コラム

白羽山(ホワイトプルームマウンテン)へのお誘い

更新日: 2019.03.15

白羽山ふたたび:小説とアドベンチャー

 2019年春、D&D小説『ホワイトプルームマウンテン』は電子書籍で復刊されます。
 舞台はD&Dの複数の背景世界のひとつグレイホーク。荒野にただ一つそびえ、まるで鳥の羽のように白煙をあげる火山、白羽山。
 この山のダンジョンに挑む冒険者たちの運命やいかに。個性的なパーティが人気を博した一作であり読んだ友人の75%は「あのえりまき欲しい」と言い出しました。

 さてこの小説には原型となったアドベンチャー(D&D用語。他のRPGで言うところのシナリオ)があります。もとは1979年(イラン革命とか初代『機動戦士ガンダム』本放送とか近鉄バファローズ初優勝とかの年です)にAD&D第1版用アドベンチャーとして出版され、何度もリメイクされた人気アドベンチャーです(AD&D第2版時代の『Return to the White Plume Mountain』とか)。

 今回、D&Dの過去の傑作アドベンチャー7本を第5版対応化して再録したオトクなアドベンチャー集『大口亭綺譚』に収録されました。アドベンチャー邦題は『白羽山の迷宮』です。

※D&D小説『ホワイトプルームマウンテン』電子書籍版については右書影のリンク先でご覧いただけます

あわせてさらに面白く

 さてわたくしが何を申し上げたいかはおわかりのことと思います。小説『ホワイトプルームマウンテン』とアドベンチャー『白羽山の迷宮』はあわせて読む/あわせて遊ぶことでいっそう面白くなるのです。
 具体的な方法は複数あります。

最低労力コース:小説を読むだけの人用

 『ホワイトプルームマウンテン/白羽山の迷宮』は一つ一つの部屋のしかけや景色がおもしろい小説/アドベンチャーです。それは文章からもわかりますが絵がついてるとさらによいです。
 なので小説を読む人はWotC社の旧版『White Plume Mountain』ギャラリーをながめながら読みましょう。パーソナルコンピューターを使っている場合同時表示とかも有益です。
 あなたのふところにおカネがうなっている場合、これらの絵の多くは『大口亭綺譚』においてさらに美しくフルカラーで描き直されているので、『大口亭綺譚』を買いましょう。

最高におもしろいコース:プレイヤー用

 しかしてあなたがD&D第5版のプレイヤーである場合、最高におもしろいコースはもちろん

・大口亭所収の『白羽山の迷宮』をプレイした「後」に
・大口亭収録版のさしえや周辺地図や旧版のさしえを見ながら

 読むことです。小説の主人公たちの活躍に「あっこいつらうまくやりやがったな」とかが楽しめます。DMに「わたしはこの小説が読みたいのでその前にこのアドベンチャーを今のキャンペーンに組みこみなさい」と言うとよいでしょう。「ふざくんな」と言われた場合あなたがDMをやるのも有益です。

最高におもしろいコース:DM用

 あなたがD&D第5版のDMをやっている/やることになった場合、事前にアドベンチャーとあわせて小説を読んでおくことはきわめて有益です。なぜならそこにはいくつかの部屋の「課題に対するひとつの解決方法」と、アドベンチャー全体の「ひとつのアレンジ方法」が示されているからです。
 小説の内容を活かしつつ『白羽山の迷宮』をマスタリングするための注意点を、以下にいくつか挙げます。
 なお以下は少量の「ねたばれ」を含むのでプレイヤー予定の方はご注意ください。

これ何人向きなのか:

 PCの人数は明記されてませんが、『大口亭綺譚』のその他のアドベンチャーと同様、4~5人と思っておけばまちがいないでしょう。

バランスどのていどきついのか:

 『大口亭綺譚』所収のアドベンチャーのうちAD&D第1版由来のものはほとんどの罠のダメージがAD&D第1版時代のまま、いっぽうAD&D第1版からD&D第5版への移行によってPCのhpはあがっているため、相当マイルドになっています(あえて旧版のバランスを再現したい方は罠のダメージを増やしてもいいでしょう;推奨しませんが)。
 これを言いかえれば「罠で殺すのではなくモンスターで殺す」度合が高まっているということです。予定プレイヤー数が4人の場合、いくつかの遭遇については「モンスターをこわそうに演出してPCには逃げる選択肢があることを暗示する」、「モンスターの立てる音を部屋の外へ響かせて入念な戦闘準備をうながす」等の親切なマスタリングを心がけるのもよいでしょう。
 (一般論として、D&D第5版でモンスターの脅威度がPCのレベルを上回ると遭遇はだいぶ難しくなります。8レベルのキャラクターにとって脅威度9以上のモンスターは危険です。これに該当するのはエリア24とかラストとかです)

このアドベンチャーの魅力と課題:

 『白羽山の迷宮』は全体としてすごく遊園地っぽい宝探しアドベンチャーです。クイズアトラクションもスプラッシュマウンテンもあり、ともかく個々の部屋のしかけがおもしろいです。あるひとは言いました「ヒドい(褒め言葉)シナリオです」、「詳しい説明がなく言うだけ言って放置みたいな設定が多いノスタルジー感。タマラン」
 結果として、DM判断に任される部分はかなりあります(たとえばエリア26のガラス全部割るとどうなるかとか)。極論すれば、その時の状況で一番おもしろそうな感じにしちゃっていいと思います。もっとすごく極論すれば「PCがほどよくこまるようにする」のがいいんじゃないでしょうか。PCの飛行能力とか水中呼吸能力とかを確認したうえで。
 このアドベンチャーに(そして他のアドベンチャーにも)「飛行能力/水中呼吸能力によって容易に回避可能な罠」が存在するのは事実であり、どう対処するかは個々のDMの判断すべきことです。「リソース消費なしで空飛ぶアーラコクラと(『ソード・コースト冒険者ガイド』所収の翼のある)ティーフリングはおれの処理能力を超えるのであの選択ルールは断じて許可しねえ」というDMがいてもいいでしょう。「そこに賭けたプレイヤーは報われてしかるべきだ」というDMがいてもいいでしょう。
 また、このアドベンチャーに(そして他のアドベンチャーにも)「遠くから弓射ってるだけで終っちゃう部屋」が存在するのも事実であり、どう対処するかは個々のDMの判断すべきことです。これについていうと「遠隔攻撃能力にすべてを賭けたプレイヤーは報われてしかるべきだ」というのは否定できませんので、「一部の部屋でそれが通じないようにするのはいいが、すべての部屋でそれが通じないようにするのはよくない」と言えると思います。
 このあたりの調整が「DMにとっても楽しい挑戦となる」ところが古いアドベンチャー特有の魅力ではないでしょうか。

小説版読者にどう対応するか:

 一般論として、もしあなたの知り合いに「D&D小説は読んでるがD&D第5版はプレイしてない」人がいるなら、その人をD&Dに誘うのはたいそうすばらしいことです。
 そして個別論として、ことホワイトプルームマウンテンについていえば、「相手がネタを知っていること」のメリットは「相手がネタを知っていること」のデメリットをはるかにうわまわります。
 砕いて言えば、時間があいていれば記憶は「坊主とえりまきがかっこよかった」とかになってて個々の部屋のしかけは忘れてる筈なので大丈夫です。そして小説版のメイン悪役はアドベンチャーに出て「きません」。従って大事なのは直前に読まさないようにすることだけです。事前に「しばらくよむな」とか言うときましょう。

小説をどう参考にするか:

 小説とアドベンチャーの両方に目を通した人は、両者の序盤と終盤が大きく違うことに、必ずや気づいているはずです。そしてそれは、「この小説が原則として一巻完結モノだからだ」と言うこともできます。また、「このアドベンチャーは素材だからだ」と言うこともできます。
 「多くのゲームでシナリオと呼ばれるものがD&Dでアドベンチャーと呼ばれる」理由のひとつは、それが芝居や映画のシナリオにはあまり似ておらず、むしろ冒険(アドベンチャー)の舞台を定め大枠を示すものであるから、ではないかと思います(あくまで私見です)。
 このアドベンチャーを単発でプレイするなら、この素材は素材のまま使ってもじゅうぶん面白いです。しかし素材に手を加えてみるのもいいです。小説版オリジナルの悪役をそのまま登場させるのもいいですし、「この小説版の悪役とこのアドベンチャー版の親玉の関係はどんなふうになるだろう」という点についてあなただけの考えをめぐらすのもいいです。その考えはきっと小説版作者の考えたことといくぶんか似ているに違いありません。
 いっぽう、このアドベンチャーをキャンペーンの一環としてプレイするなら、この素材をどう改変すべきかというヒントは、これまでのキャンペーンの中にすでにあります。因縁のある敵がダンジョンの前や中や外で待ちうける(ちょうど小説の悪役のように)というのもいいでしょう。
 3つの宝物の1つをまさにPCの求めてきた宝物に入れ替えるというのもいいでしょう。その考えはきっと小説版作者の考えたことといくぶんか似ているに違いありません。「特定アドベンチャーをモチーフにした小説」を読む楽しみの一つはまさにここにある、のではないかと思います(あくまで私見です)。

おまけ:その他のD&D電子書籍とD&D第5版の関係

 今回電子版で復刊されたD&D小説は、『ホワイトプルームマウンテン』以外にも複数あります。こちらのウェブページをごらんください。

 そしてD&D第5版はこれらのD&D小説の多くと浅からぬかかわりがあります。
 『大口亭綺譚』の多くのアドベンチャーや『魂を喰らう墓』はドラゴンランス世界に移植可能であり、その方法についてもアドベンチャー内部のコラムに記してあります。
 しかしいっそう特筆すべきはフォーゴトン・レルム世界モノ、特に小説『ダークエルフ物語』シリーズの存在です。その存在はD&D第5版にとって双方向的に有益です。砕いて言えば、RPG版のファンにとっても小説版のファンにとっても、あわせて読むといっそう面白くなります。
 フォーゴトン・レルム世界、特にアンダーダークを舞台にアドベンチャーを作成し運営する人にとって『ダークエルフ物語』シリーズは「おさえておくとすごくべんり」なものです。逆に、フォーゴトン・レルム世界を舞台にしたあらゆるD&D小説にとって『ソード・コースト冒険者ガイド』(以下SCAG)は有益な副読本です(扱う時代は今回復刊されたどの小説よりもSCAGのほうが後ではありますが)。特に『ダークエルフ物語』シリーズが好きな人にはSCAG第2章のハーフオークがアンダーダークにつれてゆかれる話は読んどくと必ずや面白いはずです。あと実はこれから出るアドベンチャー『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』にはダークエルフ物語の大人気悪役某氏が出演予定で乞う御期待です。

 D&D電子書籍とD&D第5版はあわせて読む/あわせて使うことでいっそうおもしろくなります。これからもどうぞあわせてお楽しみください。

文:桂令夫