王から出頭を求められる とある伝説級のPCたちは、彼らのキャンペーンにおいて、冒険の舞台をアンダーダークへと移しはじめていた。彼らは地下探険を繰り返す際の拠点として、とあるドワーフの城塞に目をつけていたが、以前に出会ったドワーフの巡視隊から聞いた話によれば、そこを治めるドワーフ王は情緒不安定ぎみであるということだった。 |
協力して大筋を決める
君とプレイヤーたちとで一緒に物語を作り出すという行為は、実際にゲームをプレイする以前、君がキャンペーンを作り出す段階から始めることができる。そのゲームを遊ぶ予定のメンバーを呼び集めて、彼らにキャンペーンの大筋を一から組み上げる手伝いをして欲しいと頼むのだ。この会合でメンバー全員にそれぞれ、何らかの意見やキャンペーンに関する基本的なアイデアを出してもらおう。ここで出してもらう意見やアイデアは、プレイヤー・キャラクターたちが彼らの世界においてどのような役割や位置づけを持つのかということを説明する簡単な一文でかまわない。たとえば以下のようなものだ。
DM実践講座:英傑再誕 とあるDMのキャンペーンが終盤に近づいたので、君はプレイグループの次なるキャンペーンの手綱を取るべく名乗りをあげる。君は“アイデア会議”を開いて、協力して大筋を決めるスタイルを取ることにした。君のプレイグループにはエイミィ、ベン、カルロス、ディーナの4人のプレイヤーがいる。みんなに意見を募集したところ、とある1つの案に全員が食いついた: |
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キャラクターの肉付け
君とプレイヤーの会話以外にも、物語を語る方法はいろいろある。プレイヤーたちが協力しあうことを奨励しよう。そうすることでキャラクターどうしの信頼関係や絆も深まるはずだ。またこれにより、進行する物語とキャラクターたちの結びつきもどんどん強いものとなっていく。君のキャンペーンの中で特に印象深く面白い出来事は、プレイヤー・キャラクターどうしの間で起ることが多いだろう。シリーズもののTV番組の主要キャラクターたちのように、PCたちはそれぞれ他のキャラクターと違う特徴を持っていたほうが、物語の登場人物としても目立つことができる。
DM実践講座:再誕者たちの登場 エイミィ、ベン、カルロス、ディーナの4人は、物語の導入となるセッション『再誕せし者たち』を行なうために集まった。 |
協力して世界を造り上げる
協力して創作活動を行なうという工程は、君のキャンペーンの準備段階だけで終わらせる必要は無い。君はプレイヤーたちにも、君たちのD&D世界を創造していく役割を分け与え続けることができるのだ。
D&Dの基本の世界設定は、その場でいろいろな事柄を決めて行くのに理想的な土台を提供してくれる。諸次元界や魔法が働く仕組みといった、設定の基礎に使える事柄はすでに用意されているので、君たちは残りの部分を埋めてやりさえすれば良い。伝統的には、DMがキャンペーンやアドベンチャーを準備する時点でこういった細かい点を決めていた。プレイヤーたちをこの工程の協力者として誘い、世界の創造を手助けしてもらうことで、プレイヤーたちを巻き込み―そして君自身の作業量を減らすこともできる。
もし君が、プレイヤーの意見を取り入れるという考えは気に入ったけれども、あらかじめ細かい設定を作っておくほうが好きだと言うのなら、プレイヤーたちに宿題を出すと良いだろう。彼らに対して、自分たちのキャラクターがこの世界のどのような要素と深く関わっているかを説明させるのだ。こういった背景設定の要素のなかには、たとえば彼らの文化、宗教、組織などといったものが含まれ得る。この手法をとれば、世界の詳細のうちPCに関わりの深い部分をプレイヤー自身の手で作り出すことによって、プレイヤーたちがよりゲーム世界に入りこみやすくなるのである。君のプレイグループがこの手法を好ましいと感じるなら、参加者全員がDMを行ない、共同作業として世界を作って行くことを検討してもいいだろう。君たちは各人が同じ1つの世界の中の別々の場所を用いてそれぞれ別々のキャンペーンを運営してもいいし、あるいは長期間遊ぶ1つのゲームにおいて、全員が交代でDMを努めてもいい。
DM実践講座:分かれ道 以下の“意見募集” の例において、プレイヤーたちは深い森を通り抜ける古代の街道に沿って旅している。 |
DM実践講座:タニス パーティは始めてシギルを訪れている。ブロムは誰かガイド役を努めてくれる地元民を見つけようと探しはじめた。 |
ロールプレイのための“引き”
―スティーヴン・ラドネイ・マクファーランド、『Dungeon』誌155号、『Save My Game!』より
会話型ロールプレイング・ゲームの物語的な部分は、ゲームのルールにくらべてより自由な性質を持っている。D&Dをプレイする際には、こういった点に関して不安がったり自意識過剰になってしまう人も少なくない(演技を好まない人は特にその傾向が強い)。時にはDMが、ロールプレイというのは何も特別なことではなく、D&Dというゲームの他の部分と同じようにやればよいのだということをプレイヤーたちに分からせて、気を楽にしてあげるとよいだろう。そのためのアイデアを以下にいくつか示す。
“引き”を作る
D&Dのゲーム・セッションの多くは、たくさんのゲーム・データとアクション・シーンと宝物の出てくるブン殴り&ブンどり型の、RPGのごくごく基本的なパターンを踏む。こういったゲームでは、プレイヤーたちを導く物語はほとんど必要ない。彼らはゲーム内の出来事が“リアル”かどうかなど気にせず、これはゲームだと割り切った上で熱中して楽しんでいる。どうしてかって? D&Dというゲームそのものと、そのデザイン自体に、“引き”が仕込まれているからだ。
ここでいう“引き”とは、観客たちの心をぐいっと掴んで引きこみ、2度と離さないような部分のことだ。D&Dにはそういった引きが山盛りになっている。クラスや種族も引きとして機能する:それらの概念、イラスト、使い方などはプレイヤーたちの心まで届き、掴み取りうる。単純なルールに例外を追加していくというD&Dの基本原則も、また別の引きになる。DMは基本的なルールだけをしっかり覚えておき、例外的なルールやデータはそのつど確認すればよい。引きというやつは、自分の顔を突き出して「やあ、僕はここにいるよ。君は僕のことが気に入るんじゃないかな」と言っているのだ。その引きが気に入ったプレイヤーは、それに釣られて走り出すだろう。また、D&Dはファンタジーを題材にしたゲームであり、それもまた一つの引きになりうる。
時としてDMは、自分のキャンペーンを組み立てる際に、“引き”に関する基本的な原則を忘れてしまうことがある。現実的に見える土地を作ろうと努力するのはいいが、そもそもゲーム世界内の交易や農業の実態に興味を持つようなプレイヤーなどめったにいない―このゲームは不思議な力に満ち溢れたファンタジーを扱っているのだから。またあるDMは、キャンペーン全体の壮大な物語にばかり力を入れた結果、この物語にはプレイヤーという聴衆が存在することや、プレイヤー・キャラクターという役割を演じるのは自分とは別の人々であることを失念してしまうことがある。このようなDMは、作者自身しか面白いと思わないような“引き” を作って自縄自縛に陥ってしまうかもしれない。そして、自分が楽しむことしか考えていないようなDMは聞き手をすべて失うことになるだろう。
物語もロールプレイも、大まかな枠組みだけ決めて後はプレイヤーたちの自由に任せること。出発点から強制的に物語を進めていくのではなく、筋書きの断片を投げ与え、どのプレイヤーが食いついてくるか、なぜ食いついてきたのかを把握して、そのつど物語に反映させていこう。プレイヤーがクラスや種族を選ぶ際にそれとなく道を示すのはよいが、プレイヤーの代わりに決断を行なってはならない。それと同様に、プレイヤーのロールプレイ的な決断をDMが代わりに行なってしまうのもよくない。君の世界や物語の見通しについて、細かい部分に関してはプレイヤーの意見を幅広く受け入れつつ、完全にプレイヤー任せにはしないこと。プレイヤーたちのアイデアや提案のうち、よいものだけを取り入れていこう。プレイヤーたちが物語に引きこまれて行けば行くほど、彼らの没入の度合いは高まっていく。プレイヤーたちが、自分たちは目の前で物語が展開していくのを眺めているのではなく、自分の手で物語を動かしていくことができるのだと気が付けば、さらに熱中してくれるだろう。プレイヤーたちが物語やロールプレイ的な部分にも労力を払うようになれば、そういった部分を無視したり避けたりするのではなく、それらにも注意を傾けるようになるだろう。
実例を示すために、私が現在プレイ中のキャンペーンである『影長き日々』―これは私が初めてD&D第4版で1レベルから30レベルまで続けるつもりのキャンペーンだ―でやっていることの概要を述べよう。プレイヤーたちがキャラクターを作成する際、私は彼らに選択可能な7つの背景設定のリストを渡した。私はその時に、この背景選択はキャンペーン全体の筋書きとの間に強いつながりを持っているが、どれか1つを必ず選ばなければならないわけではないということもプレイヤーたちに告げた。私が作成した背景はどれもシンプルで制限も少ないものだ。そのうち2つをここに示す。
呪われし者(ハーフエルフ、ヒューマン、またはティーフリング):謎めいた人物が君に呪いをかけた。君はその人物の正体を知らない。唯一分かっているのは、その人物のかすれた声が時おり君に命令を与え、声の語るままに行動させようとするということだ。その命令は時としておぞましい行為を要求するものだが、君がそれを拒んだ時にはさらにひどい結果が待ち構えている。
みなしご(ヒューマン):君はファデイル村が消え失せた際に取り残された孤児だ。アイウーンに仕える放浪の巫者が預言したところによると、ファデイル村を見つけ出すことができるのはこの村の最後の生き残りだけであるという。言うまでもなく、それは君のことだ。
これらの“引き”には目的がある。私はこのキャンペーンの中で広げていく予定のいくつかの面白そうなテーマを、プレイヤーの関心を引きそうな形で結び合わせ、それらのテーマをプレイヤーにも使えるようにしたのだ。
プレイヤーたちに背景を選ばせることによって、私は2つの目的を達成できた。1つ目は、物語およびキャンペーンのテーマに対して、1つ以上の強力な“引き” を与えたことだ。自分で背景を選んだことによって、その背景に関する物語への関心は否応なしに高まる。さらに、プレイヤーたちが話の筋を追いかけようとする動きを一点に集中させ、かつ私が各プレイヤー向けの個人的な物語を考案する際の助けにもなるような、便利な道具が手に入ったことになる―しかも、キャンペーンが始まる前から。
たとえば、“呪われし者”という背景は私が特定のプレイヤーを思い浮かべながら書いたものであり、そのプレイヤーがこの背景を選んだことは不思議でもなんでもなかった。そのプレイヤーは、秘密を持ち謎と苦しみにつきまとわれるキャラクターをプレイすることを楽しんでいる。私には、彼がこの背景に心惹かれるだろうという確信があった。
誰にも選ばれなかった背景(たとえば上記の“みなしご”)については、今回の私のキャンペーンでは使わないアイデアとして別ページにまとめている。プレイヤーが何を選ばなかったかという情報からは、どんなゲームがそのプレイヤーの関心を引きやすいかを初め、多くの事柄を学べるのだ。
さらに重要なのは、これらの背景がゲームと物語の橋渡しをしてくれるということだ。私が作った背景をキャラクターに選ばせた結果、プレイヤーはそれが自分のものであるかのように感じることになる。私はロールプレイや物語に関する“引き”を、ゲームの他の事柄に関する“引き” の中でうまくいったケースと同じやり方で作っている―プレイヤーが欲しがりそうなものを提示し、それを選ばせるのだ。
引き込んだら逃がすな
“引き”を準備したら、次の段階に進もう:引っ掛けた相手を逃がさないことだ。プレイヤーが君のゲームのどこを面白いと思っているのかに気づいた時には常に、それを使ってプレイヤーをさらに引きこもう。私のキャンペーンでの最初の仕事は、各プレイヤーが選んだ背景のどれもが等しく重要で意味を持つようにすることとだった。ある背景に関するテーマやアイデアがゲームにまったく盛り込まれなければ、その背景を選んだこと自体が間違いだったということになる。これは絶対にやってはいけないことだ;そんなことをすれば、せっかく用意した“引き”が何の意味も意義も持たなくなってしまう。そもそも、PCは自分の背景を“再訓練”することはできないのだから! だが同時に、D&Dというゲームは各PCがバランスよく共演する場でもある。すべてのセッションにおいて、すべてのネタを使わなければならないなどという法はない―おいしいネタは、最も効果を発揮する瞬間まで取っておこう。
たとえば、“呪われし者”のキャラクターが一度も声を聞かないのであれば、この背景は馬鹿らしく非生産的なものになってしまう。だが、正反対もまたよくない。君は毎回のセッションを、謎の声がああしろこうしろと命令を与えるシーンから始めようとは思わないだろう。そういったものは適切なタイミングでのみ使用し、それまではそのキャラクターの頭の中に留めておこう。数回のセッションを終えて、何か面白いことが起きたなら、私はゲームに謎の計画を導入してドラマと葛藤を作り出し、プレイヤーの関心を引くような選択肢を提示する。
私の2つ目の仕事は、プレイヤーが“引き” に対してどのような反応を返したか、その“引き”をどのように用いて自分のキャラクターを肉付けし、行動の判断材料にしたのか、といったことを観察することだ。私が提示した背景に細かな設定が欠けているのにはきちんとした理由がある―私は、それぞれのプレイヤーがその物語に対してどのように関与し、どんな物語を織り上げていくのかを見たいのだ。“呪われし者”のプレイヤーは、その声がどのように自分を導いてきたかという過去の設定を作ってきたので、私はそれを参考にして、将来その声が話しかけてくる時も同じような演出を行なうことができる。
![]() DM実践講座:マインド・フレイヤーの攻撃 主人公たちがマインド・フレイヤーと戦うアドベンチャーの冒頭で、君は各プレイヤーに新しいキャラクターを渡して、「これから別キャラクターでの幕間をやってもらいます」と言う。キャラクターたちは辺境の前哨拠点を守る兵である。兵にはそれぞれ名前をつけておくこと。6人のキャラクターのうち半数は、同じ目的に向けて働いており、そのため自然と互いにやりとりをすることになる。一晩中サイコロ遊びをした結果、コンラッド、アルドフリッド、エリスの3人はイムリック、オスウィン、ヘンギストの3人に借りを作った。そして負け分をなんとか無かったことにしてもらえないかと思っている。 |
カットシーン
ゲーム中にキャラクター間のやりとりのシーンを加えるには、カットシーンを用いるとよい。カットシーンというのは、DMがプレイヤーたちのために特別にこしらえたシーンで、プレイヤーたちはそこで劇的な状況に対応することになる。
カットシーンの種類
カットシーンが物語の中で果す役割は複数ある。
第三者視点での予告編
これはつまり、プレイヤーが操るNPCたちが、自分たちのPCにこれから起きるできごとを予告するというシーンである。“第三者視点での予告編”を使えば、普通ならPCたちが酒場で集まるところから始まるはずのセッションに、より刺激的なスタートを提供できる。
君のプレイヤー達は何を求めているのか?
プレイヤー達が何をゲームで楽しんでいるか、いったんそれを知ってしまえば君のプレイヤー達が喜ぶ冒険や遭遇を作るのは簡単になるだろう。プレイグループの喜ぶものを完璧に備えたセッションを行なえるなら、プレイヤー達はきっと楽しめる。さらに君はゲームの準備をより着実に、不測の事態の起こる率が少ないようにできる。なぜなら、君はプレイヤー達が心惹かれる要素が何であるか、そして彼らが避ける“引き”や遭遇がいかなるものであるかを熟知しているから、その分セッションの準備をより早くより簡単にできるのである。
何が嫌いで何が好きかを知るために、プレイグループのメンバーに尋ねてみよう。プレイヤーとキャラクターへアンケートを行なうことで情報が得られるハズだ。君は、プレイヤー達のゲーム的嗜好について何が知りたいだろう? リストを書き出してみよう。君のグループの好みが都市や野外、都会、そのどれかを好むとして、それは君のキャンペーン計画に影響するだろうか? 彼らの好むゲームの見せ場、戦闘、遭遇の導入についてはどうだろう? その情報がわかれば、将来のセッションで彼らを大興奮させるすごいアイデアを思いつくかも知れない。
いったん君がプレイグループについて知りたいことを詳しく記したリストを書き上げたなら、それぞれを質疑に変えて調査に出そう。調査の際には、キャラクター達の望むこと、夢、更にはそのキャラクターの最終目標に関係したこと何でも使おう。各プレイヤーにはこれらの問いについて、そのキャラクターの視点から解答して貰おう。彼らの対応がよりおもしろくなるよう、DMである君がロールプレイをしてみるのもいい。さもなくばプレイヤー達はこのアンケートを雑用と考えるかも知れないからだ。プレイヤーの好みや経験についての質問は、別にプレイヤー用調査として行なおう。