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D&Dゲームガイド 『月曜日は魔法使い』4月1日(火)発売!

シェリー・マザノーブルのインタビュー
原文はこちらです




 私はペディキュアもするし肌の手入れも欠かさない。ピーリング※1の施術もしている。手持ちのボディローションやスクラブやボディクリームのフレーバーの種類にかけては、バスキン・ロビンズ※2の品揃えにだって負けない。ヒールの高さ順に靴を並べ、持ち手の長さでハンドバッグを揃え、冷蔵庫のバターケースには爪の手入れ用のジェルを入れている。買い物に出かけ、テレビドラマはしっかりチェックし、ファッションに関する噂話は欠かさず、そしてUSウィークリー※3が話題にすべき人物を間違っているということに関しては、宗教的な情熱を傾けて語り合う。私は私の中の“女の子らしい部分”を受け入れるなんてものではなく、それをほんとに、心底、大事に思っている。
 一方で私は、強力無比な呪文を叩きつけスタッフを振り回すエルフの女ソーサラー(ソーサレス)、アストリッド・ベラッジオでもある。少なくとも週に一度、ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズをプレイしているときは、私はアストリッドになる。
 ちょっと待って、話はまだあるんだから。私はずっとゲーマーだったわけじゃない。つい最近まで私は、ダイスとボードとシューツ・アンド・ラダーズ、ソーリィ!※4用の彩色済みコマと、ぬるいビールと赤いプラスチックカップは避けて通ることにしていた。
 私の友人の中にも、ゲームに夢中という人間はいる。ゲームといっても、コンピューターゲームとかTVゲームを指す場合がほとんどだけれども。U2のコンサートと同じ日に、ワールド・オヴ・ウォークラフト※5のギルドで土曜日のレイド※6とやらに関する戦略会議があるからというので、コンサートのほうを断ったという人間までいるらしい……いや、本当のことをいうと、私はその張本人を知っている。実のところ、彼とは二年ばかり付き合った。頭がよくて、人当たりがよくて、思いやりがあって、見た目もステキだった。そして54レベルのノームのウォリアーのアグロでもあった。その彼とは、あの馬鹿がパニックの極みの私の電話――ラッシュアワーのI-5線の路肩からかけていたのだけれど――に、「今話せない、ズルガルブ※7
のラスボスとの戦闘中なんだ!」と答えた直後に別れた。ズルガルブ? ラスボス? よくもまあ怒鳴ってくれたわね。あんたのガールフレンドが、この国でも一番の渋滞を誇るフリーウェイの路肩で、タイヤがパンクして立ち往生してるってときに。そのうえその日、私は真っ白なスラックスを穿いてたっていうのに。
 私が決してゲームに手を出さなかった理由は単純だ。私は競争心のあるほうではなかったのだ。だからこそ8年生の時、シンディ・ブリーチャーがカイル・ピンターにちょっかいを出しても――私が彼のことを好きなのを、彼女は知りすぎるぐらい知っていたはずだけれど――私は彼女をひっぱたいたりはしなかった。もっとあからさまな例もある。おじいちゃんとおばあちゃんが、私達兄妹に真新しいモノポリーのセットをプレゼントしてくれた時、兄のマイクはちょうどドナルド・トランプ※8の『ドナルド・トランプ自叙伝』を読み終わったところだった。私はモノポリーが気に入った。ゲーム版の周りをぐるぐる回っている犬を擬人化して遊べたから。マイクもモノポリーが気に入った。それでドナルドが彼に教えてくれたこと――資金を調達し、事業を展開し、無邪気な妹と彼女の子犬から搾取して海の傍にコンドミニアムを建てることを、全て実行できたから。マイクは私に余り資産価値のないバルティック通りやヴァーモント通りはそのまま寄越した。そして今後ものすごく発展する可能性があるかもしれないニューヨーク通りやケンタッキー通りあたりの地区を大量に買うようにと私をおだてた。私はボードウォークやパークプレイスを取ろうとやっきになるよりも、はるかに上手にゲームを進めた。いっときなど、マイクがマービンガーデンのホテルに出資するための資金を貸し付けさえした。そして私がその土地を所有しようとする段になると、マイクは都合よくその貸付の事実を忘れていた。
 「2,200ドルだよ」とマイクは言った。
 「2,200ドルなんて持ってないわ! 1,500ドルならあげる!」
 「君が持っているのがいくらだろうが、ドナルド・トランプの知ったことじゃないね。君は銀行に行ってお金を借りてこなくちゃ」
 「ママぁ!
 数年前のクリスマス・イヴのこと。急に家族みんなでその古いモノポリーを遊ぼうということになった。ところで『ジ・アプレンティス※9の精神は未だに我が兄の中に息づいていた。マイクはオリエンタル通りのアール・ヌーヴォー様式の小さな家からママをたたき出した。そしてパパが、マイクのボードウォークのホテル、カジノ、そしてパパの名を冠したホッケー・チームの本拠地になっているアリーナを買い取ろうとした矢先に、パパの資金がすべてパシフィック通りの荒廃したホテルに浪費しつくされるように仕向けて破産させた。パパとママはマイクの行為にぞっとした挙句、遺言を書き換えた。そして、マイクが自分達の老後の面倒や老後のための資産管理に、一切関わることがないようにした。
 私のモノポリーをはじめとするボードゲームアレルギーが、すべてマイクの過剰に競争的な性質のせいだとはいわない(そうはいわない最大の理由は、この本を読んだマイクが私にヘッドロックをかけ、“過剰な表現”を消すまで、頭をげんこつでぐりぐりねじまわすと困るからだけど)。けれど、今でも時々、自分のコンドミニアムでたっぷりのアイス・クリームを抱え、『フェリシティの青春※10の再放送を見ながらくつろいでいる時に、カーテンの後ろから紙に描かれたマイクがカートゥーン風に飛び出してきて、空中から私の行動をあれこれと指図し、駐車場の権利と倉庫の鍵を要求してくるんじゃないかと思えたりするのだ。
 そんなわけで、私とゲームの間柄は、ピーナッツ・バターとチョコレート、なんてものではなかった。むしろピーナッツ・バターとピクルスのような関係だった。とはいえ私はなんとか上手くやって、ウィザーズ・オヴ・ザ・コーストというゲーム会社でプロモーション・コーディネーターとして働くようになった。
 働き始めた時、いったい何をすることになるのか想像もつかなかった。さらに言えば、まさか『スター・ウォーズ』のストームトルーパーの格好をした誰かの後ろでコピー機の順番を待つようなことになるとは思ってもみなかった。そもそも“彼”が振り向いて、私に両面コピーのとり方を尋ねて寄越すまで、私はそれをブロックバスター※11にあるようなダンボール製の人形だと思っていたのだ。もっとびっくりしたのは、誰もその格好を奇妙だとは思わず、驚いている私に誰も同情しなかったということだ。彼に向けられた唯一の質問というのが「そのスーツ、純正品?」というものだった(ところで、これは実は重要なことなのだ。純正品だからこそ、彼は大枚をはたき、そして可能な限りそのスーツを着用し続けたのだろう)。そして私はロビーの天井からドラゴンが釣り下がり、会議室にはTVゲームのコンソールが並び、オフィスにはSF映画の悪役が座って休暇の日程調整や注文の処理をしている場所で働くことになった。で、私にここでどうやっていけと?  私はやがて、トレーディング・カードをシャッフルしたり、ダイスを転がしたりする音を耳にするようになった。会社のホワイト・ボードには、奇妙な地図と“ゼンドリック”“クバーラ”※12という何語だかわからない単語が書かれていたりした。そしてその傍に「絶対消すな」と書いてあった。ある時、会議室を通りかかると、同僚の一団がいて、机の周りに集まったり、なにやらプレゼンテーションの最中らしい誰かを凝視したりしていた。そして数分後、彼らはどっと笑い転げた。私の会議の時には笑う人なんか誰もいないんだけど。いったいこの人たち、何を話しているのよ?
 とうとう私は勇気を振り絞って、中でいったい何が行われているのか尋ねてみた。
 「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズを遊んでるんだよ」
 一人がそう答えてくれた。
 「そんな格好で?」
 私は言って、相手のポロシャツとカーキのパンツに顎をしゃくった。そういう遊びをする時は何か鎧みたいなものを着込むとか、少なくとも、その高価な蛇革のベルトに剣をぶら下げているものだと思っていたのだ。D&Dのゲームだけではなく、それを遊ぶ人たちがどんなものか、そのときの私には全く思いもつかなかった。少なくとも、会議室のテーブルの周りにいたごく普通に見える人々がそうであると思えなかったことだけは確かだ。
 その後数年、私とダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(つまりD&D)の関係は“中立的”だった。言うなれば、年に一度、会社のパーティーで会うだけの同僚の配偶者とかとの間の、飾り気も何もない地味な関係みたいなものだった。D&Dと私はすれ違う時には会釈を交わしただろう。コーヒーポットのところで会ったら礼儀正しく朝の挨拶をしただろうし、化粧室で手を洗う時に隣り合ったら、鏡に映った互いの姿に対して微笑みかけただろう。D&Dは私を悩ませなかったし、私もD&Dを邪魔しなかった。
 ある日、私の隣のブースに座っているテディが、D&Dにおける武器は歴史的な正確性についてはさほど重要視していないのだということについて、57分間にわたって独演会をやらかした。
 「D&Dではファルシオンが両手持ちのシミターとして扱われてる。歴史的には、あれは歩兵が持つ片手剣だったんだけどね」
 彼はそう言った。
 「でも、それでいいんだ。D&Dはゲームで、歴史のシミュレーションじゃない」
 私は礼儀正しくそれに耐え、脊髄反射で頷いてみせ、「わぁ」だの「ステキ」だのと適宜相槌を打った。で、この礼儀正しさがあだになった。
 「歴史的な武器に興味があるなら、たぶんゲームもすごく気に入るよ」
 テディはそう言った。
 「月曜夜に新しいキャンペーンを始めるんだ。一緒に遊ばない?」
 D&Dに <いい人> という技能があるのなら、テディはそれに関しては1兆レベルのスーパーマンだと思う。テディに「いいえ」って言うなんて、くまのプーさんに「いいえ」って言うようなものだもの。ともあれ、『メルローズ・プレイス※13を見る予定は雲散霧消し、私の月曜日の予定はこれですっかり埋まってしまった。

……『月曜日は魔法使い』冒頭より



1.ピーリング:美顔術の一種。古くなった角質層に薬品等を作用させて取り除き、肌の新陳代謝を活発化させることで、美しい肌を得ることを目的とする。
2.バスキン・ロビンズ:チェーン展開しているアイスクリームショップ。日本ではサーティーワンの名で知られているが、「バスキン・ロビンズ」のロゴも併記されている。
3.USウィークリー:芸能および芸能人関連ニュースを主に取り上げるアメリカ合衆国の週刊誌。
4.シューツ・アンド・ラダーズ・ソーリィ!:直訳すると「滑り台と梯子」。すごろくのようなボードゲームで、梯子のマスに止まれば先に進めるが、滑り台のマスに止まると下に滑り落ちる。
5.ワールド・オヴ・ウォークラフト:中世ファンタジーもののオンラインRPG。世界一のプレイ人口を誇るも、2008年3月現在日本語版は出ておらず、このため国内での知名度はそれほどでもない。
6.レイド:オンラインRPG用語で、あらかじめ打ち合せておいて大人数を集め、強敵の潜むエリアに挑むこと。
7.ズルガルブ:Zul'Gurub。『ワールド・オヴ・ウォークラフト』に後から追加された、60レベルのキャラクター20人で挑むことを前提とした難度の高いダンジョン。
8.ドナルド・トランプ:アメリカ合衆国の実業家、不動産王、タレント。蓄財のハウツー本を多く執筆する作家でもある。大富豪としても知られる。
9.ドナルド・トランプが主演兼プロデューサーをつとめるテレビ番組。番組参加者(公募による一般人)がトランプ関連企業の役員の座をかけて丁稚(アプレンティス)として働くというもの。ただしほとんどが番組中にトランプにより“クビ”にされる。
10.『フェリシティの青春』:アメリカ合衆国のテレビドラマ。“一途で、情熱的でひたむきな女の子”フェリシティの恋、キャンパスや寮での生活を描く。1999年にはゴールデングローブ主演女優賞を受賞。
11.ブロックバスター:アメリカ合衆国でチェーン展開しており、最大のシェアを誇るビデオレンタルショップ。
12.ゼンドリック、クバーラ:いずれもD&Dのキャンペーン世界のひとつである“エベロン”に登場する地名。
13.『メルローズ・プレイス』:アメリカ合衆国のテレビドラマ。メルローズ通りの洒落たアパートメント、メルローズ・プレイスを舞台に、そこで暮らす男女8人の、罠あり略奪あり陰謀ありの恋愛模様を描く。