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Web会員だけの特典が君の書棚へ――『ドラゴン・マガジン年鑑』 6月5日(土)発売!

『ドラゴン・マガジン年鑑』について

 第4版の『Dragon』誌選集第一弾へようこそ! この『ドラゴン・マガジン年鑑』には、『Dragon』誌がD&D Insiderに発表の場を移してから1年近くの間に掲載された記事の中から、選りすぐりの傑作が収めてある。僕たちは2008年6月から2009年3月までに掲載されたすべての記事に目を通し、吟味に吟味を重ねて、最良のものを選びだしたんだ。
(訳注:D&D Insiderはウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が英語版でのみ提供しているオンライン・サービス。なお、2008年6月は第4版の『Player's Handbook』が発売された時期にあたる)
この選集に載せる記事のリスト作りにはまったく苦労させられたね。実際、僕が最初に考えた構成案では、この年鑑に収められる分量をはるかにオーバーしちゃってたんだ。掲載記事の調整には神経をすり減らしたけど、『Dragon』誌上の“ベスト記事”を再編集する醍醐味をまた味わえたばかりか、以前にもましてバランス良く、より洗練された内容を集められたこともあって、我ながら興奮を抑えきれないよ。
『Dragon』誌ってのは昔からずっと、D&Dというゲームを奥底まで追求する場所だった。僕たちはそこで既刊製品に登場したいくつかの地域や悪役に脚光を当て、概略とその拡張設定を紹介してきた。僕たちはそこでゲーム世界に深く分け入り、君たちのキャラクターやキャンペーンをこの上なく精彩豊かに動かすやり方を模索してきた。そこはまた実験場でもあって、僕たちはルール的に許されるぎりぎりまで踏み込んで、新しいシステムや物語の設定を試験導入してもきた。
そして『Dragon』誌は今なおその目的に向けて邁進している。物語性の深さと処理の小気味よさを融和させるバランス調整や、刊行されたルールやサプリメント・シナリオのサポート、それにまったく新しい概念などを毎月紹介しているんだ。とは言うものの、『Dragon』誌がいかにトンでもない情報の宝庫であるかってことに(読みふけるうちに寝るのも忘れ、思わず「わお!」と声を上げるほどのものだってことに)気づいていない人が、筋金入りのプレイヤーの中にさえ少なくないということもまた確かだ。そこで僕たちは、過去の記事を『ドラゴン・マガジン年鑑』としてサプリメントにまとめる伝統を受け継ぎ、こうして一冊の本に仕上げた。読んでもらえれば、毎週欠かさずチェックするだけの価値がD&D Insiderのどこにあるかがわかってもらえることと思う。その他にも、君の本棚にある他のD&Dサプリメントを今までにない独創的な方法で活用するやり方や、君のキャラクター、君の冒険、君の世界をもっと盛り上げるためのいろいろな素材も、みんなこの中にある。
『Dragon』誌は、言うなればゲーム・ファンからの提案の中で最良のものの見本市だ。ページをぱらぱら繰るうちに、どこかで見た名前がけっこう出てくるってのはぶっちゃけそうだよ。でもさ、雑誌やその他の製品に関わっているデザイナーだって、プロである前に一人のファンなのさ──そう、君や僕と同じように、ね。さあ、楽しんでくれ。そしてもし、とびきりのひらめきが浮かんだなら、ぜひとも君の記事を(submissions@ wizards.com)までメールしてくれ(訳注:英語のみ)。もしかしたら、次の『ドラゴン・マガジン年鑑』には君の名前が載っているかもしれないぞ……。

 ──クリス・ヤングス


イグウィルヴのデモノミコン:イーノグフ


ノールのデーモン・プリンス

文:ロバート・J・シュワルブ


 “破壊者” ──イーノグフの異名──がふるう理不尽な暴力には独自性と言えるほどのものはない。あらゆるデーモンが殺戮を渇望し、万物に終焉をもたらそうとするものだからだ。神々の創造物をずたずたに引き裂き、万物に破壊の限りを尽くすことが彼らの望みだ。イーノグフが他のデーモンと異なるのは、殺戮行為を息を呑む一大絵巻に仕立てあげるその技においてだ。彼の手にかかれば、殺しは芸術の一形態となる──とはいえ断末魔の叫びや、不快な死臭に君が耐えられる限りにおいてではあるが。さてイーノグフの特異性は、殺しを体現するというその一点にある。敵の軟らかい肉を引き裂き、温かい血をその身体の奥から啜り出して根源的なうずきを満たすこと以外に、彼には望みと呼べるものはない。立ち塞がる者ことごとくを完膚無きまでに打倒することが無上の悦びなのであり、容赦なく敵を殺していき、その半狂乱の悲鳴でもって己の内にある空虚を埋めようとするのだ。殺戮こそがイーノグフの糧であり、いちずに鏖殺ばかりを追求することから、彼はアビスの無限の階層においてとりわけ危険な存在たりえている。
 “皆殺しの怪物”──これもまたイーノグフの異名──は、たちこめた煙の中に仄かな明かりが灯る広間で、はるか下方から聞こえてくる叫喚と、轢き潰し続ける車輪の響きに包まれて、骨の玉座に腰かけている。そう、イーノグフはアビスのデーモン・プリンスなのだ。ノールたちは種族の守護者として、神として彼を崇めている。アビスで自らの王国を築き上げた他のフィーンド(魔物)らと同じく、イーノグフは恐るべき災厄であり、破壊の力であり、競合するデーモン・プリンスたちの野心や計画にとっての妨げとなっている。イーノグフや、その旗印の元に参集した向こう見ずな軍勢にあえて挑戦しようとする者が、ひときわ強力なデーモン・ロード以外にはほとんど存在しないわけは、相手がおよそ阻止しようのない桁外れの連中だからだ。これでもし、彼の軍勢が戦役を一つ終えてもなお統制を保つことができていたなら、とうの昔に、イーノグフはアビスの真の支配者となっていたやもしれぬ。だが歴史が示している通り、イーノグフの最大の敵は自分自身であり、自分の身を滅ぼすようなことを幾たびとなく繰り返してきたのだ。


イーノグフとD&D

 イーノグフはグラズズトと同様に、故ゲイリー・ガイギャックスが、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』ゲームのために創造し、AD&Dの第1版において言及された最初のデーモン・ロードの一柱である。イーノグフは最初から重要な存在だった。というのも、デーモン・プリンスの中でも「最も強力で畏怖されているうちの一柱」として説明されていたからだ。彼の力の一部はこうした事実から生じている。ノールたちの崇拝に加え、彼はまた“グールの王”の忠誠と支持を得てもいた。ジェフ・グラブは『Manual of the Planes』(訳注:AD&D第1版のサプリメント、未訳)で、このデーモン・プリンスがアビスの階層の1つを支配している以上の存在であることを示唆した。特筆に値するのは、この本がイーノグフの領地について言及した最初の書物であるということだ。この領域は塩で荒廃した不毛な岩塩の地で、イーノグフは棲み処である移動要塞都市でもって徘徊している。この要塞はノールの監督官によって油断なく監視された奴隷の大群の手によって牽引されているのだ。
 イーノグフは、AD&Dの第2版における最初の数年間、しばらくゲーム世界から姿を消していた。1992年、彼はカール・サージェントの手になる『Monster Mythology』(未訳)で、ゲームに戻ってきた。この本ではイーノグフはデーモン(タナーリ)(訳注:デーモンの副種別のこと)のロードに留まっていたが、彼はまた神として独り立ちしており、“ジャイアントの” パンテオンの一員でもあった。出しゃばりな神であることから察するに、彼はもともとはパンテオンの一員ではなかったが、ゴレリックからノールの守護神の座を奪った際、後からそこに加わったのだろう。イーノグフはジャイアントのパンテオンの一部に留まり続けたが、ジャイアントたちそのものにはまったく頓着しなかった──彼はただ、死んだゴレリックから得たように、ジャイアントたちから力を盗み取れないかと思っていただけだ。
 D&D第3版においてイーノグフの存在感は、またもや陰りを見せ始めた。彼はいまだにノールたちに崇拝されてはいたが、もはや彼らの主神とはいえなくなっていた。追い打ちをかけるように、イーノグフは“グールの王”ドレサインを失った。アンディ・コリンズとブルース・R・コーデルの『Libris Mortis』(訳注:アンデッドについて扱った第3.5版のサプリメント、未訳)では、イーノグフがドレサインへ命令を下す能力を失い“グールの王”が本物の神格へ昇格したこと(その地位はデミゴッドとしての裏付けを得た)、あるいはイーノグフが力の大半を失い、早々にもはや神と呼べる存在ではなくなってしまったことが暗示されている。エド・スターク、ジェイムズ・ジェイコブズ、そしてエリック・モナの『魔物の書T:奈落の軍勢』(訳注:第3.5版のサプリメント)では、後の説明において“破壊者”が“弱小デーモン・ロード” であり、自分の選ばれししもべたちが世界で繁栄すること以上の野望をほとんど有していないものとして描かれた。ウルフガング・バウアーとグエンドリン・F・M・ケストレルの『Expedition to theDemonweb Pits』(訳注:ロルスとグラズズトの盟約を背景とした第3.5版のキャンペーン・シナリオ集、未訳)に至っては、イーノグフはデーモンの秘密会議の参加者内において小物であり、同格の者たちのせいでその存在感が霞んでいた。
 D&D第4版では、イーノグフはふたたび『モンスター・マニュアル』内で言及される数少ないデーモン・ロードの一柱となった。この“皆殺しの怪物”はノールの唯一の主人であり、その野卑なクリーチャーたちは襲撃や略奪に加えて、彼らの血まみれの聖餐の犠牲となる者を求めて世界を徘徊している。イーノグフはいまだに野蛮で残酷な者ではあるものの、強力なデーモン・ロードたちの中において、自分の居場所を取り戻そうともしている。“皆殺しの怪物”が、自らの悪臭ふんぷんたる領域をひっかき回し、この次元界にもう一度、恐るべき戦争を巻き起こすのはまさしく時間の問題である。


イーノグフの領地

 “イーノグフの領地”は、アビスの唾棄すべき要素が残らず混ぜ合わさって一つながりの土地となった、底なしの邪悪、残酷さ、理由なき破壊の同居する階層だ。この地に住むクリーチャーすべてにとって、この階層は虚無感のただよう場所だ。どこまでもどこまでも大サバンナが広がっており、そこには西の“呪呑海”から熱風が吹きつけるばかりだ。山々はひっそりと静まりかえり、そこに時折、死にゆく者の金切り声が響きわたる。命みなぎる“染み出す森” にすら、動くものはいない。夜になると“イーノグフの領地”は活気を得、狩人たちが隠れた洞窟と汚らしい野営地から現れるのだ。犠牲者の悲鳴やすすり泣く声、戦闘による唸り声や衝突音が響き、この地域は飛び散った鮮血の銅のような臭いで満たされる。
 “イーノグフの領地” は5つの広大な地域からなっており、そのことごとくに程度の差はあるものの“破壊者”の支配が及んでいる。他の4地域よりも圧倒的に広いのが“褐色のサバンナ” で、死せる草原が大海のごとくに果てしなく広がるなかに、節くれだった樹木や、黒ずんだ水をたたえた沼が点在している。この地域で、ノールはやりたい放題の限りを尽くしているのだ。
 このサバンナの北の果てにある絶叫山脈は、膿み崩れたような色合いの空に鉤爪を立てるがごとくに峨々たる山容を列ねている。突兀たる奇岩、崩落跡、そして砂利場があるばかりのこの山脈は、かつて“グールの王”の領地だった。“グールの王”の姿はないとはいえ、いまだにそこにはアンデッドが猖獗し、危険な地であり続けている。
 この山脈の向こうには岩塩の露出した荒れ地が見わたす限りに広がっている。そこはほぼ死に絶えた土地だが、貪欲なグールの一団やねじくれたデーモンの人造に限ってはここでも生き延びることができる。この荒野の眺めは神々の強力な勇者が没したことを忍ばせるものだという説がある。深層の最奥、黒い死の海の中、殺害された勇者の遺骸が眠っており、この地の岩塩の正体はその勇者の死去を嘆く神の涙が乾いたものということだ。
 “イーノグフの領地”の東の果ては“呪呑海”と呼ばれる黄色の海である。ここの海水は毒を有しているため、この海岸をうろつくノールはほとんどおらず、この黄土色の海面のすぐ下にあらゆる種類の恐るべきクリーチャーが潜んでいるために、実際のところほとんどの者がここに近付かない。“呪呑海”は“皆殺しの怪物”から逃亡してきた者にとっての避難所である。難民や逃亡者、反乱者の船団がこの海を航海している。こうした船団の筆頭と目されているのが、魂刈り号の首領たる冷酷非情なヒューマンのローグ“人食い王” である。彼と部下たちは、死んだ仲間を補充するためと、物資が少なくなった時の食料にするために船員を強制徴募している。“人食い王”は今のところ呪呑海に不満はないようだが、もし彼が遠洋航海へ乗り出したなら、幾艘ものボロボロの牢獄船に腐肉と堕落した船乗りを満載して帰ってくるだろう。
 領地の西にあるのが“染み出す森”だ。この森の広がりは無限であり、イーノグフが支配する階層に留まらずにその外にまで広がっているのだと言い張る者は多い。この地では、節くれだった木が高く伸び、絡み合ったツタと黄色の葉っぱの天蓋によって陽光が遮断されている。ひび割れた樹皮からは腐臭を漂わせる緑の樹液が滴っている。影の下を這いずりまわるのは、毒を有した昆虫の軍団と滑るように動く毒蛇、有毒の植物である。“滲みの森”は名目上イーノグフの支配下にある。しかし、残念ながら“破壊者”は森の実効支配を維持できずにいる。というのも、この森は侵入者をひどく嫌っており、長く留まりすぎた者を貪り喰らってしまうからである。


舞台裏:イーノグフの今と昔
 イーノグフはずっと昔から存在したからこの記事は他のライター、つまりこのゲームでそのデーモン・ロードがどんな奴でどういう立ち位置に設定するかという挑戦に取り組んだ面々のお陰によるところが大きいんだ。僕は是が非でも“ノールのデーモン・プリンス”に自分が関与した証を残したかったんだけど、彼がこれまでの版でどんな扱いを受けてきたのかには存分に注意を払うことにした。過去のライターたちのとびっきりの設定はできる限り変更したくはなかったんだ。一般論で言うけれど、背景設定に大きな変更があったのでない限り、新しい版が旧版のやり方の輝かしさを曇らせてしまうなんてことは普通ないし、過去の所産を尊ぶことで、その設定や知識体系に敬意を払うことにもなるのだからね。この記事の下調べでこのゲームの初版までさかのぼる見どころ一杯の記事の山を見つけた。僕はイーノグフがAD&D第1版の『MonsterManual』に登場して以降どれだけ落ちぶれてしまったんだとびっくりしてしまった。僕はそれを『イーノグフとD&D』のコラムでとても詳しく紹介したんだけど、ゲーム全体の設定とその都度矛盾したりする要素をまとめるのはそれほど手に負えないことではなかったよ。
 D&Dの世界ではイーノグフはたいてい負け組だ。このような常に打ち負かされることへの恨みは、間違いなくイーノグフの精神の中心的なものになっただろう。イーノグフはそのお尻をバフォメットとオルクスに蹴りあげられたので、ツキを見放してしまい、アビスの階層を他の勢力の侵略の増大によって完全に失っている。その代わりに“破滅を司る者”は、アビスの者が定命の世界に手掛ける通常のやり方をやめて、ノールたちを誘惑して堕落させ、彼らの神となったのである(聞くところによるとこうなんだ)。さらに、彼が定命の世界に几帳面に目を向けていることは、カール・サージェントが『Monster Mythology』でイーノグフをどう扱ったかに関連がある。カールはイーノグフを、神位を強奪した“タナーリの”王侯ということにし、そうすることで「出自がデーモンであることを隠蔽しつつノールを支配するデーモン・プリンス」という基本設定を(第2版の流儀にすり合わせつつ)残したんだ。

 ──ロバート・J・シュワルブ



クリーチャーの肉付け:コボルド

文:マイク・ミアルス


ちょこまか目障りなチビどもめ!

 コボルドのシフティの能力は、最初は特段すごいとは思えないかもしれない。しかし何度かプレイするうちに、必ずやその有用性を思い知らされるに違いない。1ラウンドに2回シフトできることは、とりわけ近接戦では重大な能力である。また、シフトが1回のマイナー・アクションとして行なえることで、移動速度に+1のボーナスと実質的に変わらない効果が得られることは肝に銘じておくべきだ。コボルドは自分の移動速度いっぱいまで移動した上で、さらに攻撃位置へとシフトすることが可能なのだ。
 コボルドはほぼ常にシフトを1回ないし2回行なって挟撃できる位置に入り込むべきだ。一箇所に留まるのは、呪文使いを危険から護るためというように、どうしてもそこから動けない場合に限らねばならない。ウィザードやパラディンはコボルドと戦うことを嫌っている。パラディンのディヴァイン・チャレンジによってマークされたコボルドは、パラディンを攻撃し、次いでシフトし、さらに移動で遠ざかることができるため、パラディンはそのコボルドの後を追うか、ディヴァイン・チャレンジの効果終了を受け入れるかしかなくなるからだ。
 一方ウィザードも、範囲呪文でコボルトを狙うことに難儀しがちだ。やつらはファイターの周囲をシフトですり抜けてパーティの真ん中に入り込んでくるからだ。特に雑魚コボルドはシフティを使っての散開を多用し、一箇所に寄り集まることがあるとすれば、範囲攻撃を受けたとしても確実にプレイヤー・キャラクターを巻き添えにできる時くらいだ。


罠と地形

 コボルドは巣窟に工夫を凝らすことで、攻撃者をうまく撃退しようとする。狭苦しい空間を彼らは好み、それを利用して敵を分断したり、仕掛けた罠へとまっすぐ進ませたりする。以下にコボルトの常套戦術を10種紹介する:
 1.狭い通路と広い部屋:コボルドは5フィート幅の通路を好む。侵入者を密集させ罠を避けにくくできるからだ。一方、部屋が広ければその分だけ大勢のコボルトでもってPCたちを取り囲むことができる。
 2.狙いを高くしろ:コボルドは、小型クリーチャーの頭上を素通りするが中型以上の敵には突き刺さる大鎌の刃などのように、自分たちには無視できる罠を作ることを好む。とはいえ、それではノームやハーフリングにも無効となるため、必ずしもそれ一辺倒ではない。しかし、自分たちコボルドが立って戦える狭苦しい場所には好んでその種の罠を設置する。
 3.隠し扉:コボルドは隠し扉を愛して止まず、突飛な場所にそれを設えることをとりわけ好む。彼らは隠し通路を這って進むことも厭わないし、建物の出入り口を天井や床面、壁の上方などに造ることが大好きなのだ。
 4.小さい扉:小型のクリーチャー用のサイズの扉は大きな敵の移動を遅らせることができるし、小型のクリーチャーなら通り抜けられる間隔のあいた鉄柵門にしても同様だ。そうした扉は中型以上の敵にとっては移動困難な地形として扱う;門は、開くためにアクションを(たとえば鉄柵の棒を曲げたり門扉を開けたりなどのアクションを)使わざるをえなかったり、中型のクリーチャーなら鉄棒と鉄棒の隙間に無理やり入り込む必要があったりする。そういった扉や門が素晴らしいのは、コボルドならばシフティを使ってすり抜けることができるのに、敵は貴重なアクションを消費しなければならないことだ。
 5.作動を遅らせた罠:コボルドの罠師には安全スイッチ付きの罠を作る者がある。スイッチが押されてはじめて活性化する罠だ。コボルドはのぞき穴を使ってパーティが部屋に入ってくるのを監視することを好む。そして彼らの背後の罠を活性化させる。PCたちが“安全な”場所まで移動した後で、罠が活性化するのだ。
 6.矢狭間:コボルドは一方的な戦闘が何よりも好きである。彼らは自分たちの巣窟のいたるところに、安全な壁の向こう側からアローやクロスボウのボルトを放つことのできる穴をとりつける。
 7.逃げ道:ぶざまな敗走は崇高な死に勝る──これがコボルドの処世訓だ。彼らの巣窟はすばやく脱出するための秘密通路だらけであり、よく練り上げられた手頃な脱出計画を持っていないコボルドの酋長などめったにいない。
 8.秘密こそ防御なり:ダンジョンという環境でコボルドは自分たちよりも体の大きいモンスターたちと競い合わねばならないため、彼らは自分たちの巣窟の場所を簡単には突き止められないようにする。コボルドは隠し扉や罠の扉、その他の隠し通路を組み合わせて重要な部屋を護ることを好む。物騒な敵に出くわしたなら、彼らは戦うよりも隠れる方を選ぶのだ。
 9.待ち伏せ:コボルドはできる限り不意討ちで攻撃を行なう。彼らは、コインの小さな山や光る石、宝石や奇妙な像やその他の目立つものといった、無用心なやからを罠や待ち伏せに誘い出す仕掛けを好む。
 10.ゲリラ戦術:戦って、逃げて、もうちょっと戦う。これがコボルドの戦術の基本原則だ。彼らはシフティでもって、1ラウンドに攻撃、シフト、疾走を行なうことができる。これこそコボルドが敵を罠や待ち伏せ場所に誘き出すために好んで用いるコンビネーションである。コボルドは生死をかけた延々続く乱闘を心の底から嫌っている。そうするくらいならとっとと敵から逃げ出すし、死ぬまで戦うことがあるとすれば、それは逃げ場がなくなった時くらいだ。



死灰同盟

文:アリ・マーメル


 オルクスを信仰するカルト教団の大多数は、言うなれば見え透いた邪悪だ。彼らは破壊それ自体を目的に暴力をふるい、主の渇きを癒すために罪なき者たちの血を集め、あらゆる生命存在に対してオルクスが抱く怒りを共有している。いやはや、まったくもって穢らわしく、許し難き徒輩である。とはいえ、彼らも所詮は局所的な邪悪でしかなく、そのやり口も対処しかねるほど厄介なわけではない。潜伏を続けてきた前述のごときカルト教団も、いったん存在が明らかになってしまえば、その目的や手法は先読み可能なものでしかない。ただし、“アンデッドのデーモン・プリンス”であるオルクスに仕えるカルト教団の中には、どうにも予測しがたいやり方で、かといって無差別に思うがままにというわけでもなく、暴力をふるう組織もある。彼らは熱狂に駆られ、殺戮による歓喜のみならずより邪悪な目的をも視野に入れて、苦痛、暴力、不死をあまねくもたらす。そうした中でも最悪に数えられる集団の一つが、“死灰同盟”と呼ばれるものだ。
 宗教的情熱みなぎる長老アランサムの率いる“死灰同盟” は単独の教派ではなく、オルクスを崇める諸教団中に賛同者を増やしつつある思想的運動である。“死灰同盟” の信奉者らは“墓に語る者たち”、“死灰を運ぶ者たち”、“空ろなる墓の使徒”とも呼ばれるが、単一の大目標に突き動かされている。それはレイヴン・クイーンが占めている玉座に自分たちの主君を昇らせ、あらゆる死者の支配権をその手に握らせることだ。
 太古の魔法や神学理論を通じて、“死灰同盟”は生命のサイクルを根本的に変化させようとしている。さすれば不死はもはや不快極まる死霊魔術の力を要する忌まわしきものならず、生命の自然な遷移に過ぎざるものとなる。かくて死したる者ことごとくが再起なし、よろよろと歩くアンデッド存在に転生する。さるほどに“不死” は“死”の地位を簒奪し、その帰結としてオルクスもまたレイヴン・クイーンの地位を簒奪するのだ。


死灰同盟の歴史

 長老アランサムは“死灰同盟”運動の創始者であるが、その人物像は闇につつまれている。長老がかつてはバハムートに仕える高司祭であり、信仰の危機を迎えてオルクスに改宗したという経緯を信奉者たちは知っているが、それ以上のことは誰も知らない。


オルクスに祝福されし者

 長老アランサムの悪名は、背教の司祭たちをヒューキューヴァと呼ばれる、穢らわしいアンデッド・クリーチャーへと変容させる太古の儀式書の写本を彼が発見した時に始まる。カルト教団の面々に立ち会わせてアランサムはその儀式を執り行ない、わずかに残っていた人間性と、「誤り導かれた旧の信仰のわずかな残臭」とみずから言い放ったものをかなぐり捨てた。かくてアランサムが不死を熱烈に抱きとめたとの報せは、囁きや、内密な伝言によって諸教派に広まり、オルクス教団は新たな信徒で膨れ上がった。誰しもが、オルクスの暝き栄光を力強く説くアランサムの説教に魂を揺り動かされてのことである。
 そしてアランサムが説教の重点をオルクスや不死にまつわる全般的な事柄から、オルクスはいつの日か必ずレイヴン・クイーンの玉座を占めるという説に移し始めたのもこの時期であった──もっとも、後の“死灰同盟”運動で彼がその説に注いだ熱意に比べれば、まだ穏やかなものではあったが。とはいえ、アランサムは“流血公” オルクスへの最初の供物として、みずから不死の身となったのだ。教団が拡大を続けていたこの時期に、不浄なるヒューキューヴァと化したアランサムはかつて仕えていたバハムートの寺院へと舞い戻った。とてつもない大虐殺によって彼は司祭全員を殺戮しただけでなく、よろよろ歩くゾンビとして蘇生させ、近隣の都市へと解き放ったのだ。
 アランサムの信奉者はその年のうちに3倍にもなった。しかし、彼の精力的な活動は都市の為政者や様々な教団の怒りを招くこととなり、彼らが一致団結してバハムート寺院の破壊者を追う事態をも招いた。アランサムの信奉者数名が捕らえられたが、秘密寺院の場所や指導者の正体を暴露した者は誰一人いなかった。
 アランサムの活動はまた、アンデッドのグラブレズゥにしてオルクスのエグザルフ(側近)であるホルクウィアーの注意を惹きつけることにもなった。会衆の面前で爆発する炎の中から現れたホルクウィアーは、そのように露骨に活動していては、地下組織であるはずの教団の存亡を脅かすことになると、この司祭を叱りつけた。
 長老アランサムは静かに耳を傾けていたが、彼らしい落ち着きと慇懃さを保ったままで、より内々の場でこの状況を話し合おうと前述のエグザルフを招いた。
 閉ざされた扉の向こうで何が起きたかは誰にもわからない。その場のすべてのカルト教団員が瞠目して見守る中で、長老アランサムが接見から戻ってきたが、その干からびた指は悪魔の血で濡れていた。ホルクウィアーは臆病者だとアランサムは言い放った。“アンデッドのデーモン・プリンス” に仕える資格のないこの者に取って代わり、自分がエグザルフの地位に就くのだと大音声で宣言したのだ。
 オルクスの怒りが我らが指導者の頭上に振り下ろされるのではあるまいかと、カルト教団員たちは待ち構えた。しかし、怒りは振り下ろされず、エグザルフを自称する長老アランサムの悪評は一層高まり、信徒も増える一方だった。


死灰同盟の誕生

 アンデッドは眠らないという事実にもかかわらず夜中に見た夢でオルクスから啓示を受けた長老アランサムは、かのデーモンをレイヴン・クイーンの玉座につけるための手助けに重きを置くことにした。そのために手を差し伸べることが信者の義務だと長老は長々しく熱弁を振るい、オルクスを崇めるあらゆる教団が力を合わせてこれに当たらねばならないと主張した。
 当然、この言葉が届くと、他のオルクス教団の指導者たちは異議を唱えた。しかし、信徒たちの多くがこれに納得し、アランサムの理念がオルクスの諸教団中に広がる思想的運動の基盤となるには充分であった。これが“死灰同盟”の誕生である──世界の自然秩序を変化させようとするオルクスとその信徒たちの間に交わされた(アランサムが言うところの)契約である。


来るべき陰謀

 こんにち、“死灰同盟”はオルクス信者の間で最大の統一的運動の一つである。この運動はそれ自身が広域教団として独立するに足る団結力にはいまだ欠けている──その理由はメンバーが様々な教団として地理的に分散しているのが半分で、思想的運動内の様々な派閥が自分たちの目的を達成する最良の手段に統一見解を欠いていることがもう半分である。しかし、アランサムの言葉に従う信徒たちが増えれば増えるほど、彼の教義に対する支持がこの指導者への忠誠へと取って代わるようになる。“死灰同盟”が世界全域に波及するのももはや時間の問題である。
 そのように、オルクス教団から独立できそうなまでの実力を蓄えつつある一方で、“死灰同盟”は内部分裂しかねない火種を抱えてもいる。“漆黒の乗り手団”を率いるアンデッドの将軍モーグリエンが、長老アランサムのやり方に不満を募らせつつあるのだ。かのデス・ナイトにはアランサムほども力もカリスマ性もないが、それでも直接の信奉者たちを従えており、その教説に肩入れする者が増えつつあることからも、彼の教派が“死灰同盟”から離脱する日も刻々近づいているわけである。その事態が発生したなら、2つの派閥の間で内部紛争が勃発するかどうか誰にも分からない──しかし、これに関与する者たちの混沌として血に飢えた性質を考えれば、ありうるべきことである。


死灰同盟の目的

 “死灰同盟” は世界そのものの自然秩序を変えることでオルクスをレイヴン・クイーンの玉座に据えようと目論んでいる。長老アランサムの考えでは、不死こそ生命が行き着く終焉なのである。死せるクリーチャーは皆、再び蘇る──死霊術の儀式やシャドウフェルとの次元的結合によってではなく、自然に蘇るのだ。
 それは狂気の産物かも知れないが、高尚であり、しかも達成の難しい目的である。その目的を達成するためにどんな手段を取ればよいのかを会員たちが論じ合っていることから、“死灰同盟”は教説の違いにより多数の分派に分かれているという事情もある。長老アランサムはどの手段に傾注すべきかをまだ決めかねており、各派が自分たちの教説こそ成功の見込みが一番高いのだと証立てようと競い合うことを許容している。そのためどの教派も、神学理論や空論、推測ばかりをもっぱら拠り所とする事態となっている。もっとも、どの教派の面々も、自分たちの説の正しさを証明するためにはどんな実験であれ喜んで行なう気でいるのだが。


死灰同盟の指導者たち

 “死灰同盟”には階級構造が存在しない。というのも、現状ではまだ独立した組織の体をなしていないからだ。むしろ、“死灰同盟”のメンバーは、教団内におけるそれぞれの地位に応じたなけなしの権威を振りかざすのだ。しかし、中には絶大な権力を持つ者もおり、“墓に語る者たち”──すなわち“死灰同盟”──の全員から大いに尊敬されている。


長老アランサム

 “死灰同盟”運動の創始者であり、オルクス教団の高司祭でもある長老アランサムは奇怪な謎に包まれた人物である。情熱的でカリスマ性のある語り手である彼は、その信奉者たちが秘めた狂信の火を空前無比の大火にまでかき立てることができる。“死灰同盟”に属するすべての者はアランサムがエグザルフを名乗ることを受け入れている。というのも、彼は“流血公”オルクスと意思疎通できるらしいからである。
 ドレサインが不死の残忍で破壊的な側面を代表し、ヴェルミタージが不死と疫病のつながりを代表しているとすれば、この最も新しいエグザルフはアンデッドの永遠なる根気強さを代表している。アンデッドは最も複雑で長期に渡る目的さえも成し遂げることができる真の永劫性を持っているのだ。


“黒き竜”モーグリエン

 その黒い髭と黒い鎧、邪悪な気性ゆえに“黒き竜”と呼ばれるこの人物はオルクスに奉仕する戦闘隊長であり、“漆黒の乗り手団”と呼ばれる傭兵団の団長である。事実、“漆黒の乗り手団”は“流血公”オルクスのカルト教団であり、オルクスの御名の下に血を流しその過程で少々のお金を稼ぐための口実として、雇われ兵士としての立場を利用している。“漆黒の乗り手団”は、その本性をしっかりと隠し続けている。それによって、オルクスの信徒だと露見するとどちらの陣営にも参戦を許されないような戦いにも加わることができるのだ。
 モーグリエンと“漆黒の乗り手団”は“死灰同盟”に焦点を当てていないキャンペーンやアドベンチャーでさえも使うことができる。彼が行なう傭兵活動は、オルクスやそのカルト教団と関係がなくとも、君が選んだ戦いに彼らを登場させることができる。同様に、“漆黒の乗り手団” との戦いは“死灰同盟” の他の側面をゆっくりと紹介するのに良い手段である。PCたちが敵についてさらに知ることができるからだ。



フ ェイワイルドの城塞都市、ミスレンダイン

文:ロドニー・トンプソン


 フェイワイルドの奥深く、レシデュウムの嵐渦巻くヴァルドレナイ平原の彼方に、そこはある。エラドリンの築きし都は数あれど、壮麗さにおいて並ぶもの無しと謳われる都、ミスレンダイン。都の名はエルフ語で“要塞の壁”を意味しているが、今ではその名はエラドリンの美と長命を意味する言葉になっている。住民は約40,000人、そのほとんどがエラドリンである。天高く聳える塔と優美な建築の並ぶ、輝くばかりの美しき都、ミスレンダイン。正式な名に加えて、ミスレンダインはしばしば“秋の都”とも呼ばれる。というのも、塔のほとんどが黄色、黄金色、ブロンズ色などといった、秋の葉に近い色をしているからである。
 ミスレンダインが創建されたのは数百年前、エラドリンの帝国が衰退にさしかかった時期である。この頃、エラドリンはフォモールの諸王と血で血を洗う死闘を繰り広げていた。その最中、あるエラドリンの遠征隊が、フォモールどもが地底の王国からフェイワイルドの地表まで掘り抜いた抜け道を偶然に発見した。その大きな穴からは、アンダーダークの邪悪な生き物が毎日何千匹も這い出してきた。エラドリンの兵士たちは屍山血河の激戦の末にフォモールを穴へと押し戻し、ついにはアンダーダークに追い返した。エラドリンは強力なウィザードたちの助力を得て、アンダーダークにつながる穴を封印し、フォモールが地上侵攻に使用していた主要な経路のひとつを封鎖した。これほどの巨大な穴を放置しておけば、いずれまた開かれてしまうと考えた兵士たちは、そこに要塞を築いた。そして、アンダーダークの手先がエラドリンの警戒を逃れて侵入することのないように、防壁に覆い被せるがごとく本丸を置いたのだった。
 最初のうち、要塞は油断なく防壁を見張り、兵士たちは何ものも防壁に手を出せぬよう厳重な警備を敷いていた。しかし、防壁の存在を秘密にしていたため(ミスレンダインの創建者たちは防壁の存在が広く一般に知られてしまうことを恐れていたのだ)、時を経て世代を重ねるにつれて、要塞が築かれた真の目的に関する知識は人々の記憶から薄れて行った。兵士たちは要塞で共に暮らすべく家族を呼び寄せるようになったが、ミスレンダインで生まれた子供たちは、城塞の中心にある防壁について何の知識も知らされることはなかった。小さな城塞の人口はほんの数十年の間に爆発的に増加し、家族は要塞の城壁の外に家を建てるようになった。要塞を攻撃する者はなく、アンダーダークの輩がミスレンダインの下にある防壁を破ろうと試みることもなかったからである。やがて、要塞は村になり、町になり、さらに数十年の時を経て街並みが広がり、ついには都市になった。
 時はさらに流れ過ぎ、要塞を築いた最初の世代の兵士たちは皆この世を去って行った。数世紀が経過するうちに、“秘奥城”(最初に立てられた要塞はそう呼ばれていた)の地下に隠された秘密を憶えている者は、都の一握りの指導者たちだけとなり、彼らもやがて自らの後継者たちに秘密を伝えて逝った。アンダーダークからの脅威もなく(少なくとも他のエラドリンの都ほどには)、ミスレンダインは大いに繁栄した。やがて、兵士たちの権勢は衰え、学者や芸術家、職人たちが都の新たな支配階級となっていった。ミスレンダインの黄金の塔は高さをいや増し、軍事拠点としての都の起源は歴史の中に埋もれて行った。
 現代のミスレンダインには、かつてアンダーダークから忍び寄る魔の手に対抗する軍事拠点であった頃の面影はほとんど残っていない。磨き抜かれた青銅と、煌めく黄金の塔の群れは雲に届くほど高く聳え、都の心臓部にアンダーダークへつながるフェイワイルド最大級の通路が存在することなど夢にも思わぬまま、大勢のエラドリンが街を行き交っている。


都の概要

 “この世界”から“秋の都”を訪れた者は、都の美しさと異質さに驚愕することだろう。ミスレンダインは巨大な森の中に築かれており、まるで都そのものが、街中に立っている木と同じく地面から生えてきたもののように見える。実際、高く太い木々にはエラドリンが建てた塔より高いものも多く、そのため塔がまるで森に自然と生えた植物のような印象を受けるのだ。中心部の城郭を除けば、ミスレンダインに市壁はなく、それはつまり建物と巨大な木々の合間を縫って、どこにでも歩いて行けることを意味する。都の中心部から放射状に数百もの街路が走っており、訪問者は好きなところから街に入れるし、出て行く時も同じように建物の合間を縫って最短距離で都を後にすることができる。都には短距離ながらも瞬間移動のできる住民が大勢いるため、大きな市壁を建てる意味があまりないのだ。
 街路はとてもすべすべとした、光沢のある、砂茶色の石で緩やかに舗装されており、まるで思いつくまま無計画に敷いて行ったように曲がりくねりながら、町中に張り巡らされている。ミスレンダインでは、区画の中に建物を建てるのでなく、3つから5つの塔を1まとめにした範囲を区画にする;つまり、一群の塔を囲むように道を作るため、都の中には行き止まりが存在しないのである。すべての街路は他の道とつながっているか、分岐している。建物はすべての方向を、ほとんど障害物もなく、かなり遠くまで見渡せるように造られている。都にはたくさんの建物があるが、それぞれの塔群が広範囲に渡って視線を遮ってしまわないように考慮されている。有機的な都市構造をしているため、ミスレンダインを歩いていると、街並みが無計画かつでたらめに建てられているような気がしてくる。しかし実際はまったくの逆で、都の指導者たちは建築許可を出す際に、新たな建物が離れた場所にある既存の建物からの景観を阻害しないよう、細心の注意を払っているのだ。さらに、都の各所には芝生と小川のあるちょっとした憩いの場が設けられ、エラドリンたちが家の外で互いに交流を持てるようになっている。エラドリンたちはミスレンダインが庭園やせせらぎや小さな湖に満ちた都になるように配慮しており、そのため都と周囲の森が時を同じくして自然に生えてきたかのような印象を与えているのだ。
 “秋の都”に長く住み続けた経験のない者は、都全体に低く柔らかな持続音が流れていることに気付く。都に住むエラドリンのほとんどには、もうこの音は聞こえなくなっている;これは都に流れる秘術の魔法が、都および都のすべての建物の内外に張り巡らされた防御魔法に干渉する際につま弾かれる音である。空気が目に見えないエネルギーで脈打っているのも、ミスレンダインに住むエラドリンにとってはあたりまえのことに過ぎないのだ。フェイワイルドの魔法的影響力を示すもうひとつの徴は、都の建物や街路でレシデュウムが採取できることだ。他の居住地で砂埃が降り積もるような感覚で、この都には魔法の精髄たるレシデュウムが降ってくる。都の指導者たちは賃金を払ってレシデュウムを集めさせ、それを秘奥城に運び込んで、都に張り巡らせた防護や魔法的探知を強化するために使っている。都の地上で許可を受けずにレシデュウムを採取して私物化する行為は犯罪である。採集したレシデュウムは都の周囲に張り巡らせた防護魔法を維持する上でも、城塞の地下にあるアンダーダークへつながる地下道を封鎖する防壁を強化する上でも不可欠のものだからだ。一部の強欲な市民がレシデュウムを隠匿して我が物としているのは周知の事実だが、それは違法であるばかりか、ミスレンダインの安全よりも我欲を優先する反社会的行為とみなされている。


防衛力

 ミスレンダインは調和にあふれた場所ではあるが、それでもエラドリンの都の守護者たちは片時も休むことなく数多の危険に警戒の目を光らせている。この都はアンダーダークにつながる巨大な通路の上に建てられており、都の防衛機構の多くは地下からの侵入を察知するべく設置されたものである。とはいえ、都の守護者たちが警戒しているのはアンダーダークの脅威だけではない;フェイワイルドには悪戯好きで意地の悪いクリーチャーが山ほどおり、そうしたものには都に大きな災いをもたらすことができるものも多いのだ。
 ミスレンダイン防衛の主力は都市警備隊である。都市警備隊は志願兵で構成され、日夜市街を警邏し、平和を脅かそうとするものはないか警戒している。ミスレンダインの影に暗躍する輩に対抗するのが“夜の監視隊”だ。彼らは都の安全を外部から脅かそうとするあらゆるものを探り出す使命を帯びた秘密警察である。これらの組織については後述の『法律とその執行』の項を参照されたい。
 先に述べたように、ミスレンダインには市街を囲む壁がなく、秘奥城から最も離れた地域は森からの攻撃に対して何の防護も得られない。しかし、そうした場所にある建物の住民たちは自衛手段を講じており、外縁部の建物には外部からの侵略者を防ぎ止める秘密の仕掛けがたっぷりと詰め込んであるのが常である。通常、ミスレンダインの郊外に住む人々は扉のそばに弓や槍を常備しており、可能ならば家に防護魔法を設置している。郊外の建物の上層階には、都の外側方面の壁に矢狭間が設けられており、住人たちが家の中の比較的安全な場所から侵入者に向けて矢を放つことができるようになっている。都の中心に近づくにつれて、建物の所有者自身が設置した防衛装置は少なくなり、代わりに都市そのものの防衛機構が力を増していく。  ミスレンダインには主要な防衛機構が2つある。それが破幻球と振動警報である。
 破幻球:破幻球は都が初期の城塞の境界を超えて拡大した後に開発された。これは直径8フィートほどの硬い大理石の球体で、地面に設けられた凹みに設置する。破幻球の表面は秘術のエネルギーで脈打つ光を放つルーンに覆われている。このルーンによって球体は[幻](インヴィジビリティ、不可視化を含む)を妨害する魔法的エネルギー波を放射する。フェイワイルドにおいて、不可視の存在は重大な脅威である。彼らは都の中心まで歩いて入り込むことができる;フェイワイルドのクリーチャーに不可視化能力を持つものがどれだけいるかを思えば、都の指導者たちが破幻球を設置した理由がよくわかるだろう。破幻球は効果範囲が互いに重なり合いつつ都のほぼ全体を覆うような配置で、ミスレンダイン全域に設置されている。
 振動警報:振動警報は、精巧なルーンの刻まれた魔法の石であり、地中に埋められている。振動警報は、敵が通り抜けることのできる大きさの裂け目が生じるなどの、重大な擾乱(局地的な地殻変動)が地中に生じると、それを感知する。



星に願いを

文:ブルース・R・コーデル


 ウォーロックには、異世界の不可解な存在と契約を結ぶことで秘術のパワーを得る者も少なからずいる。秘術知識の研究に長年を費やすことで博識を得たウィザードから見れば、何という無鉄砲で短絡的なやり方だろうかと思えてもくるわけだ。
 否定論者がとりわけ胡散臭い目を向けるのは“星の契約” のウォーロックたちだ。何せ、世間の大勢が単なる星だと信じているが、いや、そうではなく奇怪な怪物なのだという意見もある星々を相手に約定を結ぶ輩なのだから。つまり、“星の契約”のウォーロックが契約を結ぶのは、“彼方の領域”にいる得体の知れない存在ということなのだろうか? いや、それを言うなら、夜空の星が、無窮の闇のとばりにぽつぽつと開いた遠い光の穴にとどまらず、それ以上の何かであるなら、“単なる星”とは、いったい何のことなのか?──といった疑問も湧いてくるというものだ。当事者である“星の契約” のウォーロックたちでさえ確かなことは知らないのだが、かように五里霧中だからといって、夜空に輝きつづける無慈悲な光の点から授かった力を振るうことを彼らが思い留まるわけではない。
 夜空の星に願うとき、血も凍る悪夢がその後に続くこともあるのだ。


星の契約

 夜空に点々と輝く光のことを多少なりとも知っている者なら、遠い星々や特徴的な星々を指さしてその名を口にし、星座をたどることもできるだろう。しかし、“星の契約”のウォーロックともなれば、かつてはありふれた星と思い込んでいたかもしれない天体に対しても、やがては真相をつかむことになる。かかる学究の徒はありふれた星々の秘められた名を知り、肉眼では見つけることの難しいはるか遠方の異質な輝きが形作る星座を見つけることもできるようになる。
 “星の契約” のウォーロックたちが敵勢を撃ち払うために用いる凍てつく災いや呪いの文言は、夜空の向こう側から到来する夢の中でもたらされるのかもしれないし、ことによると──ほぼ誰もが否定する説ではあるが── “彼方の領域” で生じた夢ということも考えられる。しかし、時の概念の外にある異質にして未知なる領域とのつながりをウォーロックたちが得ることに星々が関与しているというのは、いったいどういうことなのだろうか?
 星々の一部は“彼方の領域” の存在の影響下にあるというのが真相なのかもしれない。“彼方の領域”にいるさまざまな存在が、世界を垣間見る窓として(無意識に、もしくは意図的に)星々を利用しているというわけだ。そうした存在の名を冠された星々を通じて、ウォーロックたちはその名の持ち主から力を引き出す。
 夜空のすべての星々がひどく恐ろしい化け物と裏でつながっているとは考えにくい(もっとも、“星の契約” のウォーロックの中には、夜空にきらめくすべての星明かりが同時に瞼を開き、瞳をあらわにするという悪夢から目を覚ます者もいるのだが……)。ただし、現実にそうしたつながりを持つ星もわずかではあるが存在し、『メレクの黙示録』と題された羊皮紙の文書にミミズがのたうつように震える字で記されている。


“星の契約”のウォーロックのロールプレイ

 否定論者たちが最も恐れていることがもしも事実だと判明したなら、それをどう受け入れたらよいだろうか? その場合、“彼方の領域” や、その他の宇宙的恐怖が潜む場所から秘術のパワーを引き出すという行為をどう解釈したらよいだろうか?


自己中心的

 「勘違いすんな。影響されてるのは俺サマじゃなくて、星の方なんだからな!
 君はひどく自己中心的な“星の契約” のウォーロックに違いない。確かに、君は“異形”なクリーチャーが一見無害な星々とつながっていることを学んだ。確かに、狂おしい光景の奇妙な幻視が君の夢を侵蝕し始めた。確かに、君は他の者には聞こえない奇妙で無調な音楽を耳にする。しかしいずれも、対処しかねるものではない。君は、正気を失わずにいることが何より大切だと知っている。


世間知らず

 「冗談はよしたまえ! まあ、かくいう僕も儀式を執行していて、月の表面に大眼が開いて目配せをしてきたような気はしたんだけどね!
 君のPCである“星の契約” のウォーロックは単に世間知らずなだけかもしれない。おそらく、君は自分が結んだ契約のことをあまりにも知らなすぎ、ひどく常軌を逸したパワーが己の両手に流れ込み始めたことに気づきもしないのかもしれない。奇妙な夢が時々、君の安息を悩ませたとして、それが何なのだろうか? 誰でも悪夢の一つや二つは見るものだし、アンデッドやその他のモンスターを巣から引きずり出した一日の最後にはとりわけ、悪夢は訪れやすいのではないか?


狂気

 「近寄らないで! だから、どいてくれよ! ああ、すまなかったね。その、つまり……例のモノが見えた気が。あ、いや、何でもないんだ
 おそらく、君は本当は理性を失い始めている。単なる軽い不快感として始まった感覚は激しい嫌悪感となり、最後には猛烈な恐怖感が激発することとなる。君は自分が何らかの光景──例えば、魚──を見ただけなのに過剰に反応する時、おそらく君の頭の中では何かとても良くないことが起きている。しかし、このように認識しているにもかかわらず、君は前へと進む。君は夜中に寝袋の中で金切り声を上げることがよくあるにもかかわらず、それをごまかしてうまく切り抜けることができる。


実用主義者

 「星など所詮は力を得るための手段でしかない──それ以上のものではないのだ。確かに、ウォーロックの契約には危険が付き物だが、星々に叡智を求める我が契約は、悪魔の嘘を信じ込んだり、常軌を逸したアーティファクトを用いるために自分の目をえぐり出したりする道よりはましというものだ
 君はそもそも“星の契約” なるものが誇大妄想であり信じるに足らないと考えているウォーロックだ。君はあまりにも多くのものを学ぶことで最後にはしっぺ返しを受けるだろうことを充分に知っている──おそらくは最終的には狂気にさえ陥るだろうと。しかし、冒険者の生き様は容易いものでなはいのだ。君は正気を保ち続けるかもしれないし、保ち続けることができないかもしれないが、君は夜空をけばけばしく覆う星々の正体にショックを受けるほど世間知らずではない。



ブラッドゴースト一家

文:マイク・ミアルス


 “ゴブリン”という言葉から想起されるのは、夜更けにキンキン声で喚きつつ村に襲撃をかけるゴブリンの戦士団やら、整然たる隊列を長く列ねて行進するホブゴブリンの一隊やら、森の小道で待ち伏せをしかけようと身を潜める抜け目ないバグベア衆やらの姿である。そんな紋切り型のとらえ方が保たれることをブラッドゴースト一家は望んでいる。世界中の都市に設けた秘密のアジトを拠点に、彼らはゆすりや窃盗から暗殺まで、そして時には合法的な投機事業にまでも打って出る。ブラッドゴースト一家はその類いまれな貪欲さと狡猾さを武器に、ゴブリン類の侵略から文明を護ると誓いを立てた人々のまさしく鼻先に、一大犯罪帝国を築き上げてみせたのだ。


歴史

 この犯罪組織はたった1人の女バグベア、グラーラ・ブラッドゴーストによって創立された。グラーラは、とあるホブゴブリン船長が率いる海賊のガレオン船に戦士として乗りこんでいた。グラーラが属するバグベア部隊は水陸両用の海兵隊で、接舷攻撃の際に先頭に立って敵船に斬り込む役割を負っていた。
 グラーラは次第に重用されるようになり、ついには船長のお抱え用心棒までになった。船長が略奪品である積み荷を、ヒューマン、ティーフリング、ドワーフらの密輸業者、故買屋、商人といった道義心の縛めとは無縁な連中と取引して換金するやり口を、グラーラはまざまざとその目で見てきた。ヒューマンどもがあれほど血眼になって自分たちバグベアを未開地で捕らえようと努力しているというのに、やつらの都市に潜伏するバグベアたちが及ぼす脅威たるやその努力を水の泡にしかねないほどであることを知って、グラーラは胸を躍らせた。
 さらにグラーラは用心棒として日々を送る中で、船長とその取り巻き連中が途方もない富を得る一方で、自分たち海兵隊のバグベアが襲撃のたびに受け取るほんの数枚の硬貨で生き延びているという構図を見抜いた。船長をはじめとするホブゴブリンたちは決して接舷攻撃を率いることもなければ、船乗りのトライデントではらわたを引き裂かれたり、クロスボウのボルトで蜂の巣にされたりという危険を冒すこともない。次に彼女が船長に伴われてさるヒューマンの都市で密輸商人との秘密の会合に出向いた機会に、仲間のバグベア衆は、ガレオン船で中枢を占めるホブゴブリンどもを殺害し、船に戻った船長をも待ち伏せして殺した。グラーラは生き残った者たちを率いて上陸し、市街に入ったが、その前に、船長の首にかけられていた賞金をくだんの密輸業者が受け取れるように手配することを忘れなかった。グラーラは賞金の半分を分け前として要求した。それに、ガレオン船から盗み出した金を合わせて、ブラッドゴースト一家を打ち立てたのだ。


現在の状況

 グラーラがこの犯罪組織を立ち上げてからすでに30年近くが経過した。こんにち、彼女はいまだ一家の活動へ積極的に関わっているが、老齢ゆえに身体が弱っているため、実際の指揮は彼女の息子であるラソスが執っている。
 一家は賭博、みかじめ料の取り立て、暗殺、金貸しなど、さまざまな種類の犯罪活動に手を染めている。ブラッドゴースト一家が裏社会で活躍の場所を見いだしたことには暴力と財力の働きもあったが、市街の勢力との取引を望む外部の凶悪な勢力に顔が利いたことも大きかった。邪悪な雇用主を探しているオーク傭兵団や、不浄なる儀式を執り行うために非合法な試薬や安全なねぐらとなる地下迷宮を探しているカルト教団、さらには、略奪の犠牲者から奪った品物や貨幣を、肉体的な快楽や上等な品物に交換したいと考えるならず者(それにはモンスター種族も、人型生物もいる)といった勢力である。結局のところ、オーガの酋長のベッドの下に隠された宝箱に硬貨数百枚が収めてあったとしたところで、その金は実際に使えなければ何の意味もないのだ。
 ブラッドゴースト一家は、うまみのある得意先を売り手と買い手の双方に見つけ出した。一家の手の者が高額品を、それもたいていはエールその他の高級酒を買い付けて、それを人型生物の酋長らに法外なマージンを乗せて売りつけるのだ。街中で彼らと取引をするヒューマンたちはすっかり震え上がっていて適正価格のことを口にするどころではないし、一方、野蛮なオーク、ゴブリン、オーガたちは、ブラッドゴースト一家が要求する法外な価格について疑問を挟むにはあまりにも無知にすぎるのだ。


街中での生活

 ブラッドゴースト一家は、ヒューマンとドワーフの商人、そして文明社会の周縁部でひっそりと暮らす人型生物の野蛮な部族民との間の交易から得られる利益の足しにするために、数々の犯罪計画を立てる。
 高利貸し:ブラッドゴースト一家は、収益を短期間の貸し付け用に投資する。表の顔としては、ムーロとケーガン・ガリィウェルというハーフリングの双子の兄弟を使っている。ムーロとケーガンは、買い物をしたり魔法のアイテムを作成したりするためにもう少々の銀貨を必要としている冒険者たちや、ビジネスの運用資金として2.300枚の金貨を必要としている商人、そして、切羽詰まったり欲望に狂っていたりするせいでまともな思考ができなくなった連中と接触する。双子は短い金髪に青白い肌、碧い目をしている。彼らは双子であることを利用し、確かに交わした約束や契約を双子の片割れがしたことだと言い張って知らぬ存ぜぬを決め込むことがよくあるし、ひどい時には、同じカモから兄弟2人が別々に金を巻き上げることもある。言いくるめや脅迫くらいでは相手が金を出さない場合には、ブラッドゴースト一家が借金の取り立てに乗り出す。
 暗殺:バグベアは殺しの業に長けており、ブラッドゴースト一家は、最高値を提示した者に喜んでその技能を提供する。街の衛兵の注意を惹いてしまうことを避けるために、ブラッドゴースト一家は請け負う仕事を都市の外側に居住する人型生物の部族やカルト教団からの依頼に限り、標的もほんの短期間都市に滞在する冒険者などに限定している。市街で長いこと暮らす住民を標的としないことと、賄賂や威圧を用いることで、一家は自分たちの仕業を、強盗がついやり過ぎてしまったのか、喧嘩や私闘の果てのことか、冒険者稼業には付き物であるその他何らかの危険によるものかなどに、偽装することができるのだ。
 街中での強盗:市中に巣食う局外者として、ブラッドゴースト一家は実際、都市社会の内部の厳しい棲み分けについてひどく敏感である。貧民、落伍者、社会からのはみ出し者たちはやすやすと路上強盗、待ち伏せ、家宅侵入の犠牲者となる。とりわけ冒険者や、その他、探検を生業とする者たちはうってつけのカモとなる。彼らは大量の現金と魔法のアイテムを持ち運んでいるし、地元の警察機構は、重武装で物騒な何をしでかすかわからない旅人たちから発せられる苦情よりも、より差し迫った問題を対処するので忙しいのだ。ブラッドゴースト一家は、探検家たちが出入りする酒場の近くで待ち伏せを仕掛け、相手を殴打して気絶させ、目に付いた貴重品を根こそぎ運び去る。ブラッドゴースト一家は、犠牲者を殺さずにすむよう注意を払う。というのも、彼らは、この一線を越えなければ注意を惹かずにすむということを知っているからだ。実際に彼らが犠牲者を殺害する際には、暗殺という形を取るなど、殺し損なうことで大きな注目を集めることのないように気を遣う。


著名人たち

 この一家は、人を殺したり、金を手に入れたり、権力を求めたりする組織である点から、著名な悪党や犯罪者たちで溢れかえっている。
 ラソス・ブラッドゴースト:このでっぷりと太った、にもかかわらず強面のバグベアは、一家の収益が膨れ上がるにつれ、高級な品物への執着をいや増してきた。常習的な博打狂として、彼は過去の賭博の負債を一家に背負わせてきた。その中には、いずれ暗殺の犠牲者となる者の生命から、ブラッドゴースト一家の隠れ家に捕らえているパラディンを解放するということまでもが、賭け代として含まれている。ただし、彼はいまだに、1つたりともそうした賭けの負債を支払ったことがない。
 ジャルマーグ・ファイアーシーア:このコボルドは、未来を垣間見ることができるという不思議な能力を買われて、一家へ引き抜かれた。数度、彼の予言によって一家は莫大な利益を吸い上げ、望まない厄介事を避けることができた。強力なウィザードである彼は、現在、ラソスを組織のトップから退陣させようとしている。彼はこのバグベアを脆弱で無能だとみなしている。そして、一匹狼の盗賊たち、高級品を安く手に入れたいと思っている人型生物の部族たち、アスモデウスの教団によって提供されたデヴィルたち、さらには街の港湾に潜伏しているサフアグンの氏族といった連中を味方につけようとしている。
 グラーラ・ブラッドゴースト:さまざまな肉体的な疾病を抱えているために寝台から離れられないにもかかわらず、グラーラはいまだに一家の命運を握り続けている存在だ。ラソスが日常業務へ奔走しているとしたら、彼女は集団の長期的な目標を達成するべく指揮を執っているのだ。彼女は、自分の息子は支配を続けるにはあまりにも脇が甘く、その甘さが副官のジャルマーグの陰謀を招いていると見ている。彼女の見立てによれば反乱でラソスが死ななければ、その経験を通して彼は強くなる。彼が死んだとしたら、次いでジャルマーグが指導者となるはずだ。
 トルグ・ロングシャンクス:トルグは、一家で働いている数名のドッペルゲンガーの1人である。埠頭の側の酒場をしばしば訪れるチャチな故買屋として、彼はブラッドゴースト一家のために盗品を商いつつ、カモとなりそうな者を探して耳をそば立てて、冒険者たちを見定める。トルグは任務を依頼しようと彼らに話しかけるが、通常それは、彼らから隠れて下水道に潜んでいる犯罪者たちを見つけ出すという形を取る。実は、その“仕事”は罠なのだ──カモはブラッドゴースト一家によって不意を討たれ、感覚がなくなるまで打ち据えられて、身ぐるみを剥がされることになる。



知性あるアイテム:賢しき剣

文:ローガン・ボナー


 独自の自我を有する魔法のアイテムを、“知性あるアイテム”と呼ぶ。知られざる強力な儀式からか、あるいは運命の糸のもつれからか、アイテムがその内部に生物の魂を封じ込めたり、永年月を経るうちに意志までも備えるようになったりすることがあるのだ。その種のアイテムは世界中に散らばっており、作成者が現在に至るまで手元から放さずにいるか、歴史の流れに埋没し、大胆な(はたまた幸運な)探索者らに見つけ出される時を待ち続けているかする。
 知性あるアイテムをゲームに導入することはNPCを登場させることによく似ており、多くの点で同様の効果をゲームにもたらす(もっとも、アイテムは戦場での剣の持ち手を増やしてはくれないが)。知性あるアイテムにPCたちの手助けをさせるにはどうしたらよいかや、知性あるアイテムを唯一無二の興味深い存在にするためにはどんな個性を持たせればよいかを考える上で、この記事が君の助けとなることだろう。
 PCたちに知性あるアイテムを入手させようと思うのなら、君が独自につくってもいいし、後述のサンプルを利用してもよい。アイテムに知性のひらめきを吹き込むことは非常に困難なことであり、PCがそれを行なうのは高レベルかつDMの許可がおりた場合のみとすべきである。


知性あるアイテムを導入するメリットは?

 ゲームに知性あるアイテムを導入する理由は2つある。1つはNPCがそうであるように、物語の筋を進める役割と、PCたちに情報を提供する役割を持たせるためである。
 もう1つの理由は、相棒を引き連れることを好むプレイヤーを惹きつけるためである。使い魔や動物の相棒を好むプレイヤーなら、知性あるアイテムをも気に入ってくれるに違いないからだ。知性あるアイテムを持たせるのに最も適したプレイヤー・タイプは“物語重視型”だ。もし君のゲーム・グループに該当者がいるのなら、その人がいかにも喜びそうな知性あるアイテムを用意することは一考に値する。

知性あるアイテムの作成

 知性あるアイテムの作成には5つの手順がある:

  • そのアイテムの性格的特徴を決める。
  • 元となる魔法のアイテムを選ぶ。
  • そのアイテムがどの程度の知覚力を有するのかを決める。
  • そのアイテムがどんな交信方法を取るのかを決める。
  • 技能へのボーナスを持たせる(選択項目)。


  • 性格的特徴

     まずはアイテムの性格的特徴を決定しよう。アイテムにどれだけの魅力を持たせられるかはひとえにこれに掛っている。『プレイヤーズ・ハンドブック』(P.23.24)に書かれている性格や癖についての指針や、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』(P.186)で紹介されているNPCの癖や特徴の表は、知性あるアイテムの性格的特徴を肉付けするための良い資料だ。
     性格:『プレイヤーズ・ハンドブック』(訳注:P.23)で提示されている設問は、君がアイテムの性格を定める助けとなるだろう。あるいは代わりに、紋切り型の性格から選んでもいいだろう。知性あるアイテムは母性的かも知れないし、子供っぽいかも知れないし、サディストかも知れない。君のプレイヤーたちの嗜好を思い描き、そのうちの幾人かとウマが合い、他の者とは少々反目し合うくらいの性格を設定するといい。要するに、パーティ・メンバー同士の性格の違いと同じことだ。
     :アイテムに特徴的な喋り方や病的に嫌っているものなんかを設定しよう。決まり文句を繰り返したり、ゴブリンに出くわすとすくみ上がったりするアイテムとくれば、いかにも記憶に残りそうではないか。


    元となる魔法のアイテム

     PCたちにふさわしいレベルの魔法のアイテムを選ぶこと。種類は問わない。アイテムの個性に合っていてうまく機能しそうだと思うものを選んでもいいし、PCが望んでいるアイテムから選んでもいい。PCたちとアイテムが出会うことで、馬が合ったり小気味よい緊張感が生まれたりするものを考えよう。
     知性あるアイテムとなった魔法のアイテムは、同種の魔法のアイテムが持つ通常の特性やパワーをも残らず備えている。


    知覚力

     キャラクターたちと同様、知性あるアイテムも周囲の環境を感知する。ただし、それらは〈知覚〉ボーナスを持ってはいない。一般的にはアイテムが認識するのは使用者の知覚範囲だけだが、君の物語で鍵となる何かをアイテムが感知するということにしてもよい。


    交信方法

     知性あるアイテムが備えている交信方法を好きな数だけ(通常は2〜3種)選ぶこと。
     会話(通常設定):ほとんどの知性あるアイテムは声を出して喋ることができる。1〜3つの言語を持たせること。アイテムが複数の言語を喋れるなら、パーティが解読できないものを翻訳したり会話できないクリーチャーと交渉したりできるように、パーティの誰も持っていない言語を持たせることを考えよう。
     接触テレパシー:このアイテムは使用(着用)している者と精神的な交信を行なうことができる。相手の発する内容を理解するのに両者が同一の言語を話せる必要はない。この交信方法があれば内密に相談することが可能となるが、通常は“会話”も持たせておいた方が無難だろう。


    技能修正

     知性あるアイテムの価値を高めたり、ストーリーへの導入を盛り上げるのに利用したり、アイテムにさらなる背景設定を与えたりするために、特定の技能判定ボーナスを備えさせてもよい。これは完全に選択項目であり、必須ではない。


    興味を惹こう

     知性あるアイテムをうまく活躍させる秘訣の一つは、PCたちの物語に溶け込ませることだ。PCと関連を持たせるための導入案をいくつか紹介しよう。

  • そのアイテムには祖先や師匠など、PCに近しい者の心が宿っている。
  • そのアイテムは特定のPCとたいへんウマが合う。もしそのPCがパーティの他の者といつもそりが合わないような人物であっても、アイテムはそのPCに賛同するし、他の皆がもっとよい方法を知っていても、そのPCの案こそ素晴らしいと考える。アイテムとPCは息のあったセリフを掛け合い、笑いのツボが同じで、引き離されることに耐えられなくなる。
  • PCとそのアイテムは同じ目標を共有している。あるPCがデモゴルゴンの手先への復讐を誓ったなら、知性あるアイテムにも同様の憎しみを持たせるのだ。
  • 機能的な利点をPCに訴えかけるというのもいいし、場合によってはPCの持つ他のアイテムよりも高いレベルのアイテムにしてもよいだろう。これはおそらく最も安直なアプローチ法ではあるが、PCは戦闘においてよい結果をもたらす助けとなるものなら所持しておきたいと考えるだろう。アイテムの性格をPCと対照的なものに設定しておけば、うまいこと“コメディアンの凸凹コンビ”になってくれるかもしれない。
  • 知性あるアイテムの運用

     プレイヤーたちが知性あるアイテムと“出会った”なら、パーティの新しい一員としてアイテムを迎えることだろう。


    PCたちの補佐役として

     知性あるアイテムがゲームにもたらす影響はそのアイテムの性格設定次第と言える。アイテムにはさまざまな目的意識があるが、君がそのアイテムにどんな振る舞いをとらせたいかや、ゲーム進行にどんな形で役立てたいのかを天秤にかけて、うまく中庸を見いだすとよい。
     ある知性あるアイテムはプレイヤーたちよりも長く“生きて” いるかもしれない。何世紀にも渡って宝物庫の中に鎮座していることもあるだろう。そうしたアイテムはPCたちよりも多くの知識を蓄えているに違いない。

     助言を与える:プレイヤーたちに情報を与えたり、詳しい内容を思い出させたりするのにアイテムを利用することができる。もしプレイヤーたちが出会ったNPCの名前をはっきり思い出せなければ、アイテムはこう言うかもしれない──「王様の近衛兵殿が捜していた殿方ですよね? バーロンではなかったかしら?」。ファイターが燃えあがる斧を引き抜いた時には、彼が身につけた知性あるアミュレットがこんな言葉を放つかもしれない──「おまえ頭イカレてんのか? ありゃレッド・ドラゴンだぜ! とっととそのクソッたれな炎を消しやがれ!」。


    知性あるアイテムの態度

     知性あるアイテムはPCたちに協力するべきだが、これはすべてのアイテムが友好的な態度で接してくるという意味ではない。尻尾を振る犬のようにいつでも快く主人の役に立とうとするアイテムもあるかもしれないが、自分が赴かねばならない場所へ旅するためにはPCの行動が役に立つから、という理由で、しぶしぶ手助けをしているだけのアイテムもあるだろう。


    知性あるアイテムの例

     本項での各アイテムの紹介はアイテムの来歴にはじまり、君のゲームに登場させる導入案も示される。残りの部分には、もとになった魔法のアイテムの提示や、そのアイテムの性格的特徴の簡潔な紹介など、プレイヤーに与えるための適切な情報が詰まっている。これらの魔法のアイテムの解説には、知性あるアイテムの特殊性を表現できるようかなり具体的で突っ込んだ内容になっている。いくつかのアイテムでは、元となったアイテムの通常の状態よりも最小レベルが高く設定されていたり、そのアイテムになるためのアイテム種別が限定されていたりする。


    “超越せしもの”カーラックドゥア

     かつてサイオニックの達人としてその名を知られたカーラックドゥアという男が諸国を旅して回り、精神戦闘による決闘を、往々にして戦いを望まない者を相手に繰り返していた。彼の虚勢と横柄さは広く知れわたった。やがて、彼はシャンカーラムという名の強力なマインド・フレイヤーの支配下にある街を見つけ、その怪物に果敢に挑みかかった。彼らの精神戦闘はあっさりと形がつき、カーラックドゥアの完全敗北に終わった。カーラックドゥアの脳みそを何気なく喰らった後、マインド・フレイヤーはその男の精神を銀の額冠に閉じ込め、自分の戦利品部屋に置いて陳列した。
     それははるかな昔のことであり、この間、額冠は幾度も盗まれたり紛失したり売買されたりを繰り返してきたのである。


    “翠玉の目”マリューラ

     古代の地下霊廟に棲まうメドゥサの女王、マリューラは永遠の生命の秘密を記した古代の書物群を発見した。彼女は己のためにこの恩恵を確保したが、自分が思っていた以上のものを得た。ラークシャサのライバルがマリューラの姿を模した弓を作成し、彼女の緑色の目を上質なエメラルドで擬した。彼は彼女の夫、ゴルモーグラジを殺害し、矢にその血を塗りたくった。この矢はマリューラの肉体を殺し、その魂を弓に閉じ込めた。彼女は冷酷極まりないラークシャサ種族に憤りに彼らに復讐を誓った。
     マリューラはロングボウに設定されているが、君の裁量でどんなボウ類やクロスボウ類に変更してもかまわない。


    知性あるアイテムを退場させる

     知性あるアイテムを登場させたものの、後になって処理に悩むことがあるかもしれない。魅力的なつもりで設定した性格がてんで興味を惹けなかった場合や、そのアイテムに関連するイベントをすべてやり遂げて、アイテムへの興味が失われてしまった場合などがその好例である。
     君が知性あるアイテムをゲームから退場させたいなら、以下の手法を参考にするといい。アイテムを退場させるのは、PCたちがアイテムに興味を失ったか、はっきりと邪魔物扱いし始めた時だけにしよう。もしプレイヤーたちがまだアイテムに愛着を持ってくれているのなら、君の物語の中でもう役割を終えたから、という理由だけで取り除かないこと! 単にアイテムの機能的な強さが物足りなくなったと言うだけなら、君はアイテムをアップグレードしたり、違うアイテムに移し替えたりすることができる(『魔力抽出』の項を参照)。

  • ある悪役がそのアイテムまたはアイテムの中の知性を破壊する。これは同時に、その悪役を忘れがたい存在にする演出にもなる。
  • アイテムは重要な目的を成し遂げ、(それがかつて生きていたならば)余生を過ごしたいと考えたり、自らが消え去ることを望んだりするようになる。
  • 知性を維持してきた魔法のエネルギーがそれ以上アイテムに留まっていられなくなり、その知性は霧散してしまう。
  • PCたちは、知性あるアイテムが犠牲にならない限り突破できない罠や危険に取り囲まれる。
  • アイテムは定命の世界の出来事に疲れ果て、交信をやめてしまう。アイテムから魔力を抽出することはやはりできないが、売却することは可能になる。




















  • さあ戦え! 剣闘士たちよ

    文:ロバート・J・シュワルブ


     日陰の通路から選手入場口をくぐり、痛烈なまでの日差しと、耳をつんざく大歓声が待ち受ける場所へとローレンは一歩踏み出した。満座の観衆が血を求めて大口をゆがめ、彼の名前を連呼している。今日のところはローレンの評判は上々のようだ。しかし、見物客とは神々のごとくに移り気なものだ。ほんのわずかなつまずきで、声援が罵声に変わることもある。期待を裏切った闘士に、観客は何ら容赦をしない。だが、これまでのところ、下手を打つこともなくやってこられた。そうとも、ここが俺の住み家なんだ──ローレンは声援に応えて荒々しくスピアを掲げ、歓声をなおも盛大に、盛大にとあおり立てた。
     いよいよだ。かかって来るがいい。ローレンの眼前でゲートがきしり、赤い砂をこぼれ落としつつ観客席の高さへとせり上がっていく。あんぐり開いた暗闇から聞こえてくるのは、あえぎ、うなり、よだれを啜り上げる何物かの声。その刹那──ぎょろついた左右の目と、歯列ばかりがほの見えた。観衆がいっせいに息を呑む。しかし、ローレンはにやりと口元をゆるめただけだった。万物に死は訪れる。モンスターとて同じこと。化け物めがけてスピアを放り投げ、背中の鞘から剣を引き抜くと、黒い刀身が容赦ない陽射しにぎらつくにまかせた。血狂いのごとくにうすら笑みを浮かべつつ、ローレンは敵に飛びかかった。運命の導きに従い、化け物を地獄へ送り返さんものと……。


     群衆があげる歓声と、ツンと鼻をつく汗と血と恐怖のにおい、そして断末魔の叫びが、D&D世界の闘技場にはついて回る。そこへ足を踏み入れるだけの勇気の持ち主は富と名声をつかむことも、むごたらしい敗北を喫することもある。死は、飢えた眼光をじっとその場所に据え、赤い砂にまみれた次の敗者を暗黒の女王の食膳に供するべき時を待っている。剣闘士たちは何度でも死地へと飛び込み、商売敵や、ほとばしる血潮に渇いた獰猛な野獣を相手に全力で戦う。そうした闘いは伝説の宝庫であり、剛胆な冒険者や金目当てで戦う者たちにふさわしいものだ。この記事は剣闘士たちの戦いを舞台裏から描き出すものであり、君がプレイヤー・キャラクターを闘技場に送り込み、勝利の美酒を得ようとする際に必要なすべてを網羅している。


    闘技場での戦い

     闘技場での戦いも戦闘であることに変わりはない。1人ないし複数のキャラクターが、単独ないし複数名の敵に立ち向かうわけである。敵味方双方がイニシアチブをロールし、行動順に沿って戦術の妙やパワーの派手な効果を披露しあい、敵を打ち負かそうとするわけだ。ただし、重要な相違点も存在する。闘技場での遭遇は管理された戦いである。会場の境界の外まで戦いが拡大することは(通常)あり得ない。剣闘士役のキャラクターの大半が1日に1試合にしか出場しないことから、闘技場での戦闘は通常の戦闘遭遇と比べてより多くのリソースを消費するものになりえるし、実際そうである。さらに、戦闘を見守る観衆が存在し、対戦相手は実に多様多彩で、名声や黄金、インチキ宝石といった報酬が用意されていることもあって、剣闘士たちの戦いはたんなる善悪の対決にとどまらない勝負たりえるわけである。それは言うなれば、流血と誇りの競い合いなのだ。


    闘技場での遭遇

     剣闘試合は単一の遭遇の枠内に収まることも、物語の大団円に向かっての大きな一歩となることもある。戦いから連鎖的に出来事が紡ぎ出され、より大規模な冒険へとつながることだってあるだろう。奇怪なダンジョンを構成する遭遇の1つとして闘技場が設けられていることも、最終決戦として英雄たちと悪役が対決する舞台となることもあるだろう。いずれにしても、闘技場での戦闘はアドベンチャーにおけるその他の戦闘とは一線を画したものであり、DMの運用が的を射たものであれば、プレイヤーたちにとって忘れがたい経験となることだろう。
     闘技場での遭遇は3つに大別することができるが、君が独自に考えだした設定を取り入れるのもよいだろう。以下に列挙する遭遇テンプレートは闘技場での戦いを手っ取り早く設定することに役立つものであり、君の必要に応じて適当なものを選ぶとよい。


    個人戦

     個人戦は一対一の戦いである。闘鶏場なみのちっぽけな闘技穴から大円形闘技場(コロッセウム)まで、大小さまざまな会場で開催され、とりどりの危険物や罠が敵味方の身を等しく危険にさらす。会場が広ければ広いほど、見物客の感興をそそることがいっそう重要になってくる。そのため大会場での個人戦では、有名な剣闘士、背筋も凍る凶悪なモンスター、あっと驚くからくりといった要素の一つ、ないし複数が用意されるのが常である。
     一対一の戦いであることから、参加できるPCは1人に限られる。よほど辛抱強いプレイヤーが揃っているのならともかく、個人戦が終わるまで、他の面々にはやることもなく、ひたすら手持ちぶさたなだけとなる。この記事の後半に、個人戦の参加者以外を楽しませるための提案がいくつか記してあるわけだが、キャラクターたちに取り組ませる技能チャレンジはどんなものでも差し支えないだろう。観衆の注意が個人戦に釘付けになっている間に、他のPCたちが危険な敵を葬り去るのでも、敵の陰謀をくじくのでも、情報を集めるのでも、権勢を誇る貴族と交渉するのでもいい。あるいは、自分たちもまたどこか近くで命を賭けて戦うというのでもよいだろう。


    団体戦

     団体戦では双方の剣闘士たちが互いにチームを組んで戦うことになる。これは、PCたちが連携する戦術を取ることができることから、冒険者パーティにふさわしい競技であり、遭遇をはるかに面白くすることにもつながる。遭遇の作成に取りかかる前に、より大きな冒険の中でそれをどう位置づけるのかを考慮しなければならない。ゲーム内のその1日でキャラクターたちに立ちはだかるのがその遭遇1つだけなら、“困難な遭遇”にすればよい。それとも、他にいくつもある遭遇の1つであるに過ぎないのなら、“標準的な遭遇”や、場合によっては“簡単な遭遇”にしても構わないだろう。
     会場は固定環境であるのが常で、単一の施設の範囲内にとどめられ、どの戦いでも同じ地形や罠が用いられる。魔法の闘技場であれば、戦いや敵の種類に応じて地形を変えることも可能だが、それは伝説級か神話級に限るべきだ。


    バトルロイヤル

     バトルロイヤルは団体戦の派生型である。この競技では、PC各人が大勢の選手の一員となり、互いに敵として戦い合う。強敵を倒すために選手たちが一時的に手を結ぶこともあるだろうが、結局は全員が敵同士なのである。PC全員が同じ闘技場に出場することから、パーティが敵同士となって戦うことになる。ただし、敵のヒット・ポイントを0以下にした際に相手を殺さずに気絶させることもできることから、プレイヤーたちは手塩にかけたキャラクターを失う恐れなしにこの競技に参加することができる。


    観衆

     剣闘士が直面する危険はリングの内部だけでなく、その外側にも存在する。血を求める観衆たちの興奮が抑えきれないまでに高まったなら、彼らは野獣と変わらないまでに荒々しくなる。観衆の怒りに火がついたなら、彼らはゴミを投げつけたり、剣闘士に罵声を浴びせたり、不注意な選手をリングから観客席に引きずり上げて八つ裂きにしたりさえする。
     観衆の心をつかむこともまた、剣闘士にとっては戦いの巧拙にも劣らず重要なことだ。観衆が味方してくれることは、不利な状況で大いに助けとなるからである。闘技場での試合を生業とする剣闘士にとっては、名の売れた人気者になれるか否かが死活問題である。人気者になればファイトマネーの額も上がり、よい装備も使えるようになり、怪我をしたときによりよい治療が受けられるようにもなるからである。


    対戦相手

     剣闘試合には、猛獣、アンデッド、奇怪な異形クリーチャー、凶悪なデーモンなど、どんなクリーチャーでも君の望むとおりに出場させられる。遭遇を組み立てるに当たっては、使用する闘技場の環境からみてどんな敵がふさわしいかを考えることにしよう。興行主たるもの、特別な安全対策をなすこともせずにリングにビホルダーを飛び込ませて観衆を危険にさらすようなことはしないだろうから。
     ただし、たいていの試合には敵の剣闘士が出場する。クラス・テンプレートを適用したNPCに名前を付けるのでもいいだろうし、君が一から作成するのでもよいだろう。以下に挙げる剣闘士たちは、あらゆるレベルのPCへの対戦相手としてもふさわしいものである。大半がヒューマンの剣闘士であるが、多少の手を加えるだけで、他のいかなる種族にでも変更することができる。



    我ら死地に踏み入る者たち……
    D&Dの剣闘士

    文:ロバート・J・シュワルブ


     『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のゲームで最も緊迫し、手に汗握るのは戦闘場面だ。どのキャラクターにも敵を効率よく抹殺するための幅広い選択肢が用意されている。ライトニング・ボルトで敵を吹き飛ばすのであれ、ジャイアンツ・ウェイクで薙ぎ払うのであれ、あらゆるPCが華々しい見せ場をもって、戦闘に大きく貢献することができる。
     D&D世界で、戦うべき敵が見つからずに困るということはまずない。ダンジョンであれ昼なお暗い森であれ、忌まわしい棲息者には事欠かない。そうした敵に戦いを挑むことがまさしくゲームの目的であるわけだが、とはいえ君のキャラクターの全能力を余さず使い切るほどの機会がそうそうあるわけでもない。
     まずい時に八方塞がりにならないように、リソースの無駄遣いは厳に慎まねばならない。リソース管理は、D&Dを挑戦しがいのある面白いゲームにしている要素の一つだ。とは言いながら、出し惜しみなく一度の戦いで全力をふりしぼる快感というのも確かにある。リソースを出し惜しみせずに済む機会というなら、まさしくそれにうってつけなのが剣闘試合だ。
     この記事の目的は、剣闘士を取り巻く世界を、D&Dシステムのレンズを通じて描きだすことにある。現実世界に由来する要素も一部にはあるが、そうしたすべてが、ハイ・ファンタジーにふさわしい世界設定とシステム上の必要に見合うように調整されている。キャラクターの背景設定、新しい特技、新しい伝説の道、新しいマルチクラス・オプション、追加の装備といったここで挙げるあらゆる要素が、君たちのゲーム卓に闘技場を取り入れ、キャラクターたちをそこへ歩ませることに役立つだろう。


    剣闘士の背景設定

     華やかな都会の大円形闘技場(コロッセウム)からうら寂れた集落の狭苦しい死闘のリングにいたるまで、闘技場は戦士たちが勇気を試し、技を磨くための絶好の場所だ。闘技場といっても多種多様で、生き残る望みのほとんどない絶望的な状況に犠牲者を投げ込むがごとき血も涙もない修羅場もある。その一方で、流血よりも身体能力や名誉を重んじるフェアプレイの精神が根付いている施設もある。どちらの場合でも、闘技場には多種多様な闘士たちが引き寄せられてきて、観衆を喜ばせ、怖がらせるために戦うわけである。本項では君の剣闘士キャラクターを肉付けし、立体化するためのさまざまな背景設定や戦う動機を紹介する。


    借金苦

     「一文無しから金貨は巻き上げられないとよく言うけれど、ちょっとばかり血を絞ることならできる。だってそうだろ、俺のこのザマを見てくれよ
     借金とは見苦しいものである。誰かに何かの借りを作ることは巡りめぐって己をさいなむ。たとえそれが恥じるところのない借金だったとしてもだ。借金を背負った剣闘士は債務を返済するためや、道義的な償いのため、もしくは取り立て屋の追及をかわすために戦い続ける。それ以外にも、悪評をぬぐい去るために戦う者や、愛する誰かを囚われの境遇から救い出すために金を貯めようとする者たちもいる。人が借金を背負う理由はさまざまであり、そうして剣闘士になった面々の中には無鉄砲な者も、それ以外に生きる術がない者も、用心深い者もいる。ただし、借金が永遠に続くことはない。ふたたび愚かな取引に手を出したり、使いでのある剣闘士を失いたくない不誠実な輩から借金をしたりといった事情でもない限りは。


    奴隷

     「俺は自由になるために戦う。俺たちを縛る鎖が千切れるまで、戦いを止めるつもりはない
     闘技場での絶望的な戦いに奴隷たちを投げ込んで気晴らしにするという習慣は、堕落し、退廃した社会に限って見られるものだ。ただし、オーク、ゴブリン、トログロダイトといった野蛮な種族の間では、そのような見世物は定番の出し物だ。奴隷剣闘士とはいえ、うまくすれば主人に世評と大金をもたらすこともある。そうして主人の地位が上がるにつれて、奴隷の地位も上がっていくのだ。奴隷剣闘士の大半は嫌々戦う者たちだが、ごく稀には戦いに喜びを見いだし、勝利の報酬に歓喜する者さえいる。身の毛のよだつこの仕事を喜んでやる者たちは自由身分を獲得できたなら、職業剣闘士となる可能性が高い。それ以外の大半にとって、一試合一試合が死の舞踏である。彼らは剣闘の技術を磨く傍らで、同じくらいの時間をかけて脱走する方法を考えている。脱走できなかった者はいずれ血まみれの死を迎える定めにあるが、首尾よく逃げられた者は自由の身となることも、復讐を果たすことも、その両方をかなえることもある。


    復讐心の塊

     「今日という日は流血の定め。我は誓おう、血を流すのは貴様なり!
     ごく稀ではあるが、不正義を正すために闘技場で戦う者たちがいる。かように特異な存在である彼らにとって、自分をないがしろにした相手への仕返しが、闘技場で打ち負かして土にまみれさせるだけでは済まないこともよくある。そうした剣闘士にとって、闘技場で戦うことは目的を達成するための手段に過ぎない。恨む相手は他の剣闘士であることも、闘技場の興行主であることも、剣闘士団をかかえる者であることも、競技の熱狂的なファンであることもある。復讐心に突き動かされた剣闘士の中には、血みどろの戦いによって口論に決着をつける者もいる。敵の私財や感情をまず痛めつけ、次いで相手の代理戦士を一人ずつ始末した上で、満を持して相手と対決するという者だっている。かほどに几帳面な者が敵本人と対面する時には、相手にはもう自分の身体以外には何一つ残されていないのが常だ。


    アリーナ・チャンピオン
    Arena Champion/闘技王

    百戦百勝、それが俺の戦歴だ。満場の歓声の波にうぬは呑まれる。渇いた砂にうぬが血は啜られる。せいぜい神に祈っておけ。うぬの神のもとへと今すぐ送り込んでやるからの


     戦いの炉で溶かされ、歓声によって鍛錬され、数え切れぬ敵の血で焼きを入れられる──それがアリーナ・チャンピオンの生き様だ。観客の好みに従い、ありったけの暴力技を繰り出して彼らを楽しませるのが君の責務だ。凶猛な野獣や、未開の辺境の蛮人といった相手とも、君は数限りない戦いを繰り返してきた。どんな敵でも同じこと。その1体1体を技量を尽くして血祭りに上げ、ショウを盛り上げることが君の仕事だ。君は並びなき剣闘士。そう崇めてくれる人々の胸の中に永遠に名をとどめることが、他でもない君の目標だ。











    ダンピール・キャラクターの導入

    文:ブライアン・R・ジェームズ


     トゥルフの修道院は数十年前、大火によって廃虚と化した。黒焦げた梁材と煤けた灰ばかりの焼け跡に残ったのは、土中に埋もれて忘れ去られた秘密の地下墓所だけだった。しかし“夜明けの聖約派”の面々は、修道院跡の地中に迷宮のごとくに延びる通廊で深手を負い、あるいは途方に暮れながらも、“曙光”への信仰を強く保ち続けていた。
     戦闘司祭たちはその顔に不退転の決意を刻んで密集方陣を布くと、忌まわしき爪や毒刃を盾ではね返しながら、ヴァンパイア・スポーンの群れを押し退けて突破を試みた。最初に倒れたのは敬虔なる乙女、ダイアンであった。レオン師もまた斬り倒された。彼を象徴するモーニングスターが石床に落ちて大音響をたて、コーリー老師の遺体のそばもとまで転げてようやく静止した。
     残った二人の聖職者は取り乱すそぶりも見せず、メイスを高々と掲げ、流れるような祈祷の言葉を口に上らせながら戦い続けた。あたかもそれが信仰心の強さを試される厳しい試練であったかのように、修道士バーンズと修道女フィレニアが飛び込んだじめじめした岩室には、陽光がきらめいていた──井戸の奥底に広がる忘れ去られた貯水池の水面に、太陽光が射し込んでいたのだ。
     追い迫るヴァンパイアを寄せ付けぬ聖域に喜んだのもつかの間、若き聖職者たちは何者かの存在に勘付いて息をのんだ。ため池の端に悠然とたたずむ若い女が、翠色の鋭い目で二人を凝視していたのだ。修道女フィレニアは魅了されてしまい、その女の双子の姉妹が岩室に入ってきたことを視界に捕らえることができなかった。新たな女の鋸歯状の短剣が深々と突き刺さってくるのを肌で感じるよりも早く、若き修道女はこときれていた。
     残された最後の聖職者は、口から痛嘆の叫びを漏らすことしかできなかった。修道士バーンズは確定的な死が目の前に迫っていることを悟りながらも、すぐさま落ち着きを取り戻した。深呼吸して息を整え、礼式に則ってメイスを掲げると、迫り来るダンピール姉妹へ、バーンズは敢然と立ち向かった。

    ──記録者未詳


    ダンピール

     生者と死者の世界のはざまに存在するダンピールは猛烈な吸血衝動を抱える、謎に包まれたクリーチャーである。
     ヴァンパイアの能力の一端を備えながらも固有の弱点とは無縁でいられる希少な異種交配種であるダンピールは、ヴァンパイアの男性と定命の女性の間に生まれるのだと考えられている。実際には、そうした半血児は一般に考えられているよりずっと多く存在している。ダンピールは、もちろん想像通りのありふれた行為からも生まれるわけだが、ヴァンパイアが妊娠中の女性を噛むことによっても生まれることがある。そのようにして注入された不滅性が長年にわたって火種のままで血管を巡り続け、運命が火花を飛ばすことで初めて炎と燃え上がることもままあるのだ。
     君が以下のどれかに当てはまるなら、ダンピールをプレイするとよい。

  • 一般的な種族に属していながら、こみ入った秘密を抱えるキャラクターをやってみたい。
  • ヴァンパイアそのままのような英雄をプレイしたい。
  • ヴァンパイアさながらの超自然的な能力に手が届くようになりたい。


  • 身体的特徴

     元となった種族が何であれ、ダンピールは青白い皮膚としなやかな体つき、尋常ならざる魅力、そしてわずかに先端の尖った耳といった特徴から、フェイの一種だと間違われることがままある。だが、近くに寄ってよく観察すれば、ヴァンパイアから受け継いだかすかな特徴が見て取れる。ダンピールは発達した犬歯を備えており、ストレスに耐えている時や、血を味わう時、あるいは別種の興奮を覚えている時には、その犬歯が伸びてくる。だが、中でもダンピールの遺伝的性質をよく表しているのはその目──淡い色の虹彩に赤い斑点が点在し、その中心に射貫くような黒い瞳孔がある──である。
     そうした顕著な特徴がありながら、ダンピールには育てられた土地の文化を受け入れている者が多い。ダンピール個々人の服装や作法はその文化によって、あるいはその文化への反抗心によって培われる。たとえば、ドワーフのダンピールは見た目も行動もほとんど普通のドワーフと変わらない。
     不死者から受け継いだ血により、ダンピールの平均寿命は非常に長い。偶発的な死がなければ、ダンピールは老化による深刻な影響を受けることなく、常人より100年は長く生きることが期待できる。
     男性のヴァンパイアを父に持つダンピールもいることはいるが、その数は大変少ない。他の大多数はダンピールを片親に、あるいは両親に持つ子供である。ヴァンパイアの血による超自然的な力は強く、優に数世代先にまで影響するためだ。ダンピールはまた、ダンピールではない通常の子を生む場合もある。ダンピールの能力が発現する年齢は、人によってまちまちである。


    ダンピールをプレイする

     ダンピールのイメージは、謎に包まれた影のある放浪者──平穏に過ごせる居場所をほとんど持ちあわせぬ、孤独なアンチヒーローである。ダンピールは定命なる者だ。彼らは太陽光や[光輝]ダメージに対する特別な脆弱性を一切持たない。このことから、純血のヴァンパイアたちは時にダンピールを“陽下を歩む者”と呼ぶ。
     ダンピールとして生を享けたことは、他の子供と比べてより困難な道とも容易な道ともなりうる。端的に言えば、困難の度合いは周囲の者がダンピールの血筋をどのようにとらえているかによって決まる。ダンピールを受け入れている(あるいはまったく気づいていない)人々の中で育てられる場合は、普通と変わらぬ幼少期を過ごすことができる。そうでない場合は、ひどい偏見にさらされるかもしれないし、あるいは逆に、その優れた資質を見込まれて育てられるかもしれない。中にはヴァンパイアの手で育てられるダンピールもいるが、ヴァンパイアはダンピールのことを特殊な存在ではあるが劣等種だとみなしている。
     大方の予想通り、自分の真の血筋を認識しているダンピールたちは時に死や影、アンデッドといったものに病的な執着を募らせる。その執着は他の定命の存在からは奇異に映る習癖……たとえば、血を飲むことや、不気味なファッション・センスや、ブラック・ユーモアや、強烈な血への飢えや、その他数々の陰鬱な振る舞いにつながる。ダンピールの悪漢にいたっては、さらに並はずれて不穏な習癖を持つこともある。
     ダンピールの中には、ヴァンパイアの代名詞のごとき攻撃である“ブラッド・ドレイン”に対し、超自然的な抵抗力を備えている者もいる。ヴァンパイアの血の賜物とされるそうした能力により、ダンピールは優れたヴァンアパイア・スレイヤーたりうると考えられている。だが、そうした復讐に燃える英雄たちは多くの場合、狩りの対象をヴァンパイアのみに限定しない。彼らは数種のアンデッドや、デーモンやその他の地獄の存在を追跡し、殺害する術にも同じくらい熟達している。
     ダンピールの特徴:魅力的、警戒心が強い、几帳面、鋭敏、神経質、辛抱強い、無口、陰気、執念深い、用心深い。
     ダンピールの名前:ダンピールの名前は彼らが生まれ育つ環境に則して名付けられる。顕著な例外はヴァンパイアによって育てられる数少ないダンピールの子供たちである──『ヴァンパイアの血族』のコラムを参照。


    ダンピールの冒険者

     ダンピールの冒険者の例を3人ほど以下に示す。
     ルチアはヒューマン・ダンピールのレンジャーだ。ヴァンパイアの血族の中で育てられる“陽下を歩む者”のご多分にもれず、ルチアもまたヴァンパイアとヒューマンの意図的な生殖活動の結晶である。彼女は幼き日よりわき目もふらず鍛錬に励み、比類なき追跡者にして恐るべき殺戮者としての腕を研鑽していった。17歳になったルチアは鍛錬を完遂すると、息苦しいアンデッドの社会から外の世界へと逃げ出した。血族の追っ手につけ狙われる中、ルチアは身を守るために他の冒険者たちと手を組むことにした。彼女は自分の腕を、彼女の新しい“血族”を守るために振るう。
     ユフルムはハーフオークのバーバリアンであり、つい最近シャドウフェルへ遠征した後に、眠っていたヴァンパイアの血に覚醒した。彼は人知れず、その穢れた血によって自分の力と残忍性を高めることだけに専念した。力が増していくうちに、彼はアンデッドとしての自己の特質を敵勢の意表を突くことに利用しようと考えはじめた(とは言いながら、当面は仲間たちをびっくりさせることに専念するのだろうが)。ユフルムはアンデッドに対してなんら特別な感情も社会的なつながりも持ち合わせておらず、自らに流れる闇の血統を天の恵みだとみなしている。
     ネッダは心中にたぎる復讐心を抱えた、ハーフリング・ダンピールのローグである。彼女の属するハーフリング氏族は彼女を受け入れてくれたが、ネッダは自分を生み出すことになったヴァンパイアから母を守ろうとして、ハーフリングの父と数名の者たちが命を落としたことを忘れて生きることは断じてできなかった。ネッダはヴァンパイアどもの根絶にその生涯のすべてを捧げている。自らのヴァンパイアの父祖が広大な吸血一族の一人であったことを探りだしてからというもの、このハーフリング・ダンピールはその血族のすべての者を探し出し、根絶やしにしてやろうと心に決めている。彼女は退治師の同志を集めて一団を形成しており、一団は街から街へと彷徨いながら、件のアンデッドを狩り出そうとしている。